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深作欣二監督「脅迫(おどし)」_凶悪犯との四十八時間。恐怖と暴走。

生涯に62本の映画を撮った深作欣二監督にとって、1966年公開、11作目の作品。この時点で既に、1973年の28作目「仁義なき戦い」の萌芽が見えている:男だけのざわざわとした確執と抗争の混沌の世界。
言ってみれば「日本のペキンパー」が作った「わらの犬」だ。

ある日突然、凶悪脱獄囚という闖入者に見舞われたとしたら、そして脅迫されながら幼児誘拐の片棒を担がされたとしたら……。
恐怖と戦いながら凶悪犯の手先にならざるを得なくなった男の四十八時間をドキュメンタリータッチで描破。深作欣二監督が、緊迫感たっぷりにスリルとサスペンスあふれる演出で描いた犯罪ドラマ。
CAST
三国連太郎、春川ますみ、保積ペペ、室田日出男、三津田健、西村晃
STAFF
企画:秋田亨
脚本:深作欣二/宮川一郎
撮影:山沢義一
音楽:富田勲
監督:深作欣二

東映ビデオ公式サイトから引用

出世街道をゆくサラリーマン・三沢(演:三國連太郎)の家に、癌の権威者・坂田博士の孫を誘拐した兇悪脱獄囚・川西とサブが逃げこんできた。彼らは三沢の家族を人質にして、博士の孫の身代金一千万円を受け取ってくるよう三沢に命じる。三沢は狂奔する。

群像劇の名手、役者を最高のテンションへの乗せる天才=深作監督は、自身の才能を発揮する。つまりは、脱獄囚、西村晃演じる川西と、室田日出男演じるサブの存在感が、凄まじい。
西村晃が知恵の回る親分、室田日出男が性欲と金欲しか頭に無い子分を演じる。どちらも悪い虫には違いないが、理性がない分、子分の方がやっかい。
自分たちが誘拐してきた赤ん坊(坂田博士の孫)がぐずるのを罵倒し、一家の主人と親分がいぬ間に貞淑な奥さんにまたがって犯そうとする(幸い未遂に終わる)
のちに「魔界転生」「ぼくらの七日間戦争(のフーテン)」で演じた怪物的存在感で、「2代目黄門様」西村晃と「どちらが悪どいか」張り合ってみせる。


もちろん、三國連太郎が、たかが脇役2人に存在感を喰われて終わるはずがない。「幸せを踏みにじられる」一家の主人=三沢が、ただやられっぱなしで終わるはずがない。仁義なき戦い。やられたら、やりかえせの精神だ。
悪党二人は三沢をメッセンジャーにして、坂田博士から身代金を受け取ろうとするその目論見は成功するのだが、さあ、悪党二人に金を渡す段となって、三沢はとんだスタンドプレーを見せる。
悪党二人が三沢の母子を人質に取って車に待機している中、三沢は最早恐るものは何もないと、堂々と挑発的行動。
まずは、苛立ったサブひとりをおびき寄せると、裏路に引き込んで、なんども、なんどもフェンスに彼の頭を打ち据える。
呆然と恐怖と相半ばしてそのままのびてしまったサブを置いて、今度は川西の元へ向かう。三国は堂々と車の目の前に姿をあらわすや、それも一瞬、車の下に転がり込んで、姿を見失った川西が慌てて車外に出ようとしたところ、その右腕を引き摺り込み、車のドアでなんどもうちすえる。川西が振りほどこうとするも、三沢は噛り付いて離れない。ようやっと組み解いたところ、川西は逃げ出す(そして放心状態で線路に飛び出した所、機関車に撥ねられて、死ぬ。)
地べたを這いずり回らせるような演出、カメラワークが、たまらない。

さんざ悪党二人の傍若無人に我慢してからの大反撃、ここで三沢=三国連太郎は、まるで故国を捨てて草の根分けて親の敵を追い続ける、敵討ちのサムライたちのような執念深さ。ぞっとさせられるほど「凶暴」だ。


そして、深作演出には、この頃から「仁義なき戦い」の助走がある。
荒い粒子のフィルム撮影、手持ちカメラの躍動、小気味好くも小刻みな劇伴の震え、細かく丁寧に編集されたスピードのある擬闘、そして何より:勧善懲悪超えてアクの強さで張り合う主役と悪役。
これらが、カラーフィルムの中ではなく、白黒画面の中に凝縮される。
本作の3年前に公開された「天国と地獄」の延長線上にある、臨場感溢れる生々しい迫力で、今なお、見るものを圧倒する一作だ。


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