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「私自身を形作ってくれた故郷に、別れを言いに来たのさ。」_"The Last Movie Star"(2017)

バート・レイノルズ(Burt Reynolds、本名: Burton Leon Reynolds Jr.、1936年2月11日 - 2018年9月6日)。1970年代と1980年代に特に人気を博し、カリスマ的なルックスと魅力的なキャラクターで知られる俳優だった。アメリカでは。
むせかえるような男の魅力と黒い髪・髭の虜、そして人懐っこい笑顔で時の女性ファンを悩殺。女性誌の「コスモポリタン」でオール・ヌードを披露しこれも女性に大ウケ。
他方で、日本では、濃厚すぎるただの暑苦しいおっさんだった。

そんな彼の映画キャリアは、1972年に公開された映画「脱出」で本格的に始まり、以降、「ロンゲスト・ヤード」「トランザム7000」「キャノンボール」などのアクションコメディ映画、スポーツ映画など、数多くのヒット作に主演。70年代ハリウッドで、そのキャリアは絶頂を迎える。
相変わらず日本では、「なんでこいつが主役なの?」という、割とどうでもいい扱いのおっさんだった。

レイノルズは1980年代半ばから人気が急降下していく。体調を崩してから作品の質も低下、信じられない位のB級作品で悪役、脇役に甘んじる。ちょうどこれは、同じく「濃い男」チャールズ・ブロンソンの人気が、キャノン・フィルムズのB級アクション濫作で、下降線を迎えたように。
それでも、ブロンソンはレンタルビデオ店で「まーた、やってるよ」と、おもちゃにされる程度の集客力はあったが、哀しいかな、レイノルズはネタにすらされず、埋もれていった…。



それでもレイノルズは、キャリア末期でもなお、忘れられない名演技を披露する。それがポール・トーマス・アンダーソン監督「ブギー・ナイツ」('97)であり、かつ遺作である、本作だ。
「The Last Movie Star(ラスト・ムービー・スター)」。


物語は、ヴィック・エドワーズというキャラクターに託して、バート・レイノルズが限りなく自分自身に近い役柄を演じるという形式で進行する。

ヴィックはかつては人気のあるハリウッドスターでだったが、今は時代の移り変わりとともに過去の栄光を失い、寂れた存在となっている。長く付き添った愛犬とも映画冒頭で早くも別れる羽目となり、おまけに(レイノルズ自身が当時そうであったように)心臓に重病を抱えている。
ある日、彼はテネシー州の映画祭に招待され、自分を称える特別イベントに参加する。しかし、裏寂れた、路地で平気で人間同士が罵声を浴びせあう、人心が荒廃した田舎町における映画祭の内実は、彼が期待したような栄光や称賛とは程遠いもの:すでにリタイアしたおじいちゃん扱い、具体的には熱狂的な/あるいはそうではないファンの被写体にさせられている。過去の栄光だけの面白い人として、RTの対象にさせられている。

だからこそ、ヴィックは現実と過去の出来事に向き合わされる。
たとえば彼は夢に見る。70年代の一連のカーアクション映画で躍動する、スクリーンの中の自分自身の横:ファイヤーバードの助手席に座って語り掛ける:「歳を取ったらもうこんな無茶はできないぞ!」「歳をとる前に、今のうちに演技力を磨いておけ!」「スピードを落とすんだ!」
その、悪夢の中の叫びは、当然映画の中のヒーローには、届くことはない。

たとえば彼は被写体としてカメラのシャッターを切られる、フラッシュの光を何度も浴びる。
思い出すのは、20年前に主演した映画で、自身初のアカデミー賞を受賞した夜のこと。この時まだ61歳、演技派として自分はまだやれると思っていた…しかし、遅すぎたのだろうか。

実際、バート・レイノルズは「ブギー・ナイツ」の後の20年間のキャリアで、三度も、ゴールデンラズベリー最低助演男優賞にノミネートさせられてしまっている。


とはいえ、80歳を超した彼にとって、自身の過ちや後悔と向き合うことは「日暮れて道遠し」な伍子胥の境遇と同じ。
送迎の車は乱暴な運転、宿は安いモーテル、映画はスクリーンではなくプロジェクターで上映。規制も容赦もなくオーディエンスは撮影、SNSに拡散。インタビュワーはインタビュワーが尋ねたいことだけを尋ねてくる。
自分は大切にされていないおじいちゃんだ。
絶望から彼は、景気づけのバイアグラを一瓶飲み干してしまう、彼は悪夢へといざなわれる。


醒めた彼は、映画祭の途中ではあるが、予定を切り上げ帰途につくことに決める。帰りのハイウェイで目についた標識、「knoxville」という地名。ここのインターチェンジで降りろと運転手のレディに告げて、彼が向かった先は、巣立って以降、今まで二度と戻らなかった故郷。そこで彼が目にしたのは…。

この後のストーリーは、ぜひ皆さんの目で見てほしい。陳腐な表現ではあるが、共感未来への希望と再生のテーマが描かれている。
最後に、ヴィックが、スターとしてのペルソナを脱いで、一人の老い先短い老人として、自らの人生に対する本音を語った台詞を引用して、本記事を締めよう。

Vic Edwards: You wanna know I needed to come to knoxville, I needed to say goodbye, Goodbye to the town that made me who Iam, Goodbye to the trees I climbed as a kid, Goodbye to the school that tought me how to break the rules, and the streets I wondered late at night, the hidden places that I left all my secrets, The town where I made so many many mistakes, and now its time for one last goodbye.

IMDBから引用




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