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八千代エンジニヤリング様 〜 AIによるインフラ維持管理の高度化への挑戦

日本の社会インフラの設計・施工管理を担う建設コンサルタントの八千代エンジニヤリング様。同社は近年、インフラの維持管理業務におけるAI活用を推進し、建設業界のDX化を牽引している。同社 技術創発研究所のAI解析研究室で室長を務める藤井純一郎氏と研究員の都築幸乃氏に、建設業界におけるAIの活用状況と、同社の取り組みについてインタビューにご回答を頂きました。

建設業界におけるAI活用の障壁とは

藤井氏によれば、建設業、特にインフラの維持管理分野におけるAI活用の障壁は「データの質と量の不足」だという。
「例えば、橋梁では5年に1度の近接目視点検が行われていますが、その間の期間のデータは限られます。また点検記録の文章や画像は技術者による個人差が大きく、必ずしもAIでに適していないのが実情です。」
人口減少に伴う熟練技術者の不足も、業界共通の課題だ。
「ベテランの勘と経験に依存した属人的な点検を、いかにAIで代替するか。インフラの安全性を担保するには、AIによる点検の自動化・効率化が不可欠と考えています。」
八千代エンジニヤリングがAI活用の本格研究に乗り出したのは2018年。社内に「AI解析研究室」を新設し、土木の現場ニーズを起点としたPoC(概念実証)を推進してきた。
「立ち上げ当初は手探り状態でしたが、土木の課題をAIで解決する知見を着実に積み上げてきました。」と都築氏は振り返る。
「研究員7名の半数は土木のバックグラウンドを持ち、残りがAIやデータ分析の専門家という多様な顔触れです。課題の本質を理解した上で、いかに最適なアルゴリズムを組み立てるかを議論しながら開発を進め、最終的には事業化に繋げていくことを目指しています。土木業界にはAIの導入に懐疑的な方々も多く、論文の発表などを通じて、AI活用の機運を高めていくこともミッションとしています。」

様々な土木系プロジェクトにおけるAI適用を検証

AI解析研究室が取り組んだ事例の一つが交通量調査だ。渋滞対策を検討する上での基礎データとして使われるなどする。
「5年毎に行われる全国的な交通量調査の道路交通センサスにおいては、国土交通省の定める車種区分別のカウントが必要になりますので、それに対応するために自前のデータを作りモデルを学習させてました。これに加えて、自動車の右左折の認識などにもAIを活用した検出技術を応用しています」

また、オブジェクトディテクションとトラッキングを組み合わせ人流解析にも取り組んでいるそうだ。
「人流解析に基づいて、街づくりにおける歩行者天国や緑化による影響を推定し、自転車と歩行者の錯綜などの少ない『ウォーカブルタウン』と言われる歩行者にやさしい街づくりの施策検討に役立てることができます。」

また、防災関連の事例として、監視カメラで取得されたデータの解析においては、大量の監視カメラの中から異常が起こっている部分を抽出し、ユーザーにアラートを通知するなどの結果を得ている。

AIを活用した交通量調査のイメージ

Weights & Biasesの導入で実験を効率化

AI開発の生産性を高めるMLOpsの取り組みも欠かせない。八千代エンジニヤリングは実験管理ツールにWeights & Biases(WandB)を採用し、開発を加速させている。
「当社は2023年からWeights & Biasesを導入し、実験の経過や評価指標の推移を一元管理しています。」と藤井氏は言う。
「以前は研究者それぞれがバラバラのツールで実験を行い、再現性の確保が難しい状態でした。Weights & Biasesに統一したことで、実験の比較検証がしやすくなり、開発スピードが上がりました。」
都築氏も「実験の履歴をトレースしやすく、メンバー間の知見共有も容易になりました。」と効果を評価する。
「若手の教育にも役立っています。Weights & Biasesを起点としたMLOpsの文化が社内に根付きつつあります。」

河川の点検におけるWandBの活用事例

インフラの維持管理にAIを活用する別の試みとして都市河川の護岸の例もお話しいただいた。
「地震が起きたり、洪水が起きると、ひび割れや剥離といった変状が増えることがあります。災害後に現地で写真を撮るだけでブロックを検知し、それぞれのブロックが正常なのか異常なのかを判定し、補修箇所を迅速に判断することを目指しています。」
このプロジェクトでは、VAEという画像生成モデルを使って、異常検知を行っている。最終的にはブロックの正常・異常を判定するモデルを構築したいのだが、異常データは比較的少ないので、正常データのみを学習する教師なし異常検知が可能な手法として採用した。

W&B上で、生成された護岸のブロックの写真を確認

正常な護岸ブロック画像を学習したモデルを用いて異常検知を行うのだが、「VAE以外にも異常検知をするための手法はいくつか種類があり、それぞれの異常検知結果を可視化し、各手法の特性や精度を視覚的に検証する必要がありました。」と都築氏は言う。

複数の異常検知アルゴリズムの結果をWandB Tablesで横並びで比較

「このような異常検知結果の比較は、WandB導入前では、いちいちコードを書いて表示したりワードドキュメントに一つ一つコピペしたりするなど骨の折れる作業でした」

研究成果の事業展開に向けて

加えて、AI人材の育成も大きなテーマだ。
「専門性の高い人材を多数獲得するのは容易ではありません。土木のドメイン知識を持つエンジニアをいかにAI人材に育てるか。地道な社内の技術移転にも力を入れていきます。」
八千代エンジニヤリングは、土木分野で培ったノウハウを強みに、建設業界のDXをけん引する存在だ。
インフラの安全・安心を支えるイノベーションの進展には今後も注目が集まるだろう。


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