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"彼は家族を一族をアメリカに連れてきた、父親以外は。彼の父は生まれた土地を離れず、逝った。"_"America, America"(1963)

エリア・カザンといえば、マーロン・ブランド、ジェームス・ディーン、ウォーレン・ビーティというアメリカを代表する、青春スターであると同時に反抗児でもあった3人を育てた名伯楽。他方で、赤狩りに協力したハリウッドの裏切り者。
エリア・カザン自身、元はギリシャ人の家系。白人移民としてはアメリカでは最後発の出自、自分がはみ出し者であるという意識が、彼を体制=赤狩り協力に走られた、という古い説があるが、それはさておいて。

1963年の「America, America」(邦題: 『アメリカ、アメリカ』)は、エリア・カザン自身が書いた自伝的な小説に基づいていて、カザンの家族が当時オスマン帝国の統治下にあったギリシャからアメリカへ移民として渡った時の経験を描いたものだ。

物語はエリア・カザンの語りから始まる。

Elia Kazan: [Voice- over] My name is Elia Kazan. I am a Greek by blood, a Turk by birth and an American because my uncle made a journey.

https://www.imdb.com/title/tt0056825/quotes/

19世紀末のオスマン帝国のアナトリア地方に住む、カザン自身の親戚に当たる青年スタヴロス・トリフォニウ(Stavros Topouzoglou)が主人公。ジェームズ・ディーンっぽい「はねっかえり」そのもののギリシャ人の青年。
当たり前だがトリフォニウ家は大家族。アルメニア人とコンビで氷運び屋をして、生計を支えていた彼は、ある時、目の前で、アルメニア人の集落がオスマン・トルコの軍隊に襲われ、ジェノサイドされる光景を目の当たりにさせられる。ドキュメンタリ・タッチでモノクロームの映像が、恐ろしい。
指揮官は「やつらはテロリストだ。皇帝は寛容である、しかしそろそろ恐怖を教えなければならぬ。」「羊を一匹殺すも、アルメニア人を1人殺すも、同じこと…」と何の感情もなく、嘯く。

「迫害されるのはアルメニア人。我々は安全だ」とオトナたちが安心するのに対し、青年スタヴロス「ああ、でも次はギリシャ人の出番だ」と告げる。
こんな国には居てはいられない!とアメリカに移民する夢を抱き、実行に移す。
信仰に篤い母は、青年の夢に理解を示すも、あくまで昔からの暮らしを変えるつもりはない父は、彼を安らかには送り出さない:エリア・カザンお得意の父と子の相克のドラマが描かれ、見ごたえ十分だ。

青年スタヴロスは貧しい状況にあるギリシャ系の家族と共に、困難な旅を経てアメリカへの船旅に出発する。しかし、途中でさまざまな困難や試練に直面し、その夢を実現するために奮闘…いや、困難に打ちのめされてばかりだ。演じるギリシャ人の俳優スタティス・ギャレリス(Stathis Giallelis)も、この役柄にのめりこみすぎ、演技が力みすぎていて、ディーンやビーティ、ブランドのような精気に乏しいのだ。
運命、を金や運や民族の問題にもてあそばれる鬱屈とした174分が延々と続く。それでも、トルコ圧政下のギリシャ人受難の記録…を飛び越えて、差別の構図を見事に描いてみせるのは、かつて「紳士協定」描いたエリア・カザンのパワーだろうか。


それでも、何とかアメリカにたどり着いたスタヴロスは、靴磨きで小銭を稼ぎ、これを元手に店を構え、稼いだお金で後のエリア・カザンを含む、一族を呼び寄せることに成功する。
分かり合えなかった父親以外は。

物語は、エリア・カザン自身のナレーションによって、どこか無念の情をこめつつ、この通り、寂しげに締めくくられる。

"And he did bring them. It took a number of years, but one by one, he brought them here. Except for his father. That old man died where he was born.

https://www.imdb.com/title/tt0056825/quotes/


本作、エリア・カザンの演出と主演のスタティス・ギャレリスの演技が高く評価され、アカデミー賞で4つのノミネーションを受けた。

他方、私としては、特に導入部について、当時ソ連に対する反共の砦だったギリシャに対するアメリカの肩入れの影と、オスマン・トルコをならず者国家として露悪的に描写しすぎているのではないかという疑惑::つまりはエリア・カザンだけに政治的意図が隠されていることを捨てきれず、手放しで評価はできないのだが。

主演のスタティス・ギャレリスは、エリア・カザンが育て上げた、ビーティに続く、青春スター(であると同時に反抗児)になるはずだった。
途洋々のスター街道が待っている、はずだった…。

彼は、なぜか、運に見放されていた。


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