ナチスへの協力を避けるために渡米したドイツの巨匠フリッツ・ラング監督が、ハリウッドで手掛けた反独プロパガンダ映画「マン・ハント」より。
劇中の時系列は、
と後世に評される様に(小国の事情を無視して)独英露仏が縄の引っ張り合い、欧州情勢が複雑怪奇の様相を呈していた1939年7月末日(正確な日時は29日)から、同年9月まで。
ライフル名人のイギリス人男性ソーンダイクは、ドイツ国内で狩を楽しんでいる途中、たまたまヒトラーに照準を向けてしまったことから、暗殺未遂事件の容疑者としてゲシュタポから追われる身となる。
梨花の舌で冠を正さず。世情の危うい国で狩りをする方も、人間として如何なものかと思うが、それはさておいて。
命からがらソーンダイクはロンドンへ帰り着いたものの、ナチのスパイはそこかしこ。だがこの主人公、妙に楽天的で、余裕のよっちゃん。ロンドンの地上に地下に逃げ回り、ひらりひらりとゲシュタポの刺客をかわしていくのが、痛快だ。地下鉄のサードレールで刺客の1人を感電死させるユカイな一幕すら ある。
それが、気がつけば山の中の洞穴に追い詰められている。
相対するは、英国紳士のような立ち振る舞いを身につけた親衛隊の幹部キーヴ=スミス。もはやどこにも逃げる場所がない、余裕が表情から消え憔悴し追い詰められたソーンダイクにネチネチと言葉責めされる のは実は時間稼ぎで、手持ちのベルトとピンを組み合わせてスミスを仕留める一撃必殺の弓矢を組み立てる クライマックスは、ラング抜群の緊張感ある演出で惹きつけられる。
そして開戦。快復したソーンダイクは、今度は空挺隊員として、ドイツに潜入することとなる。 特別な訓練を受けた彼には、今やナチ・ハンターとしての自身に満ちた表情が浮かんでいる。物語は、
のモノローグで締められる。
目一杯楽しませて、目一杯怖がらせて、落とし所も見事な一作。
また、言い忘れたが、後のラング作品に欠かせないファム・ファタールを演じるジェーン・ベネットが初めて参加した作品でもある本作。オススメですよ。