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趣向も凝りすぎず、ほどほどに…。作りごとより面影が胸を打つ映画「ポルト」。

ポルト(Porto)とは、ポルトガル北部の港湾都市のこと。首都リスボンに次ぐポルトガル第二の都市。同国屈指の世界都市であり、都市圏の人口は約160万人を数える。何より、「魔女の宅急便」のモデルとなったと言われる都市。
一度は行ってみたい場所、と言うわけではない。
今回紹介する映画、それが文字通り「ポルト」が舞台だ、というだけだ。

親元離れた26歳の孤独なアメリカ人男性、ジェイク(アントン・イェルチン)と
考古学を学ぶ32 歳のフランス人留学生マティ(ルーシー・ルーカス)
とうてい幸せな人生を送ってきたとはいえないふたりが、
ポルトの夜のカフェで偶々出会い、偶々意気投合し、偶々一昼夜を共にした。
幸せな一夜を送った後、しかし結局別れることに決め、以後ふたりには、出会う前と同様に、そこまで満ち足りることのない人生が待っていた。
「あのとき、一緒になっていれば何か変わったかもしれない」
そんな回顧の念に浸らせてくれる映画だ。 凝った趣向に惑うことがなければ。

あらすじ・キャスト・スタッフは下記を参照!

過ぎたるは及ばざるが如し。


製作にかのジム・ジャームッシュが携わった縁もあってか?
ある一組の恋人の出逢いから別れまでを、非常に凝った趣向で描く。

恋人たちにとっていちばん燃え盛るであろう偶然の出会いから情事、絶交に至るまでの「過去」を、35ミリフィルムのワイドスクリーンの中に。

互いを互いを忘れようと努めた、だから女は結婚し男は仲間と遊んだ:まだ若くエネルギーがあったからこそ上書きに使おうとした「思い出」は8ミリの暈けた暖色のワクの中に。

やがて人生に疲れ、思い出づくりにも飽き、ただ「いま」を生きることに必死な男の悲しみ・女の哀しみは、16ミリフィルムの寒々しい画面の中に。

それが、時間の流れを寸断して、自由自在(悪く言えば、無軌道)に差し込まれる。はっきりいって見づらいこと、この上ない。
だからこそ、筋を追うのに必死にならざるを得ない_凝視するうちに、きっちりと作り込まれた絵作りの美しさに目を見張る可能性もあるのだが。

要は、趣向が凝り過ぎて、凝り固まって、話を追うのが非常にしんどいのだ。


さりげなく遺された断片が、むしろ胸を打つ。


それでも、本作を紹介するのは、作り込まれた凝った趣向よりも、さり気なく差し込まれたささやかな趣向が、遥かに我々の胸を打つ、この一点において、だ。

エンディングには「今はもうこの世にいない」男優が8ミリの中に収められたフッテージが、不意に流される。ジェイクを演じた、アントン・イェルチン、その人が何も演じていない素の佇まいを切り取った瞬間の数々である。
彼はカメラの前に立って、カメラの奥を覗き込んで、こっちを向いている。
にこやかに、おどけてみせる。
エンドロールと共に、彼の8ミリ映像が再生されて、やがてぷつんと消える。

「面影」という言葉がある。実際にそこにいない人の顔や姿が、幻のように思い浮かぶこと。遥か遠く離れているとか、死んでしまってもう現世にはいないとか…逢えないからこそ、恋しくなる。
たとえそこまで親しくない赤の他人でも、情がわけば、別れた後に「面影」が生まれる。この言葉をあらかじめ頭の中に入れておいてから、エンディングまで見ると良い。

つまり何かと言うと
「アントン・イェルチンはもうこの世にはいない」
知ってこそ、遺された断片は、面影となって、胸を打つ。

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<p style="font-size:10px">(2019年5月21日初稿)</p>
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<figure class="wp-block-image is-resized"><img src="https://tomatokart.jp/wp/wp-content/uploads/2019/05/1D62D55C-9622-4D58-8C8F-132690173BBF.jpeg" alt="ポルト" class="wp-image-2985" width="225" height="302"/><figcaption><a href="">出典:Amazon公式サイト</a></figcaption></figure>
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<blockquote class="wp-block-quote line-height: 130%; font-size: 11px;"><p><br><br>そんなふたりが出会った。仕事先の発掘現場でマティを見かけたジェイクは、ひとり店にいた彼女に思い切って話しかける。「私とよそへ行かない?」そう誘ったのはマティだった。引っ越しの手伝いを頼まれ、ヘトヘトになりながらドウロ河沿いのマティの新居に荷物を運び込むジェイク。まだ家具もベッドもない部屋で、ふたりは一夜の関係を結ぶ。<br><br>翌朝。まどろむジェイクを残してマティは先に家を出た。昼過ぎに起きたジェイクが荷物を何気なく広げていると、マティが恋人のジョアン(パウロ・カラトレ)と一緒に帰ってくる。ジョアンがつとめて穏やかに振舞おうとするほど、気まずさと虚しさに満ちていくジェイク。その後もあの夜を忘れられないジェイクはマティにしつこくつきまとうが、彼女には今の生活を壊すつもりはない。そのあまりの執拗さに悩んだマティによって留置所に入れられたジェイクは、絶望に打ちひしがれる。<br><br>数年後。ジェイクは、ポルトで相変わらずその日暮らしの生活を送っている。マティはジョアンとの間に娘をもうけるが、夫との関係はすでに壊れ、ポルトで子育てに追われていた。思い出したようにパリにひとり残した母親(フランソワーズ・ルブラン)を訪ねるものの、酒に依存し、事あるごとにパリに戻るよう迫る母と接するのは気が重い。「私はポルトで幸せなの」。そう自分に言い聞かせるように告げるマティに母は応える。「そうは見えないわ」。 全く別の人生を歩むジェイクとマティだったが、ふたりの記憶は必ずあの夜へ辿りつく。お互いのことは何も知らず、何も求めず、何の躊躇なく、ただ「愛してる」と言えた、あの奇跡のような夜に……。</p><p><strong>【スタッフ】</strong></p><p>監督 ゲイブ・クリンガー</p><p><strong>【キャスト】</strong></p><p>アントン・イェルチン ジェイク<br>ルシー・ルカース マティ</p><cite><a href="http://mermaidfilms.co.jp/porto/">公式サイトより</a></cite></blockquote>
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