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カナミックネットワークの投資分析

今回は介護事業所向けクラウドサービスを提供するカナミックネットワーク(3939)の投資対象分析をしていきます。(2024年5月11日更新)


会社概要

カナミックネットワークは2000年10月に設立されました。
元々広告業界にいた創業者で現会長の山本稔氏が介護保険のテレビCM作成に携わったことで介護業界のことを知り、介護に関するサービスを作ろうと介護をダイナミックに変革していくという想いを込めて「カナミック」というサービスを開発しました。

介護保険の制度がスタートしたのが2000年4月ですので黎明期から介護保険事業に携わってきている業界では老舗企業です。

現社長の山本拓真氏は創業者の長男で東海大学工学部を卒業後、富士通のエンジニアとして働いていました。過去のインタビューでも発言されていますが、家業ということもありカナミックの仕事には古くから関わってきており、最終的には富士通を退職され2005年にカナミックに参画し取締役を務め、2014年に社長に就任しています。

2016年にマザーズ(現東証グロース)に上場、2018年に東証一部(現東証プライム)しているため会社が大きくなるフェーズに携わっており創業者のような存在感を放つ方です。

カナミックネットワークの事業は?

カナミックネットワークは医療介護のDX領域の事業を主力事業として展開しており、サービスとしては介護事業者向けの業務ソフト「カナミック」の提供と24時間ジム「アーバンフィット24」、Ruby言語の受託システム開発「Ruby開発」3の事業を展開しています。

介護ソフト「カナミック」

カナミックはクラウド型の介護業務ソフトで、顧客である介護施設は運営で必要なあらゆる事務業務をカナミック上で行うことができます。

介護事業所は民間と違い売上の大半を介護保険から受け取ります。そのため、厚生労働省から運営基準は厳格に定められていて介護サービスを利用した利用者の利用実績をつけ、ケアマネージャー、サービス提供事業者などの様々な事業所と実績を連携させ、最終的に国保連と利用者にサービス利用に応じた利用料を請求をします。とても複雑なやりとりが発生します。

その複雑な処理をクラウドで提供するのがカナミックです。
人手不足が叫ばれる介護業界では業務の効率化が叫ばれています。現場では人ができることは人が行い、事務処理など人手を介さなくても顧客満足度を下げないものの効率化が当面の最優先事項です。そこで介護ソフトの導入は国も導入を推奨しており補助金を一部出すなどカナミックにとって追い風です。

カナミックの強みは?

カナミックネットワークの社長のIR動画で確認したところ、推定で大小合わせて100社以上の競合がいると言われています。その中でカナミックは業界でも上位のシェアを確保しており、特に数十〜数百拠点を展開する大手企業に支持されています。導入実績としては小規模の介護事業所から介護業界最大手のニチイやHitowaホールディングス、リエイなど数百拠点を運営するような企業に多く導入されています。

その理由としては

  • フルラインアップ

カナミックはあらゆる介護サービスのシステムをフルラインアップで揃えています。

介護事業所と一言に言ってもその種類は多岐に渡り、パッと上げるだけでも
「デイサービス」「訪問介護」「訪問看護」「小規模多機能型居宅介護」「看護小規模多機能型居宅介護」「居宅介護支援」「定期巡回」などそれぞれ提供するサービスが異なります。現場のサービス内容が異なれば介護ソフトもそれぞれのサービスに応じて作り込んでいかないといけません。

競合となるサービスは多くデイサービスだったらエスエムエスのカイポケ、訪問看護ならiBowなど上場企業でも勢いのあるサービスが乱立しています。ただ、評判の良いシステムを提供している会社もフルラインアップではサービスを提供していません。

例えばデイサービスを1拠点経営している企業であればカイポケで事足りますし、訪問看護のみを経営している企業であればiBowでも問題ありません。

ただ、デイサービスが10拠点、訪問看護が10拠点、グループホーム、小規模多機能が5拠点というような複数事業を多角的に経営する大手介護企業になる場合、カナミックのようなフルラインアップのサービス以外選択肢がなくなってきます。

大手企業は請求業務などの管理業務は本社で一括管理をするケースが多いです。その際に部門毎に使っているソフトが異なると管理が煩雑になります。多少システムの使いやすさなど競合と優劣はあるかもしれませんが数百事業所の管理コストなどを勘案するとカナミックを導入することによるメリットのほうが大きいわけです。

そしてフルラインアップで提供している企業はほのぼのを提供するNDソフトウェア(SOMPOホールディングス傘下)、ワイズマン、日立システムの福祉の森など数社しかありません。

さらに、介護ソフトはもともとPCにインストールするパッケージ型が主流でクラウドサービスからスタートしたサービスはカナミックのみです。昨今では各社クラウドサービス版の対応を開始し始めたところもありますがクラウドでずっとやってきたカナミックはフルラインアップであることに加えクラウドサービスというところに競合との差があります

