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1988年金獅子賞受賞作「聖なる酔っぱらいの伝説」_パリのショート・ショート。

パリ・セーヌ川の橋の下でホームレスとして暮らすアンドレアスはある日、不思議な紳士と出会い、彼から200フランの金を与えられる。…ただし、日曜日の朝に聖テレーズ像のある教会でミサの後に金を返すという条件が付いていた。

上に挙げるトレイラーが、そのやり取りの部分にあるのだが、ベレー帽を被った方、アンドレアスに注目してほしい。
強い意志や憎悪といったものとは無縁な、人生の困難にこれまで真向からぶつかったことのない、偶然に身を任せてこれまで生きてきた 顔をしている。

それは「無欲」とは違う。
懐が暖かければラム酒 入りのコーヒーを注文するし、他人と同じような札入れが欲しくなる。暖かい浴槽に身を横たえて喜ぶ。(ついでに洗濯もする)
「恥知らず」でもない。
久しぶりに 鏡に写った自分をみてギョッとすることはあるのだから。
まるで、星新一のショート・ショートから飛び出してきたかの様な、ただの善良な人間。だから、「最初の200フランを返す」約束だけは律儀に守ろうとする。

しかし、毎週日曜日のミサへ向かう道すがら、
そういう時に限って、偶然、人と出くわすことで、途絶してしまう。
どうしても、目の前にある人を優先してしまうのだ。
昔の女との再会。
学校時代に席を 同じくした名を馳せたサッカー選手との偶然の出会い。
巡業ダンサーとの邂逅。
肉体労働をしていた時代 のあまり質のよくない男(カモにされる)。

それでも、「返す」という気持ちだけは忘れない。
意を決して最後、日曜日の朝に聖テレーズ像のある教会にお金を返しにきた時、
彼は、息絶える。信仰心を取り戻しながら。

いかがだろう?
つまりは、エヌ氏が偶然の中に紛れ込んだような、
あたかも「星新一の短編集をさらりと読んだ後訪れる」不思議な味わい。
御伽噺のような、寓話的な長編なのだ。好みは分かれるに違いない。

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