「悪党は世ン中の犠牲者じゃねえ、世ン中を牛耳るためにいるンだよ!」_"The Departed"(2006)
ボストンのアイルランド系マフィアのボス・フランク(ジャック・ニコルソン)は、幼少の頃から目をつけていた聡明なコリン(マット・デイモン)を州警察へ潜入マフィアとして送り込む。
警察内で出世街道をひた走るコリンによって漏らされる情報によって、フランクもビジネスを順風満帆に拡張していた。しかし、州警察から送り込まれてきた潜入捜査官ビリー(レオナルド・ディカプリオ)の登場によって、全ての雲行きが怪しくなっていく。果たして潜入が発覚するのはコリンとビリーどちらが先か!?
レオナルド・ディカプリオとマット・デイモンの2人を主役にマーティン・スコセッシが監督、2002年の香港映画「インファナル・アフェア」を脚本のリライト・スタッフキャストの全とっかえ・そもそもの製作延期が日常茶飯事のハリウッドとしてはスピーディーにリメイク、2006年に無事公開された「ディパーテッド」より。
オリジナルの「騙し合い」が、スコセッシの手にかかれば「グッドフェローズ」「カジノ」同様、男男男騒ぎでいつも通り喚き散らし殺し合いまくる「仁義なき戦い」へと翻案。
そして、当時30代の若い男優二人の脇をしっかり固めるのがロバート・デ・ニーロ…ではなくジャック・ニコルソン。「シャイニング」「バットマン」で見せた全くいつも通り常人でない精神体質を有するキレキレのニコルソンである。
フランク・コステロ(ジャック・ニクルソン)はアイルランド系マフィアのボスとして、長い間、ボストン南部一帯を牛耳ってきた。
映画冒頭部、モノローグにて「世の中が俺を形作るんじゃねえ。この俺が世の中を作ってやってんのさ。」とうそぶき、「社会が悪党を生む」という金言を真っ向から笑い飛ばしてみる根っからの悪、傲慢不遜なコステロ。
その瞳は邪悪で陰険な気配を放ち、喜色満面で躊躇なく人を殺す悪党。他方で、茶目っ気で下品さを好む二面性こそが、彼の魅力だ。十数年経った今ではいささか古臭い、そして今となってはどこか心地よいオヤジ臭さを振りかざして、マフィア…というよりはチンピラのボスといった感じで振舞う。具体的には、クリステン・ダルトン演じる愛人をいつも侍らせたり、ポルノ映画館でナニを露出させたり。
チンピラが本能そのままに狡猾さだけを増長させてオヤジになったかのようなこの男の存在、コリンとフランク、生真面目な二人の男の深刻な苦悩と凄惨な腹の探り合いのドラマの最中で、一種の清涼剤にすらなっている。スコセッシの完全主義、張りつめた空気感を和らげる役割を果たしている、というべきか。
中盤、ビリーを送り込んだイーナン(マーティン・シーン)の墜落死を皮切りに、登場人物の死の連鎖が始まるのだが、フランクも例外ではない。この手の悪党にしては…いや、チンピラじみた悪党だからこそ予想できた死にざまというべきか。
銀行強盗を試みたフランク一味の行為は警察に筒抜けで、一網打尽にされる。一人、また一人、と部下が射殺される中、生き延びようとするも、追いかけてきたコリンに問い詰められるフランク。
コリンが「FBIに情報を売ったのか?」と、育ての父を問い詰めるシーンから引用。
愛子のように育てたコリンが、「この種無しが」と、育ての親に対する尊敬の念を全く感じさせない軽蔑の言葉を浴びせた瞬間、撃ち合いが始まる。
子殺しの躊躇より父殺しの激情が勝った。
フランクの弾はコリンの傍をかすめ、コリンの弾はフランクの安手のTシャツの胸部にきちんと当たる。コリンが念入りに何度も銃弾を胸元に打ちこみ、ホイールローダーのホッパーの上でつまらない汚いオヤジの死体がごろんと、転がるのだ。
フランク=ニコルソンがおなか一杯の演技を見せてくれたおかげで、本作、ビリーとコリンの死にざまはあまり印象に残らない。因果応報の言葉が頭に浮かぶ。まあ、いつもの、スコセッシだな、と。
とはいえ、自身が経営するバーで、フランクとビリーと交わす含蓄に富んだ会話、ラストのビリーとコリンの罵声の応酬は、さすがスコセッシと言ってもよい演出力。
「仁義なき戦い」のバイオレンス描写より広島弁の方が印象に残る方は、今見直しても決して損ではない映画と言えるだろう。
以上、最新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」公開に合わせたスコセッシ作品のご紹介でした。
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