介護業界は3年に一度法改正があり、医療業界は2年に一度法改正があり、その度に新たな制度に合わせたシステムの開発が必要になります。

業界の情報のキャッチアップ✖️システム開発力✖️開発体制(人員の確保)を備えていないとこの業界の動きについていけず、新規参入することが年々難しくなっています。

後発の参入企業は訪問看護に特化、デイサービスに特化など事業を絞って開発しないとカナミックなどの大手介護ソフト企業には勝負ができない状態です。

  • 地域連携

地域の医療機関や自治体、介護事業所でそれぞれ使っているソフトが異なるため利用者の情報を共有しようにもFAXや電話などとてもアナログな手法でやりとりをしているのが現状です。

カナミックは利用者を中心とした他職種の情報共有の機能も持っており、介護現場で入力した利用者の情報をその患者に関わる医師や地域の専門職が見ることができ、共有することができます。

介護現場、病院、地域包括、ケアマネージャーと他職種をつなぐ機能がカナミックの大きな特徴でこの機能があることで自治体への導入が進んでおり、自治体導入後、導入された地域の介護施設からの受注を獲得しています。

この連携機能を子育て領域にも活かし虐待防止などの地域課題の解決に活用しています。

  • プラットフォーム

カナミックの強みは3万事業所に導入されあらゆる介護事業所の基幹システムとして機能している点です。そこから事業所で抱えるあらゆるDX関連の仕組みを展開しています。

例えば請求書の封入業務などもシステムから連携してカナミックに発送までを丸々委託することもできます。

これらのサービスをサブスク課金で提供しており周辺サービスで単価を上げている点がビジネスとして強い点です。

規模は小さいもののカナミックユーザー企業に対するプラットフォームサービスは年々伸びています。

  • 収益性

カナミックはクラウド型のサービスですので導入社数が増えれば増えるほど収益性が改善していきます。カナミックは既に損益分岐点を超えており利益の収穫期に入っています。

つまり追加の売上はほぼ利益と考えることもできます。

仮に追加で10000事業所と契約をしてもカナミックのシステムは既に開発されていますし強いて言うなら契約に伴う営業とサポートの負荷に加えサーバーの費用くらいしか発生しません。

23年9月の決算では売上36億円に対し、営業利益11.5億円と30%近い利益率を誇っています。

これからも事業投資はしていくかと思いますが利益率はどんどん向上していくビジネスモデルです。

今後の成長性としてまだまだ介護事業所には課題が残っており周辺サービスを整えれば収益の向上が十分見込めます。

カナミック事業のまとめ

カナミック事業をまとめると

  1. 介護施設にはなくてはならない基幹システムであり、業務はカナミックなどの介護ソフトを中心に行われる。

  2. フルラインアップのサービスはカナミック含め数社しかなく大手介護事業所の管理体制を考えると選択肢は数社のみ。その中でクラウドサービスを創業以来提供してきたのがカナミック。他はパッケージ型から最近クラウド対応し始めたところ。

  3. 介護保険と医療保険の改正に開発体制がついていけるのは相当大変で訪問看護特化のシステムなどの新規参入はあるがフルラインアップに対応できる企業は出てこないと予想。

  4. 既に収益化に成功し、利益率は高い。介護業界のDX化はまだ始まったばかりでこれからどんどん付帯サービスを顧客に提案できる。

  5. 課題として国内の市場が限定的であり、カナミックのシェアを考慮しても売上100億円に届くかわからない。海外展開も視野にいれているが未定のストーリーでありうまくいくかは全くわからない。

健康寿命延伸サービス

次に24時間ジムを運営するアーバンフィットです。アーバンフィットは2022年6月に大阪で13店舗を運営する24時間ジムアーバンフィットを買収しカナミックのグループ入りしています。

買収後は出店計画の加速とカナミックのシステム開発力を活かし食事管理やトレーニング記録、パーソナルトレーニングの予約ができる「健活コーチアプリ」のリリースなどどんどん手を打っています。

2030年までに100店舗展開を目指し出店攻勢をかけているため、まだ収益性は確保できていませんが、買収する前のアーバンフィットは営業利益率も16%以上と高く、ジムの出店が落ち着き、会員基盤も安定するころのは高収益の事業に育っていると予想を出しています。

ちなみに2020年時点では売上399百万円、営業利益66百万円、純利益32百万円と営業利益率は16%です。

その一方、2023年は売上845百万円、営業損失46百万円、純損失35百万円と出店に伴い赤字に転落しています。

24時間ジムの業界では1店舗あたり600名の会員がいれば良いほうらしいですが、アーバンフィットは出店一年後の平均で921名の会員がいるとのことです。月額プランが8140円、その他パーソナルなどもあることから平均客単価を8500円と仮定すると1店舗の平均月商は7828500円。

