男と女が、するりと抜ける、互いのしっぽを追いかけ合う、88分。「洲崎パラダイス 赤信号」
東京洲崎遊廓の入口の飲み屋を舞台にした、しかしまったくエッチじゃない、「赤線」も「ぬけられます」も存在しない、不思議な世界観。
人物名ヌキでストーリーを要約すると、こうだ:
根無し草の男と女がいる。二人は口が悪いながらも、互いを好き合っている。
東京湾近くの場末の街:洲崎に流れてくる。
二人は今度こそ此処に終の住処を見つけようとするが、そこは「結婚した途端そりの合わなくなるカップル」のようなもので、腰を落ち着けた1日目にさっそく喧嘩別れする。
別れた二人は、それぞれ好みのタイプ、「堅気の真っ当な仕事をしている」お相手を別に見つける。
しかし風に転がる心には、地に足ついたくらしも安定安全を絵に描いたような人間も、どちらもどうにもしっくりこない。
やはり元の鞘に戻ろう。すると、会えない運の悪さ。延々とすれ違いを繰り返す。
二人が互いを諦めようとしたところで、土砂降りの夜がやってくる。二人はそこで偶然にも落ち合う。
1日目のことは路傍の溝へと雨水で流し、腐れ縁のふたり、また何処かへと去って行く。
一言で片付けるなら、「男と女が互いの尻を追いかけ合う話」。
洲崎+パラダイス+赤信号という組み合わせが醸し出すインビなタイトルから期待しても、濡場はおろか劇的な展開ひとつない。あるのは、永遠とも思える巡り合わせの悪さ。
それなのに、1本の映画が出来上がっている。
それだけで、88分持たせている。恐ろしいことに。
そんな風に、人間のあるがままの姿をさらっと語ってみせる、巨匠の映画だ。
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