スワイプとタップよりも大切なこと:手仕事教育が育む「感性の豊かさ」、デジタル操作だけでは育まれないものとは?
こんにちは シュタイナー手仕事教育協会の門野由香子です。
今の社会ではデジタル機器が考えられないほど進化し、小さな子どもたちも携帯電話を片手にタップやスワイプを器用にする姿をよく見かけます。時代の流れなので仕方がないところはありますが、同じ手を動かすにしても柔らかくあたたかい自然素材に触れ、ものを生み出すという時間には、ただデバイス機器を操作するだけではない豊かさがあります。
手仕事に取り組むことでさまざまな感覚の豊かさが育つ
手仕事教育では、子どもたちは、触覚や視覚、聴覚などの感覚を総合的に養うことができます。
手仕事教育では、自然素材を使うことをとても大切にしています。羊毛の匂いやあたたかい手触り、草木の匂い、煮出すときの湯気の香りや石や木の手触り。天然繊維でも、コットンとリネン、シルクやウールなどではそのテクスチャーにさまざまな違いがあります。子どもたちの五感は、自然そのままのさまざまな素材に触れることで育まれていきます。
一方で、スマートフォンを使うことは画面をスワイプしたりタップすることが主です。そのため、子どもたちがさまざまな種類の素材に触れたり、ぬくもりを感じることはありません。体に直接訴えかける五感に響く多様な刺激が得られません。
手仕事の活動においては、子どもたちは現実の物を見、さまざま素材に触れ、匂うという体の感覚をフルに使うことができます。これはデジタル機器の操作からだけでは得られないとても大切なことです。
手仕事教育で微細な手の運動機能、巧緻性が育つ
昔と比べて子どもが手を使う時間は格段に減っています。
iPhoneなどのデジタル機器の使用は主に指でスワイプやタップする動作が中心となりますが、子どもたちが、編み物や縫い物、糸紡ぎや木工などの手仕事活動に取り組むことは、微細な手の運動機能や手と目の協調性を発達させることができます。この能力を発達させると、子どもたちは手の繊細な力加減や指の柔軟性、巧緻性を得ることができます。
子どもたちが手仕事活動を通して微細に手を使えるようになると、自分の創造性や表現力を発揮しやすくなり、さまざまな領域で自分のアイデアを具現化する能力が向上します。
そして子どもたちは自分の能力に自信を持ち、新しい挑戦にも積極的に取り組めるようになります。子どもたちが「何かしたい!」と思ったときに、手先が器用に育っているとその思いは具体的な行動として叶えられていくのです。
たとえ幾ら勉強に励んで医者になったとしても、幼い頃から培われていない指先の繊細さが欠けていると、真の手術の名手にはなれず、料理のプロを目指す夢も、手先の巧みさが不足しているとなかなか叶わないのです。
人間の手には計り知れないほどの繊細で微妙な力が宿っており、その手の力を発揮できるかどうかが、人の才能を大きく左右します。
しかし、残念なことに、その手の持つ可能性に気づいていない人がたくさんいます。手を大切に育て、磨かなければ、大人になった時の真の成長は達成されないのです。
これからのデジタル社会を生きていく子供たちに、スワイプする時間よりも手や指を器用にする時間の方を長く持たせてあげることは、今大人が子どもたちにできる最大の贈り物なのではないでしょうか。
門野由香子/ Yukako Kadono
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