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ルネ・クレール監督「奥さまは魔女」_魔法少女のはじまり、はじまり。

本作を下敷きにした60年台の米国のテレビドラマ「奥さまは魔女」
→日本でのTV放映の人気に乗って作られた横山光輝原作「魔法使いサリー」
→めぐりめぐって、現在絶賛量産され、我々をトキメかせる魔法少女モノ
という系譜で
後世に多大な影響を与えた、すべての始まりといえるキュートなラブコメだ。

80年という古さを感じさせないのは、ユニークな導入部のおかげもあるだろう。はなしは17世紀末のアメリカまでさかのぼる。

Long, long, ago, when people still believes in witches...
”まだ魔女/魔法使いの存在が信じられていた頃…“

セイラム村の魔法使いジェニファー(演:ヴェロニカ・レイク、ギャング映画の悪女が当たり役)と父ダニエル(演:セシル・ケラウェイ)は火あぶりとなり、その灰が木の下に埋められ封じ込められる。
自分たちを告発したジョナサン・ウーリーへの復讐のため、ジェニファーはウーリー家の男たちが今後代々「間違った相手」と結婚するという周りくどい呪いをかける。
それがすべての始まりだった。

かくしてウーリー家の主人は何代にも渡り、お嫁さんで苦労することとなる。

and so on until...

時は1942年。
稲妻が木を割ったためにジェニファーとダニエルは自由の身となる。
ジェニファーはプラチナ・ブロンドのレディに、ダニエルはケムリの姿に、身を変える。そして、ウーリー家の今代の当主ウォレス(演:フレドリック・マーチ、実直そうな風貌!)を破滅を目論む。

彼は州知事選に立候補、彼の支援者の娘エステルとの結婚を控えていた。
そこでジェニファーはウォレスに「ほれ薬」を飲ませ、この縁談を破談に持ち込もうとする。

何度も結婚式が繰り返された挙句、無事、縁談は破談に追い込まれる。
ジェニファーが自分で飲んでしまい、ウォレスに恋してしまったからだが。

さて、あとは軽快なラブコメの始まりだ。
ジェニファーは魔法を使えることを隠そうとする、その度に失敗する。
このポンコツぶり、可愛らしさに、いつしかウォレスも惚れてしまう。

相思相愛になったところで、酒好き親父のダニエルが、クソコテヴィランと化して、人の恋路を邪魔しにかかる。ウーリーを冤罪に陥れようとしたり。カエルの呪いをかけようとしたり。笑うに笑えないあの手この手を次次と繰り出す。

もちろん、最後は愛が最強。
※しかしオチはフランス人らしいシニカルさだ。


この映画のもう一つの魅力は、草創期フランス映画の名監督ルネ・クレールの手による、鮮やかで軽やかな演出
そして、シュールな映像マジックにあるだろう。
なにせ、ケムリがホウキにまたがって空を飛ぶのだ。

クレールと同時代を生き、リアルタイムで彼の作品に触れることができた
戦前のマルチクリエイター・伊丹十三は、こう称した。

技巧と機知に対してである 。クレールほどあざやかな技巧を持つており 、クレ ールほど泉のように機知を湧かす映画作家を私は知らない 。

「ルネ・クレール私見」伊丹万作 (青空文庫より引用)

今なお古びない、鮮やかな味のラブコメディだ。
そして、最初の一発がこれだけ巧みに作られたからこそ、
今の「キュートでツヨい魔法使い」へと連なっているのだ。すべての始まり。


※本記事で使用した画像はすべてCriterion公式サイトから引用



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