100店舗展開すると月商7億8285万円、年商約93億円ほどの規模になると想像できます。このうち直営、フランチャイズがそれぞれ何件になるかで収益構造は変わってきますがトップの売上規模としては同社にとって売上高比率の最も高い事業に成長すると予想します。

株式会社Ruby開発

2023年7月17日にプログラミング言語のRubyでのシステム開発に強みを持つ株式会社Ruby開発を完全子会社化すると発表し8月4日に連結子会社に正式になる予定です。受託開発ビジネスですので収益性などは高くありません。

直近の売上は4億9879千円営業利益は791万円とカナミックの業績に与える影響は売上はプラス、営業利益率はマイナスでしょう。

買収規模は4億8150万円となっており純資産に対して6.2倍もの金額で買収をしたことになり、買収金額としては高めかなとは思います。

カナミックとしては業界のDX化を推進するための開発力の強化(人材獲得)を目的とした買収かと思います。

シンガポールのシステム開発、SAP導入コンサル企業を買収

2024年10月にシンガポールのIT企業の買収を発表しました。
同社はバックエンドシステムの開発が強く、シンガポールの大手企業からの受託開発も多い企業とのことで、カナミックの海外展開と既存のシステムのバックエンドの開発を強化する狙いがあるようです。

しかし、本体の社員が100人にも満たない会社で、英語が使え、シンガポールの企業をマネジメントできる人材がどれほどいるのでしょうか?という規模が小さいうちは本業の周辺事業を太くするのが鉄則ではないかと私のような人間は思うのですが、フィットネス、海外ととにかく飛地の買収が多いように感じます。今後マネジメントがうまく機能するのか注視してみていきたいと思います。

既存事業の売上、利益、時価総額予想

簡単な試算ではありますがカナミックの成長性、フィットネスジムの売上上限から推測するに売上100億円営業利益20億円というのは5年ほど先の将来には見えてくるかと思います。

その先については海外展開や新たな買収などを追っていく必要がありますね。

5年後に新たな成長戦略があれば時価総額は500億円以上。
カナミックとアーバンフィットのみの既存事業のみ大きな成長ストーリーがない場合は時価総額350億円〜400億円ほどで落ち着くのではないかと予想します。

特に海外展開で実績を出し始めることができたら数千億円の時価総額も夢ではないかと思います。

カナミックネットワークの懸念事項

介護業界ではトッププレイヤーだがユニコーン企業と比較するとサービスのUI、UXは改善の余地が多い

例えばマネーフォワードやFreeeのようなユニコーン企業を見てみるとサービスを知るまでのマーケティングのレベルが高いです。想定できる潜在顧客が調べそうなあらゆるキーワードに対しオウンドメディアで集客し、webサイトのデザイン性も高いです。

カナミックはサービスを使った上でのUI,UXも一般消費者向けサービスと比較すると使いにくい部分が多くまだまだ改善の余地があると思います。

同族経営

カナミックの経営陣は会長が創業者、副会長が創業者の妻、社長が長男、副社長が次男という山本家が経営しています。

創業から関わっているメンバーが残っているので結果として優秀な経営者であることは間違いないかと思いますが、経営陣の流動性という意味では長年同族のメンツが残っているというのは、同社で活躍したいと思う優秀な社員にとってネガティブに働かないかというのは心配な点です。(出世の限界が見えてきてしまうため)

現社長は創業者の父の長男であり株式も保有しとても優秀な方です。

医療介護サービスは伸びる余地が多いが、売上高が50億にも満たない段階でフィットネスを運営して経営のリソースが分散されないか?

カナミックの事業は日本の数少ない成長産業を支えるビジネスで、競合の中でも高いシェアを持ちとても良いビジネスです。

まだまだカナミックとしてやれることも多くありますし、介護事業所の課題解決に向けて付帯サービスの伸び代は大きいです。

その中で参入障壁があまり高くなく、出店コストも高くつくフィットネス事業を展開したわけですが経営のリソースが分散されることが懸念です。

業界で圧倒的トップシェアを持ち売上規模も数百億円に達した段階で他の事業に参入するのであればわかるのですが50億円規模で参入するにはちょっと早すぎではないかと思います。

この時期に買収するのであれば競合の介護ソフトや介護領域の事業会社へのM&Aが適切だったのではないかと思います。

例えば介護施設の研修を運営している会社や業種特化型の介護ソフト運営企業、介護施設へのスポット人材派遣事業などを買収するほうが筋が良い気もします。

まとめ

カナミックは介護業界のDXを支える重要な事業を展開しておりかつ業界でも良いポジションにいます。

経営者もとても優秀で若い。
業績は好調、ビジネスの展開の方法も広告費をほとんどかけず集客できておりユニークで他にはない魅力があります。

一方、まだまだ成長余地のある主力事業を経営しながらもフィットネス事業に参入してきたことは功をそうするか数年かけて見ていく必要があります。


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