「トップガン」「ミッション・インポッシブル」「ラスト・サムライ」「ジャック・リーチャー」・・・ヒーローばかりを演じるトム・クルーズが、正体不明の悪人を演じた稀有な作品「コラテラル」。
宇宙服、パワードスーツ、バイクスーツ、サムライの鎧、ミリタリーファッション。
何を着ててもイケイケになってしまうトムが、一見地味に見えるグレーのスーツに身を包んで、落ち着いた格好をしているのも、異色だ。
あらすじはこうだ。
ヴィンセントが殺害した被害者がマックスのタクシーの屋根に落下する。
動揺するマックスに対して、ヴィンセントが吐くせりふが、とてもよい。
ヴィンセントの2人目の殺しの最中に、一人ぼっちでタクシーに取り残されたマックスが助けを求めた相手が強盗で、マックスの財布もヴィンセントが車中に残したブリーフケースも奪われてしまうが、あっさりと仕事を終えてきたヴィンセントが強盗2人を殺害。
持ちつ持たれつ、恐怖というよりは奇妙というべき、長い夜は続く。
ヴィンセントに促されるまま、二人はジャズ・バーへ入る。マイルス・デイビスの曲が演奏される中、マックスにヴィンセントはこう言う。
直訳すると「大抵の人間は、今から10年間、同じ仕事、同じ生活、同じことをし続ける。(だが)今から10分後に何をしているか、知らないのだ。」
意訳すると「大抵の人間は、10年後も同じ仕事、同じ暮らし、同じことの繰り返しだが、10分後を誰が知ってる?」といったところだろうか。
第4の殺人後、追手を交わすため、2人はタクシーで爆走する。声を荒げて詰るマックスに対する、ヴィンセントの言葉も良い。
turn around:反対方向に向きを変える、好転する
zone out ぼーっとする
bar‐loungers: 酒場でとぐろを巻いている連中
hypnotize:催眠術をかける、うっとりさせる、洗脳させる
ヴィンセント:鏡を見ろよ。ペーパータオル。清潔な車。リムジン会社の夢。いくら貯めた?
マックス:あんたには関係ないことだ?
ヴィンセント:いつか夢がかなう?ある夜、お前は目を覚まして何も起こらなかったと気づくだろう。夢は彼方へ去ってしまっているだろう。そして夢はかなうことがないだろう。突然、自分が老いたことに気づく。何も起こらなかったし、何も起こらないだろう。なぜならお前は決して何もやろうとしなかったからだ。記憶のかなたに、夢を押しやり、酒場でとぐろを巻いている連中の間でぼーっとし、残りの人生昼間からテレビを見続けて心を麻痺させるんだ。殺しの話題を俺にするな。やるべきことはリンカーン塔まで車を回して俺を下ろすことだ。(第五の標的は)あの少女だよ、何のためにお前は車を走らせてるんだ?
この言葉にキレたマックスは、タクシーのアクセルをさらに踏み込む。
二人の長い夜の果ては・・・本編を見届けてほしい。
L.A.の夜の街並み、晴天ではなくどこか重く澱んだ空気を臭わせる映像の臨場感とともに。