デンゼル・ワシントン、英雄失格。映画「フライト」。
つい最近、主演を務める「イコライザー」最終作が公開されたばかりのデンゼル・ワシントンが、2012年にロバート・ゼメキスと組んだ映画『Flight』(邦題: フライト)より。
ウィップ・ウィトカー(演: デンゼル・ワシントン)という有能な航空機のパイロットは、自身が機長を務める旅客機の故障に見舞われ、彼自身の卓越した操縦技術によって多くの乗客を救助する場面から、物語は始まる。
彼の英雄的な行動により、多くの人命が救われた一方で、事故原因の調査が進む中でウィップの人生には問題が浮き彫りにされていく。実はウィップは、飛行前にコカインとアルコールを摂取していたことが判明。事故の原因究明の過程で、彼の私生活の問題や依存症が次第に浮かび上がる。
通常なら生還不能ともされる状況下で多数の乗客・乗員を救った英雄とも言われる一方で、過失致死罪となれば終身刑の身となるウィップはNTSB(アメリカ国家運輸安全委員会)の尋問に挑む。彼が加入する労働組合は、彼の身柄を守るべく「アルコールのことは話すな、しらを切れ、英雄らしく振舞え。」と諭すのだが…。
時を選んで陽気に飲み騒ぐような分別のある酒好きでもなければ 、机の引き出しにウィスキー瓶を隠してこそこそ飲む酒好きでもない 。
本作のデンゼル・ワシントンは「酒なしでは生きていけない」酒浸りだ。
追い討ちをかけるように、「事故」以来、アルコ ールはもはや気分を良くしてくれるものではなく 、不機嫌にならずにいられる程度のものとなってしまった 。
だから、彼の顔は始終しかめっ面だ。
彼の眉間の皺が実に良い。
彼の心は打ち沈み 、怯えて 、疲れ果てている。心の奥底で「こんな自分での良いのか!?」と救いを求めている。
パイロット組合がウィップに用意した敏腕弁護士(演:ドン・チードル)の上記の様な必死の説得にも関わらず、最終的にウィップは、己の良心を賭けて、最後の審判の場、NTSBの尋問の場で、生還者のために、遺族のために、何より自分のために、彼は全てを告白する。
全ての罪を引き受けて、塀の中に入れられた彼。彼の顔はシャバにいた頃は真逆に晴れやかだ。その表情が実に清々しい。終わってしまえば本作は、よくある飛行機パニックモノではなく、ひとりの、アルコールの地獄に落ちた男が、救済されるまでの物語なのだ。
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