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全ての県にインターナショナルスクールを②【訪問レポート】広島叡智学園高等学校(前編)

日本に唯一、広島県立 HiROSHIMA GLOBAL ACADEMY英語でIBを学ぶ全寮制、日本中から世界から生徒が集まる奇跡の公立学校

全ての県にインターナショナルスクールを設置したい」という思いから、先駆的な取り組みをしている学校へ視察に伺っています。「インターナショナルスクール=私立」という思い込みを壊してくれたのが、広島県立広島叡智学園です。同校は、中高一貫校・全寮制・国際バカロレア・英語で授業(高校のみ)を公立学校で実現している日本で唯一の公立学校。中学校はYMPを、高校では英語DPと日本語DPの選択制で学びを提供している珍しい学校です。前編では、設立の経緯と「ほぼインターナショナルスクール」な高校生活についてご紹介します。

英語で全ての授業を行う公立全寮制高校がなぜ広島に?「広島で学んで良かった」と思える日本一の教育県へ


広島県立叡智学園中学校・高等学校は、2019年4月に開校しました。中学校は各学年に40人、高校からは20人の新規入学生が加わる設計となっており、現在、165人が在籍(2023年1月1日現在)。外国人はもちろん、世界各国に住む日本人家庭の子ども、両親の一方が日本人や二つの国籍を持つなどさまざまな生徒が集まっています。広島県の離島『大崎上島』にあり、本州からはフェリーで約30分程。人口が8000人に満たない離島ですが、寮のある高校が3校(広島県立大崎海星高校<地域みらい留学認定校>、国立広島商船高専、広島叡智学園中学校・高等学校)あるという珍しい地域です。今回は、同学園の高等学校を見学させていただき、校長・福嶋一彦氏、同教頭・宮本昌明氏、主幹教諭・古市吉洋氏にお話を伺いました。(訪問は2023年1月)

広島叡智学園正面玄関にて(左より主幹教諭・古市吉洋氏、校長・福嶋一彦氏、教頭・宮本昌明氏)

ー2014年に広島県が掲げた「学びの変革アクションプラン」の「コンピテンシー※の育成を目指した主体的な学びの充実」という目標を受け、「広島で学んで良かったと思える日本一の教育県の創造」を目指して広島叡智学園が計画されたそうですが、中学・高校ともに国際バカロレア(IB)を採択された理由はなんでしょうか?
「学びの変革」をするためには、授業を教授型から課題発見・解決型に変える必要がありました。通常の学びで課題発見・解決を実現させるためにはそれを実践する場が必要になります。子どもは一人ひとりが違うんですね。IBを採択したのは子どもたち一人ひとりの主体性をきちんと見ながら教育をする必要があったからなんです。子どもたちの性格が異なるように、学校ごとの性格もあります。私たちの学校は子どもたちの個々の主体性に沿った学びの場を提供するためにIBを採択することにしました。

※コンピテンシーとは・・・グローバル化と近代化により,多様化し,相互に繋がった世界を生き抜くために必要な能力で,単なる知識や技能だけでなく,態度などを含む様々な資質・能力を活用して,複雑な要求(課題)に対応することができる実践的な力のことを指す。
参照:広島版 「学びの変革 」アクション ・プラン

国際バカロレアの化学(日本語)の授業を受ける1年生生徒

ー高校では全ての授業が英語で行われるそうですが、インターナショナルスクールや一条校のインターナショナルスクールとの違いはなんでしょうか?

本校では、授業の特徴としては日本語DPと英語DPの両方が準備されていて、生徒はどちらかを選択することができます。つまり、英語DPを選択している生徒はほぼ全ての授業が英語を使うことになります。授業は文科省の高等学校学習指導要領に則ってカリキュラムが作られているため家庭科や情報の授業もあります。しかし座学ではありません。また芸術の選択科目にfilm(フィルム)があります。アウトプットの多様性に対応するためです。一方で、言語教科は英語・日本語からの選択となり、他のインター校のように中国語・スペイン語・フランス語など全ての主要言語教科が準備されているわけではありません。学校運営では、学級担任やホームルーム担任制度と言った日本の高校のシステムです。スクールカウンセラーの数も日本の高校の基準です。学校は4月に始業し翌3月に修業というのも日本の学校と一緒ですね。

化学(英語)の授業は外国人と日本人生徒が混ざっている。教師はイギリス国籍。

親和性がある「IBの学び」と「地域課題の発見・解決」
島まってで学校をサポートしてくれる

ー地域連携はどのように運営されるのですか?
授業を通じての地域連携を行っています。例えば家庭科は実技・実習に地域の方々の協力を得ています。家庭科は課題発見・解決に直結するものになっています。家庭科の授業には島の方々の協力が欠かせません。座学はあまりありませんね。何十年も前からの良い伝統がこの島には残っていて、広島弁を使った授業や保育実習などを授業に取り入れています。保育実習の際には、島の保育所に丸ごと来ていただいて、イベント開催を兼ねての授業を行いました。「子どもを育てる」ということを家庭科の授業として学ぶんですね。もちろん家庭科だけではなく、地域との連携は複数教科に跨っていて、英語の授業として地元の中学生との英語プログラムを行ったりもします。授業以外でも地域との連携は欠かせません。平日は学校中心の子どもたちですが、週末は地域の人たちが子どもたちの親代わりをしてくれます。子どもたちは親元を離れて6年間をここで過ごすので、学校外の大人との触れ合いはとても刺激にもなるし、励まされるものでもあります。島の人たちは、生徒たちのことを自分たちの子どもや孫のように考えてくれていて、いつも挨拶してくれる生徒が挨拶をしなかったら、心配して学校に連絡をくれる人がいたりします。しかし残念なことに、地域連携としてやりたくても出来ないこともあります。当初は学校のカフェテリア(食堂)を一般の方々に開放したかったのですが、中学校の給食のルールの関係上、実現はできていません。

カフェトリウムはコンサートやミュージカルが開催できるホールにもなる開放的な食事空間。

ーIBで学ぶ子どもたちをみていて、これまでの県立高校生との違いはなんでしょうか?
一番の大きなことは1クラスが20人以下で授業を受けられることではないでしょうか?学校経営という意味では明らかに燃費の悪い学校だと思います。しかし、一人ひとりの子どもたちの学びや経験は他の学校ではできないものになっています。子どもは一人ひとりが違うので、まさにそんな学びが実現できていると思います。2022年度に、高校生が広島県科学オリンピックで広島県知事賞(金賞)をいただきました。彼らは広島叡智学園中学校の一期生で中学からIBで学んできた生徒です。PTAの皆さんが生徒たちの頑張りを称える横断幕も作ってくださいました。

そうそう、生徒が授業を受ける態度も一般的なインターナショナルスクールのようになってきました。校長先生の話を聞くのに足を組んでいる生徒がいますが、前任校だと担任も一緒に注意されたかもしれませんね。しかしここでは自分が話を受け取りやすい体勢をとることは当たり前なんですね。どちらが良い悪いという話ではなく、当たり前が国や教育方針で変わるものであることを私たちも日々学んでいます。

空き教室は自習場所にもなる。授業がない時間は寮に戻る生徒も多い。

3人の先生方の話の中でも「燃費が悪い学校」とおっしゃった福嶋校長の言葉が非常に印象的でした。新しいことをするにはとても大きなエネルギーが必要です。様々な困難を乗り越えるには燃費が良いわけがありません。県を動かす、国を動かす大人の言葉はとても重たいものでした。近隣住民の方々がこの学校をサポートしたくなる気持ちを私自身も感じました。(後編へ続く)

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