極彩色の大決戦(ギャング版)「ディック・トレイシー」
「スカーフェイス」の衝撃。おかげで以降、アル・パチーノ=ギャングというイメージが付きまとうようになったのは、言うまでもない。
そんなパチーノが、見るも無残な特殊メイクをさせられ、正義漢:ウォーレン・ビーティに付け回される悲劇を描いた、同名のアメコミを、その雰囲気のままに映画化した「ディック・トレイシー (1990・米 105min) Dick Tracy」より。
1930年代のアメリカ。ギャングたちが闊歩(かっぽ)する街で、正義を守ろうとする刑事ディック・トレーシー(ウォーレン・ベイティ)は、街を牛耳るギャングのビッグ・ボーイ(アル・パチーノ)一味の壊滅するため暗躍する。
他のギャング映画と比較して異色なのは、原色6色だけで構成され、POPな衣装&美術の中、ハードボイルドの王道的な物語が展開する点だろう。同じく極紫色のスーツを着たマフィア:ジャック・ニコルソンが大暴れするティム・バートン監督「バットマン」に似通った臭いがする。
「バットマン」の白塗りニコルソンもといジョーカーも中々絵になっていたのが、こっちはこっちで徹底:素顔がわからないほどの奇抜な特殊メイクを施してキャラになりきったアル・パチーノ(まだわかる)、ダスティン・ホフマン(!?)、マドンナ(!!??)ら豪華ヴィランズだ。
ナタリー・ウッド、フェイ・ダナウェイ、ジュリー・クリスティら大女優を傍らに演じていたビーティは、本作では痩せてガリガリになった浮浪児を相棒にする。
徹底的にファミリー層に狙い撃ちした映画を心掛けたのだろうか、血のつながりのない浮浪児と偶然からコンビを組み、最初は互いにそりが合わないものの、徐々に情を通わし、そして家族になっていく筋書き。そんなハートウォーミングなファミリー映画故、本作では美女とのロマンスを封印…。
かと思ったら、車がbombするは、マシンガン乱射があるは、抗争パートを挿入していて、大人向けなのか子供向けなのか、立ち位置がやや不透明なのは、ご愛敬。
1930年代のアメリカを舞台にしているため1936年型フォード V8(Ford V8)、1937年型パッカード(Packard)、1935年型キャデラック V8(Cadillac V8)、1934年型ビュイック(Buick)ら 1930年代の典型的なアメリカ車も出ずっぱり、大活躍だ。
「俺たちに明日はない」(67)で、同じ大恐慌時代を舞台に暴れまわったならず者を演じたビーティが、本作では刑事を演じるというのも何かの皮肉だろうか。
お話はともかく、コミックの実写化を「30年代犯罪映画のオマージュ」という形で見事に再現した撮影と美術は見事の一言。赤や黄色などの原色トーンの映像と、ギャング映画最盛期のモノクロ・フィルムのテイストをブレンドし、クラシックな雰囲気を漂わせてはいるが、かといってハードボイルドになりきれない、ギャング映画初心者向けの一作。つまり、子供だましともいう。
虚構世界で虚構の人々が生々しく生きる違和感ありすぎな世界観じたいは、文句なく映像化できているので、ある意味で90年代に定着する「クロウ」「フロム・ヘル」「ブレイド」ほか、ビッグ・バジェットによるアメコミの実写化路線…の幕開けを告げた、と言っても過言ではない?