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“私は自分の実力で勝ちたいんだ!”ブラック大魔王の元ネタのたまう“The Great Race(1965)”

「チキチキマシン猛レースの元ネタだよね。」
「現代人は、チキチキマシンなんて知りません。」

black, white, and pink. 冒険にロマンがあった時代を軽やかに楽しく、描いて。


19世紀、世界は急速に狭くなっていった。蒸気機関の発明がもたらした鉄道をはじめとする交通機関の発達によって、欧州、インド、アジア、アメリカ、またをかけた大旅行が可能になった。そこには、確実に見知らぬ世界へ飛び込む喜びがあり、物見遊の喜びを多くの人に知らしめようと、後世に残る冒険文学が生まれた:「八十日間世界一周」だ。

本作はそのノリを20世紀初頭、まだ出来たばかりのガソリンエンジンの時代に置き換えたものと言って良い。
ニューヨークからパリまで、自動車を使った一大レース。19世紀後期の煌びやかさはそのままに、登場人物たちは陸海空を自由に飛び回る。ここに旅情の愉楽があり、競走の愉楽がある。

白黒つけようとする、白いやつと黒いやつがいる。
ただマジメに順位を競うだけでは面白くない、だから、主役2名じゃれあいながら、憧れのパリ目指し珍道中を繰り広げる。

ぱっと見で分かりやすい、善悪二元論ではなく、好敵手という意味合いで。
白い車、白い服装が良い奴グレート・レズリー (演:トニー・カーチス)、黒い車、黒い服装が悪い奴 フェイト教授 (演:ジャック・レモン)だ。
黒い奴が白い奴にご執心、ビックリドッキリメカで一方的にちょっかいをかける。白い奴がそれを軽くいなす。いなしたおかげで、黒い奴が倍返しを食らう。全編これの繰り返し。ギャグのお約束は繰り返し。
もちろん同じばかりじゃ能がないから、手を替え品を替え。自動車で!潜水艦で!飛行機で!雪国に!最後の億万長者の国に!砂塵の果てに!大爆発!入れ替わり!パイ投げの大嵐! スペクタクル・コントは、どんどん、スケールアップしていく。

白い奴にちょっかいをかけるのは、黒い奴だけじゃない。
当時の社会運動・女性の権利拡大のムーブメントを意識してか、全身ピンク色でコーディネートした取材記者マギー・デュポア (演:ナタリー・ウッド)が同行する。彼女は白いやつと張り合いながら、スクリューボール式に次第に仲を深めていく。(そして、容赦なく、しんどい目に遭う。)

完璧超人で、存在自体がボケているトニー・カーティス。ウーマン・リブで、一度頭に血がのぼると止まらないナタリー・ウッド。常にバカ笑い、ジャック・レモン(withピーター・フォーク)。三つ巴の勝負は最終的に、(意外にも)僅差で黒い奴が勝利する。
しかし旅は終わらない。なぜなら、黒い奴が白いやつへリマッチを申し込んだからだ。このシーンからの引用。

Professor Fate: [having beaten Leslie] I am king! I am the king!
[sees Leslie and Maggie kissing]
Professor Fate: No, I'm not!
Max: What?
Professor Fate: I didn't beat him, he let me win! I can't win this way! I can only win one way, MY way! He let me win!
[angrily climbs on Leslie's car]
Professor Fate: You cheated! Cheated! I hate you! I refuse to accept! I won't win any way but my way! You've ruined my reputation, do you hear? You I hate! You and your hair that's always combed, your suit that's always white, your car that's always clean! I refuse to accept! I challenge you to another race!
[crowd cheers]
Leslie: Get off my hood!
Professor Fate: Another race!
https://www.imdb.com/title/tt0059243/quotes/?ref_=tt_trv_qu

旅というものは、人間的な成長その他、出る前と帰った後での変化が問われがち。
だが、この2人(3人?)の場合、帰りの旅も行きの旅と変わりはしない。
一方的に黒いやつがちょっかいかけて、白いやつがそれを軽くいなす(そして黒い方が倍ひどい目に遭う)終わらない旅、を予感させたまま、映画は幸福の中に終わる。

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