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「俺は馬1頭あたり25ドルより、35ドルを取るんだ」 "The Undefeated"(1969)

いささか油の乗り切った時期からやや離れた、それでも年に一つは自らのプロダクションで西部劇を製作し、アメリカン・ニューシネマの波に対して持ちこたえていたジョン・ウェインが、 今回は名優ロック・ハドソンを迎えた1969年制作の西部劇「大いなる男達 」より。
牛を運ぶ大規模なロングドライブの物語なら「赤い河」「ローハイド」他多数あるが、馬を運ぶとなると、なかなか珍しい。

ベトナム戦争真っただ中のくら~い時代を暗示するかのような、ジョン・ウェインらしくない導入部である。舞台は南北戦争最前線。トーマス大佐(演:ジョン・ウェイン)率いる北軍騎兵隊は、南軍陣地に向けて勇ましい突撃を揚々と挙げる。
成功したのも束の間、敵陣を壊滅させた後で「終戦」の伝令が入る。突撃した後を振り返るトーマス。後に残るは南軍の若者たちの死に累々…。

「終戦」の知らせがあったにもかかわらず、南軍の兵士たちは、降伏の知らせを信じず、なおも戦い続けようとする。一触即発も、ここは南軍のラングドン大佐(演:ロック・ハドソン)が矢を収める。
トーマスもまた、仲間のカウボーイを連れて北軍に志願した「大親分」。仲間も多数失い「3年間も軍属だったから」十分だ、と籍を返す。そして先住民の青年ブルー・ボーイを養子にして牧場の経営に専念する。

やがて彼の元に、二手から、馬を売ってくれとの声がかかる。一方は再建真っただ中の米国陸軍。もう一方は、フランス帝国傀儡のマクシミリアン皇帝が統治していた、しかし、ファレス率いる革命軍と内戦真っただ中の、メキシコ帝国。
愛国者ならば自国の軍を選ぶだろう、という陸軍の使者の期待に反して、スコットはメキシコを選ぶ。以下、IMDBからの引用。

"D.J. Giles: You're selling horses to Maximilian in preference to your own country's army?
Col. John Henry Thomas: No, I'm selling horses for $35 in preference to 25."

https://www.imdb.com/title/tt0065150/quotes/

そう切り返して、北軍ではなく、はるばるメキシコへ馬を売りに行く。
手塩をかけて育てた馬を、高く買ってくれる方に売却する。牧場主としても商人としても、トーマスは至極当然の行為をなすのだ。

はるかメキシコへ向けての馬を引き連れての旅は、タフ・ガイたちの光る領域だ。
早朝、メキシコに向けて旅たつ馬車隊の群れ。彼らは意気揚々と朝もやの中を、大河を渉っていく。実際に3000頭のキャラバンを通過させる、壮観さ。「駅馬車」よろしく、キャラバンで辛苦を共にする男たち、女たち。「ハリウッドのお家芸、最後の輝き」陽気な荒くれ者たちのホース・プレイ。

ここに、元は南部の誇り高き地主、しかし戦争のために資産を拠出したうえ、終戦後は「戦争協力者として」北部の商人に自身の土地を安く買い叩かれ、みごと一文無しになった、文字通り一族郎党引き連れて新天地メキシコを目指す、ラングドンが、旅の供となる。
常に臨戦。旅中も南軍の旗を掲げるのを忘れない、原題、そして元ネタの人物同様「undefeated」な堅物。スコットとの対話は、「いまだ負けていないと言い張る」南軍と「もう戦争は終わったんだと言い張る」北軍のイデオロギー対立の観をなす。
「かつて南郡だったもの」と「北軍だったもの」、同じ目的地への旅をする不思議さ。友誼を結びたいスコットと、警戒するラングドン。モンターギュ家とキャプレット家よろしく不穏な郎党ふたつ。他方で、ひそかに恋しあうブルー・ボーイとラングドンの娘。

フランス軍のちょっかいが途中何度かあったとはいえ、無事にメキシコにたどり着いた。スコットと別れたのち、メキシコ北部の都市:ドゥランゴでマクシミリアン皇帝との面会に臨むラングドン。
はじめ歓迎ムードは、しかし暗転する。既にここは偽装した革命軍の手に落ちていたのだ。「入った軍をまるごと捕虜にする」罠にかけたのだ。ラングドンを揺さぶるために、革命軍は捕虜にしたフランス兵を、その目の前で射殺していく…。

もちろん、我らがスコットがこの蛮行を黙って見過ごすわけがない。
ラングドン親爺を救うため、スコットは身代たる馬3000頭を引き連れて、颯爽とドゥランゴに凱旋する。要塞の中の広場が、1000頭もの馬で埋まるスケールの大きさ。混戦の果て、ラングドン一味の救出に成功するスコット。

ラストは、トーマスの一団とラングドンの一団が和解して(もちろん、ブルー・ボーイは愛しの人と懇ろになって)故郷に戻っていくシーンで飾られる。ハモニカによるBGM『Yankee Doodle』:日本でいえばアルプス一万尺が、情感を誘って、冒頭部とは対極的に:さわやかに、映画は、ENDを迎える。


スタッフ
監督:アンドリューVマクラグレン
キャスト
ジョン・ウェイン、ロック・ハドソン、ベン・ジョンソン その他 ジョン・ウェイン一家勢ぞろい。

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