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頼りないジーザスと、ジーザスより偉そうなモーガン・フリーマンの「ベン・ハー(2016)」

1959年のアカデミー賞において、作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞をはじめ11部門で受賞という前人未到の記録を達成したのがウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」だった。
70ミリの格調高い画面の中に、イエスの導き、信仰の目覚めを崇高に描く。
話題に乗って、日本でも15億3000万円の興行収入を達成した。(公開当時の入場料は170円、現在の十分の一、つまり現在の金額に換算して150億の興行収入の大ヒットだ。)


それからほぼ半世紀が経ち、同じMGMによって製作され、米国でひっそり公開され(コケて)日本ではビデオスルーされたのが、本作だ。

エルサレムの名家に生まれたベン・ハーは、義兄弟であったメッサラの裏切りにより、奴隷としてガレー船に送られる。しかし、大海原を進む途中、突然の襲撃により船が転覆。鎖に足をつながれたまま船から放り出されるが、謎の族長イルデリムに命を救われ、メッサラへの復讐を誓う。数年ぶりに故郷に戻ったベン・ハーは戦車競争に出場する機会をつかみ、ついに競技場でメッサラとの宿命の対決に挑むが・・・。

スタッフ
監督:ティムール・ベクマンベトフ
脚本:ジョン・リドリー(『それでも夜は明ける』)、キース・クラーク
製作:マーク・バーネット、ショーン・ダニエル、ジョニ・レヴィン

キャスト
ベン・ハー:ジャック・ヒューストン
族長イルデリム:モーガン・フリーマン
メッサラ:トビー・ケベル
イエス:ロドリゴ・サントロ

パラマウントピクチャーズ 公式サイトから引用

そりゃ当時のチラシに
「制作費は史上最高の54億円、東京タワー(25億円)が2本立つ」
と添え書きされたほど、大量の製作費を注ぎ込まれたウィリアム・ワイラー版とスケール感で比較するのは、あまりに可哀想。

だが、「現代における信仰とは?赦しとは?」という点については、オリジナルよりも丁寧に描かれているように思う。オリジナルとの重要な違いは以下4点だ。


① 弱くてもいい、ジーザス・クライスト。

決定的な違いは、ワイラー版では「やんごとなき」お方だったイエス様が、 本作ではまるで正反対の人物として描かれていることだろう。
細い体に乱れた髪の毛で、後光は差してない。弱々しい外見のイエス様。
じっさい、彼は常に苦しみ、悲しみ、まったく無力。神懸かった力を発揮することもない。そして彼が弱い人を救おうとするところ、全員が敵になる。石礫を投げられる。それでも、この世の不寛容を言葉で諭そうとする、必死なのだ。

懸命に生きたイエスにも、最後の時がやってくる。
十字架を背負ってゴルゴダの丘に向かうイエスのために、ベン・ハーは水を掬ってやろうとする。それをかたくなに阻むローマ兵。
逆上し今にもローマ兵を石で殴りつけようとするベン・ハーを、イエスは手で静止する。 彼の言葉「すべてを許せ」にベン・ハーは救われることとなる。
**
「信じるものだけを救う」のではない
「すべてのものを救おう」と必死になるキリスト、**
そこには、神憑りも崇高さもない、弱々しい、しかし勁いイエス様が現れる。

② メッサラとの間に、よみがえる友情。

イエス様に「言葉」を与えられたことで、
ベン・ハーはワイラー版とは、また違った運命を歩むこととなる。
最大の違いは「友情が復活」することだろう。

ワイラー版において、巨大な戦車競技場で両者は対決の日を迎え、神への許しを求めつつ復讐に燃えるベン・ハーは、イルデリムが提供した駿馬を戦車に繋ぎ、大観衆が見守る中でメッサラとの闘いに臨む。壮絶なレースの末、ついに彼に勝利した。ユダヤの誇りを守った英雄を包む熱狂の影で、メッサラは戦車に引き潰され瀕死、そのまま死亡となる。
確かにスティーヴン・ボイド演じるメッサラは心まで腐った悪人だが、無残、やりすぎ、後味の悪さを残す。

本作でもやはりメッサラの馬車はクラッシュする、
それでも、大怪我を負うものの、しぶとくメッサラは生き残る。
イエス様との邂逅、一連の奇蹟の目撃の後で、ベン・ハーは彼を見舞う。
メッサラの頭の中は憎悪でいっぱい。だからベン・ハーを激しく罵る。
これに対し、ベン・ハーは、イエス様の教えを実践する。
怨讐を越えて友情と取り戻したい、と伝えるのだ。
その言葉を聞いて、メッサラはベン・ハーの身体を抱きしめる、そして泣く。
メッサラも本心では友情を取り戻したかった。裏切りへの罪の意識があった。
汝の隣人を愛せ。
ベン・ハーが赦すことで、メッサラは救われるのだ。

だから、本作は、ワイラー版と同じ「イエスの復活」で重々しく終えるのではなく、ベン・ハーとメッサラが仲良く馬を並べて走るシーンで、さわやかに終えるのだ。このラストシーンのために、すべて逆算されてストーリーが練られている、と言って良い。

③ すべての美しく白い馬、アリヤ。

友情が復活する伏線の一つとしてあるのが、族長イルデリム(後述)の愛馬、アリヤだろう。
族長に拾われたベン・ハーは、戦車競走用に4頭の馬を貸し出されるのだが、とりわけこの馬を可愛がる。彼女もベン・ハーにこころを寄せる。
ベン・ハーがエルサレムに戻るまでのドラマを支える軸のひとつとなるのが、ベこの美しい野性の心のふれあい、といって良い。それだけ丁寧に描かれている。

そんな彼女も最後、戦車競走の最中に致命傷を負う:主人を庇って。
ベン・ハーは、彼女の呼吸が次第に薄くなり、逝くまでを見届けることとなる。

アリヤという「戦友」を喪ったことが、メッサラという「親友」を失いたくない、そんな真なる願いにつながった:と思えるくらい、ベン・ハーは激しく慟哭する。嵐のような競走の後に、静かな風が吹く。

④ 後光がさしてる、モーガン・フリーマン。

そして全てを超越するのが、モーガン・フリーマンこと族長イルデリムだろう。
ワイラー版でローマ海軍の総司令官アリウスが担った役割を、この男が果たす。
すなわち、ベン・ハーがメッサラに挑むための「すべて」を与え、
当時絶対権力者のエルサレム総督をギャフンと言わせる、万能の大富豪だ。

キリストをかつて演じたことのあるクリスチャン・ベールあたり招致しないと、太刀打ちできないオーラを全面に漂わせる。
こいつがいちばん救世主感があるのが、なんともはや。


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富山県出身、大学時に上京、東京で社会人5年目。好きな映画も自由に語りたい。毎日一記事を目標としています。声に出して読みたい台詞がある映画が、好きです。