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トップに命を託せるか?「八甲田山死の彷徨」。

まだまだ酷暑が続きます。 お寒い映画はいかがですか?
例えば、リーダーの判断ミスで、集団全部が全滅に追いやられる、とか。


いつどの時代でも、この国において(いや世界中の至る所で)この疑惑が何かにつけ拭きれないからこそ、四十年前に作られた本作は、今なお輝きを失わない。
人間の油断、甘えが生む、容赦ない悲劇の輝きを。

1971年、作家・新田次郎は、は、世界山岳史上最大とも言われる犠牲者が発生した、青森県八甲田山における山岳遭難事故(八甲田雪中行軍遭難事件)を題材に、山岳小説『八甲田山死の彷徨』を発表した。


この原作を映画化したのが、1977年の邦画「八甲田山」だ。
あくまで実話を元にしたフィクションなのだが、リーダーの資質に集団全体の運命が引っ張られる悲劇 というものが、容赦なく描かれる。

「冬の八甲田山を歩いてみたいと思わないか―。」
日露開戦を目前にした明治34年末。寒地装備、寒地訓練が不足していた帝国陸軍は、ロシア軍と戦うために厳冬期の八甲田を踏破し、寒さとは何か、雪とは何かを調査・研究する必要があると考えていた。その命を下された青森第5連隊の神田と弘前第31連隊の徳島は、責任の重さに慄然とする。冬の八甲田は生きて帰れぬ白い地獄と呼ばれているからだ。雪中行軍は双方が青森と弘前から出発し、八甲田ですれ違うという大筋のみが決定し、細部は各連隊独自の編成、方法で行う事になった。「この次お逢いするのは雪の八甲田で―」二人はそう再会を約束して別れたのだったが…。
CAST
高倉 健/北大路欣也/加山雄三/栗原小巻/加賀まりこ/秋吉久美子/三国連太郎/緒形 拳/森田健作/丹波哲郎
STAFF
監督:森谷司郎/脚本:橋本 忍/音楽:芥川也寸志/撮影:木村大作/原作:新田次郎「八甲田山死の彷徨」

東宝 公式サイトから引用

日露開戦を想定した雪中訓練を行うため、弘前と青森から2つの部隊が、酷寒の八甲田を目指すこととなった。
弘前発の徳島大尉(高倉健)は長い時間をかけ少数精鋭で遠回りするコース、
青森発の神田大尉(北大路欣也)は短期間で中隊規模にて真っ向から突破するコースを選ぶ。

重要なのは、徳島大尉、神田大尉 ともに聡明な将校であることだ。
神田大尉とて、好んで強行突破という危険な道は選びたくない。
それが、危険な道に突き進む羽目となるのは、弘前第31連隊へのライバル心から要らぬ特色を出そうとした、青森第5連隊の大隊長(三國連太郎)のプライド(と横槍)のせいであった。
おまけにこれを自分の手柄にせんと、わざわざ大隊本部付きの編成にして、判断を現場の神田大尉に委ねず、それが事態を悪化させてしまい、部隊の大多数を死なせてしまう。
笑うに笑えぬ無計画。

果たして、徳島大尉率いる精鋭揃いの小部隊27名が、確固とした信念を持ち万全な計画に基づいて行進する。
他方、神田大尉率いる大部隊210名は、指揮系統がメチャクチャで、行き当たりばったりの烏合の衆となり、白一色の雪の世界の中に踊り、迷う。 ばたばたと死体が増える。

足掛け三年かけて撮ったという自然の描写 甲斐はあった。
絵作りは文句なく美しい。芥川也寸志の悲壮感あふれる伴奏の中で、旧軍隊が白一色の雪の世界と、ひたすら闘うのだ。
だからこそ、神田大尉一行の全滅の悲劇が、まっさらな悲劇として、浮き上がらせるのだ。「誰が悪いのか?」問う意味のない、遣る瀬無さも。


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