おれはなんとなく『HELLO WORLD』を観たが、その結果気がついたらスピンオフ小説『HELLO WORLD if ――勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする――』をめちゃくちゃ気にっていた
■ちょうどいま、アマプラで『HELLO WORLD』がやっている。何となく見てみたが、なんかこう、ダメってほどでもないけどちょっと微妙な感じが。。まあ正直な感想ではある。
■お話としては、近い将来悲劇に遭うヒロインの運命を変えるべく、未来からやってきたガイドと主人公が動くというスタンダードな時間ものを基礎としつつ、仮想現実的な設定をいれて多少ひねったSF世界での青春もの。
やや説明不足だったのか、結局どうなったの?的な感想もあるみたいだが、SFに慣れていれば、一回観たらメインストーリーは把握できるぐらいのわりとシンプルなもので、設定だけでメシが3杯は行けるような類の気合の入ったSFというわけはない。一応、先の展開や世界のナゾを考えさせて楽しませるような要素はあるのだが、全体としては、これはやはり、主に少年の成長の物語としてみるべきなんだろうなという感想を持った。
■そういう視点で見ると、やや物足りないところがある。未来からガイドがやってくるタイプの話なので、もちろん○月○日にこういう行動をとって、ヒロインと仲良くなれ、的なことをやっていくわけなのだが、主人公が、なんかよくわからないが、とにかく普通に話を受け入れすぎていて、いやおまえそこはもうちょい葛藤しろよ、みたいな違和感がどうしてもぬぐえなかった。
おそらく、人物の内面みたいなものの描写がタンパク過ぎるのだろう。もう少し、いやそんなよくわからない話は聞けないとか、そういう正解を知ってるからみたいな行動は卑怯だとか、そういう心情があってもいいし、例えば、そうしてガイドに反する行動をとっても、未来が変わらないようにつじつまが合わせられてしまう、どうしてもヒロインと出会ってしまう、みたいな一抹の不気味さを描いたうえで、つまり、この恋は運命なんだ的なことを感じさせるのもありそうだし、ということはヒロインを悲劇的な運命から救うためには、そうとうな困難を乗り越える必要があるに違いない、と印象付けるとか、もうちょっとなんかあったんじゃないかということを考えてしまう。
なんかよくわからないけど、かわいい子と仲良くなれるぞラッキーみたいなのは、一周回って、おれもおなじシチュエーションだったらそうしそう、という妙な共感はなくはないのだけど、逆に、そんなカジュアルな感じで本当にヒロインを救うために命をかけれるのだろうか?身を削るような努力をして成長するという物語として十分と言えるのだろうか?という疑問を持ってしまう。いつの間に、そんなに本気になったの?みたいな。
青春ものなので、地味な主人公が少しの勇気と恋愛を通じてちょっと変わって前向きに強くなれた、みたいなところはそれでいい、というか、そうじゃない話はむしろ別にいらないわけだが、なんというか、だからこそ、そこは丁寧にやってほしいところでもある。人物の描き方というのは大事なんだなあ、ということを感じた作品であった。
別にそんなに尺が長いわけでもないし、もうちょっと色々盛り込めたんじゃないかなあ、というもったいなさみたいなのを感じているのかも知れない。
■しかし、だからと言って、『HELLO WORLD』を観なくていいと言うことにはならない。なぜなら、『HELLO WORLD if――勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする――』という素晴らしいスピンオフ小説があるからだ。これを120%楽しむためには、まず映画を観ておく必要がある。
アニメ映画『HELLO WORLD』に登場した脇役「勘解由小路(かでのこうじ)三鈴」。行動力のあるかわいいアイドル系キャラで、序盤でグイグイ出てくるので、きっとこいつがなんかひどいことをするとか、とんでもないカギを握っているのでは?と期待させるのだが、これといった見せ場もなく、後半はほとんど出てこなくなるという、役割がよくわからないナゾの賑やかしめいたキャラである。
『if』はそんな「三鈴」の「実は」が語られる、もしもの物語。そうそう「実は」がこのキャラには必要だったんだよ!と思わせる時点で、本を手に取らせるには十分だ。
■スピンオフ作品であるが、おおもとの話はほぼ変わらないので、読者は予め話の結末を理解したうえで物語の世界に入ることになる。しかも、タイトルに「世界で最初の失恋をする」と書いてある時点で、もう8割がた話のスジはわかっているようなものだ。つまり、この作品の魅力はそこではない。映画とは逆で、話の展開で読者を引き付けていくのではなく、お話の中で主人公「三鈴」の心が動いていく様を味わって楽しむ。それが「if」という作品である。
■ともすれば、ドロドロしがちな思春期ものだが、本作は重すぎないタッチで描かれていて、なんというか、過不足がない。王道青春ものにふさわしい清々しさ、爽やかさのようなものを湛えている。描写があまりごちゃごちゃしないところが、主人公の真っすぐさを引き立てるようでもあり、成長を素直に応援したいという気持ちにさせる。
これといって奇をてらうところもなく、そんなに意外なこともない物語なのだが、読後の、こういうのでいいんだよ!こういうので!という感想は格別である。強いて言えば、そこに一番驚かされるかも知れない。話の結末が見えていても、描き方が適切であれば、いくらでも作品として成立させることができる。そんなことを存分にわからせられる。
スピンオフ作品が、本編映画の作品として足りない部分を補って余りあるものになっているというのはやや皮肉ではある。映画が物足りないから、「if」の良さが引き立つという言い方もできなくはないからだ。とはいえ、そんな素晴らしい「if」を味うためには、まずは映画からだ。どっちが良いとかはこの際どうでもいい、2つをセットにすることで全体がより素晴らしいものになることだけは間違いないからだ。
ありのまま話せば、スピンオフだと思って読んでみたら、いつのまにかこれが「本編」なんじゃないかと思っていた。そんな恐ろしいものの片りんをぜひ味わって頂きたい。
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