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“ばかげた球蹴りのせいで、すべて台無しだ!”_”Victory”(1982)

ジョン・ヒューストン監督、シルベスター・スタローン主演「勝利への脱出」より。
スタローンのペルソナが裏返った裏ベストといって良いと思う。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンなサッカーへの狂熱に巻き込まれる、アウトローの悲喜劇。

第2次世界大戦下のドイツ捕虜収容所。捕虜となった連合軍兵士たちの唯一の気晴らしであったサッカーが、いつしか連合軍とドイツ・ナショナルチームとの世紀の対決へと発展していく。そして、その裏では連合軍による大胆不敵な脱走計画が企てられ、決行の瞬間を待っていた。サッカー界のスーパースター、ペレをはじめ、シルベスター・スタローン、マイケル・ケインら、多くのスターを結集して作り上げた、巨匠ジョン・ヒューストン監督の娯楽大作。

ワーナーブラザーズ 公式サイトから引用


1943年。第2次大戦下のドイツ南方ゲンズドルフ収容所。そこでは、捕虜になった連合軍兵士たちが、鉄条網の中で、ボール・ゲームに暮れる絶望的な日々を送っていた。

そんな捕虜たちの中に、恵まれた身体能力を活かして機敏なゲームぶりを発揮する男がいた。米軍大尉ハッチ(シルヴェスター・スタローン)だ。
そして彼らの様子をじっとみつめる者がいた。
ドイツ情報将校フォン・シュタイナー(マックス・フォン・シドー)で、彼はふと、ドイツ・ナショナル・チーム対連合軍捕虜のサッカー試合を思いついた。

戦前、英国ナショナル・チームのリーダーとして活躍していた捕虜のリーダー、コルビー大尉(マイケル・ケイン)は、このプランを受け入れ、条件として、ドイツ各地の捕虜収容所からの選抜でチームを組むことを要求。
その中には、サッカーの経験のないハッチの名もあった・・・コルビーは、このサッカー・ゲームを利用した巨大な脱走プランを練っていたのだ。
ドイツ軍上層部は、この試合をイベントとして対外宣伝に利用しようとしていた。
シュタイナーはそんな幼稚な考えを持っていない。ワールドカップも中止されて久しいこの時代に「ハイレベルなサッカーを見たい」という執念。ただそれを実現するために奔走する。 非日常の夢に、彼もまた取り憑かれている。

捕虜チームの猛練習がはじまった。イギリスのテリー(ボビー・ムーア)など各国から、ならず者たちが集まるが、団結固い彼らに、部外者だったトリニダードのルイス(ペレ)がチームに参加した。ルイスと、サッカー経験のないハッチの存在もあって、チームは多少ギクシャクするも、次第に一体感を得ていく。

ハッチは、工作員としての役目もきっちり果たす。すなわち、収容所を脱走し、パリでレジスタンス組織の美しい娘レニー(キャロル・ローレ)と接し、計画の全貌を入手するのだ。パリ郊外のコロムビア・スタジアムの選手の控え室の真下から外部に通じるトンネルを掘り、ゲームの最中に全員脱走という作戦を手引きするのだ。
「ランボー」はじめ、鍛えに鍛えた力と技を、国内で警察や軍隊と言った権力に向けて発揮するペルソナばかり演じてきた男:スタローン。
本作でも、彼は見事に任務を果たすはずだ。果たすはずなのだ。
収容所に戻ったハッチは仲間に詳細を告げ、ゲームではゴール・キーパーの任についた。試合が始まる。


パリのスタジアムは観衆で埋めつくされ、ゲームは開始された。白熱のゲームが展開され、4−1の劣勢に立つ連合軍チーム。
計画では、ハーフ・タイムで控え室に戻った時、全員脱走するということだった…が。

仲間の一人が「この試合、勝つぞ。」と吠える。

他のチームメイトたちも、この言葉に、同調し、叫ぶ。

試合を続行させたいルイスたちは、途中で計画を無視し、試合に戻ってしまう。

あれあれ? いつもとは真逆の展開。 
男たちが「大差からの逆転勝利」という途方もない、しかし目先の夢に命を賭ける。スタローンが必死の思いで掘った脱出トンネルは、無駄になる。
ひとり、取り残されたハッチは、こう、ごちる。他作のスタローンなら、絶対言わないであろう、台詞。

This frigging game is ruining my life.
  • frigging 〈卑俗〉いまいましい、ひどい◆【語源】卑語fuckingと発音が似ていることからfuckingの婉曲表現として用いられる。◆【同】fricking

結論を言ってしまえば、
見事なプレイングもあって、逆点優勝。
喜ぶ大観衆は、そのまま興奮してグラウンドに乗り出し、連合軍チームの選手たちを取りまき、そのまま外へと誘導するのだった・・・


先般逝去されたイビチャ・オシムの言葉に、こうある。

人間は失敗の中で生きるのではなく、成功の中で自己の思想や感情を進化させてゆく・・・人々は誇りを取り戻し、何かに近づいたような気がしたのだ。まるで国が再生し、新しい冒険を生き始めたかの様だった。もちろん皆がサッカーを愛する必要はない。しかし勝利を喜ぶ姿を見るだけでも国民は幸福を感じる。何故かは重要ではなく、その気持ちが重要なのだ
ボスニア代表がW杯初出場を決めた翌日のインタビューで

高揚と再生とサッカーと。
いま、目の前の現実を戦うことで、再生を果たそうとする男たちの物語。
たかがサッカーではない。サッカーだからこそ、命を賭けた男たちの物語が、ここにある。
元となった事件では、捕虜たちが脱出を果たせず皆収容所に送られた 暗い現実があるからこそ、スクリーンの中のスタローンの挫折、対する、サッカーの勝利が、眩しく、光るのだ。


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