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時代を超えて大切な ”自身の文脈で生きる”とは?

今回登場するのは、キーパーソン21にて広報担当理事を務められている堀 悟さん。自身の人生を振り返り、「1990年前後のバブル経済時代の画一的な価値観の中で何の疑いも持たずに、世間で良しとされる生き方に従って生きてきた」と語ります。

しかし、今勤めている会社への転職をきっかけに、自身が「そういうもの」だと思っていたことは、「絶対」ではなく、自分の軸を基に社会の適切な場所に自分を置くことが大切、ということに気づいたそう。

そんな堀さんから見た世界の見え方の変化を伺いました。
社会が大きく変わろうとしている昨今、自身のアイデンティティやキャリアに悩んでいらっしゃる方、ぜひご覧ください。

わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン図鑑」。
認定NPO法人キーパーソン21がお届けします。

【図鑑No.29】
お名前

堀 悟
お仕事
広告会社のコンサルタントとして依頼主の文脈で、伝えたい相手にメッセージを伝えて、アクションにつなげること
(人の想いと世の中をつなぐ、コンテクストデザイナーを目指し修行中)
わくわくエンジン
物事の本質をわかりやすく伝え、人の心を動かす羅針盤となること

世の中の風潮に従って生きてきた


――「世の中の風潮に従って生きてきた」とご自身を振り返っていらっしゃいますが、社会人としてどのような過程を経て今へと至るのでしょうか。

私はほぼバブル世代の人間です。
右肩あがりの社会の中、親も教師も友人も同じ価値観の人が多かった印象があります。

経済が右肩あがりの社会の中、社会全体が同じ価値観で動き、同じ、違うということを意識できるレベルにないほど、人々は同じ考え方で生きていた感があります。多様性なんて言葉は、その頃の辞書にはなかったんではないかと思うくらい(笑)

同一価値観の世の中で、「偏差値の高い高校→いい大学→安定した著名な大企業→30(歳)前に結婚→子どもは2人くらい→定年→余生」という人生を「良い人生」とする世間の風潮にのって生きるということに、まったく疑問を抱かず生きていました。
(いわゆる20年学び、40年働き、20年余生という、リンダグラットン著:LIFE SHIFTでいわれている典型的な人生)

大学卒業時の新卒就活では、親の紹介で一部上場のメーカーへ入社しました。就活では、当時名前を知っている会社を業種隔たりなく手当たり次第受けていましたが、軸も何もなかったから当然採用もされず、仕方なく親に紹介してもらった形です。

その後、外資系の会社に行ったり自分なりに環境をかえて、うまくいきそうな仕事を模索するんですが、自分の心に向き合うことなく、世の中の仕事に自分を当てはめる感じだから、あまりいい感じではありませんでした。

当時を振り返ってみると、自分なりに頑張れたところもあるんだけど、BtoBの営業とかで問屋を回ってたりしても面白くなくて。夜は得意先の人がやってる麻雀を後ろから見てるんです。わかりもしないのに(笑)

でも、周りもみんなやっていることだし「仕事や会社ってこういうもの」って考えていましたね。先輩のやってる通りにできなくて、上司に怒られても、自分が悪いと思っていた。そこに、自分を適切なところに置いているのか、なんてことは思いもつかず。

社会人ってそんなものなんだと、全く疑問を持ちませんでした。


自分という個性を置いていい場所があるんだ!


――そんな中で、転機があったといいます。どのようなものだったのでしょうか?

きっかけは、いま勤めている広告会社へ転職したことです。
今の会社で働いてみて、仕事についてそれまで僕が抱いていた「当たり前」が「絶対」ではないことに気が付いたんですよね。

今の会社へ転職して、それまでと大きく異なったのが「仕事のやり方」でした。

それまでは、言われたことや、すでに決まった枠組みの仕事をいかに回していくかという仕事でしたが、転職した広告代理店では「そもそもこの案件を、どのような仕事にするか」という構想の部分から入っていくことを求められました。

それまでの仕事のやり方と全然違う雰囲気、価値観に、僕は「仕事って、こんな自由にやっていいものなんだな」と衝撃を受けましたね。自分という個性を置いていい場所があると。
周りをみると、夫婦でそれぞれ赤と青に髪を染めている社員もいるし、目標面談で音楽かけながら踊っている人もいた(笑)。

広告代理店の仕事は、クライアント(顧客企業)からいただく「~っぽいものやりたい。」「~な感じで。」という感覚的なオーダーを言語化し、多くの利害関係者と一緒にプロジェクトや制作を進めていくことが多くあります。

その際に大切なのが、僕自身も大切にしている「言葉やものごとの解像度を高めていくこと」。

例えば、日本語では同じように「面白い」と表現しても、英語だと「funny」や「interesting」のように2つ以上のニュアンスが存在する場合があります。
クライアントが描くニュアンスをより的確に理解するため、幅広い言葉の表現を用いるようになり、そのために多くのインプットをして自分の引き出しを増やすようにしました。

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自分らしく豊かな人生を送る


――キーパーソン21へはどのような経緯で参加されるようになったのでしょうか?

前述のような経緯で、私は40歳を過ぎてようやく自分には何が向いているのか、自分自身は何が好きなのかなどについて、考えるようになりました。
同時に、自分の人生を振り返り、自分は大学生の時になんて適当な新卒就活をしたのだろうかと後悔の気持ちもありました。

当時は周囲も画一的な価値観の下で就活をしてその後仕事に面白みを感じられない人も多かったですし、企業は「コミュニケーション能力がある」「リーダーシップを発揮できる」などの黄金の学生像を示し、学生はそれにあわせて経験を作り出し、エントリーシートに記入する。

そんな、社会に合わせて生きていくような生き方では、自分らしく豊かな人生を送ることはできない。これはどうにかしないとな、とキャリア教育に興味を持ちました。自分の今までの経験で得てきた多くの引き出しも活かせると思ったし。

キーパーソン21との出会いは、キャリア教育についてインターネット検索で調べている中で、”キーパーソン21の日”というイベントのことを知ったことからでした。多くの人が当時会場だったマイクロソフトの会議室に集まっている中、参加したことを覚えています。(※キーパーソン21の日とは、会員向け、外部向け、形態は企画内容によりますが、一つのテーマをもとに多様な人とコミュニケーションをとれるイベント)

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あらゆる場面の根底に いろんな内発的動機がある


――自身は、キーパーソン21に入ってから、わくわくエンジンが明確になったということでしたが、どのようなものがどのように見つかったのでしょうか?

雷に打たれるように思いついたわけではなく、仕事の中で日常のアンテナを高く張ってインプット&アウトプットを繰り返す中で、日々少しずつ自然に形作られていきました。ぼんやりみえているものの解像度があがってクリアになって、アナログの画像が4Kに見えてくるように。

仕事だけでなく家庭や趣味などあらゆる場面の根底に、いろんな内発的動機(わくわくエンジン)があることに気づくことができましたね。

今の自分には、いくつものわくわくエンジンがあります。そして、その中にはハイブリッドなエンジンも多いですね。
ハイブリッド車って、そのときの走行状態に応じてエンジンとモーターが切り替わりますけど、日常のいろんな状態によって違うエンジンが動き出す感じです。(※本文最後“付録2”にて紹介)

大学生サポートをきっかけに見えてきた私の進む道


――わくわくエンジン発見後、何か起こしたアクションや働きかけなどはありましたか?

もともと大学生の就職活動に問題意識を持って参加したので、キーパーソン21のステークホルダーの一つでもある大学生領域の活動ですかね。

文理選択など進路選択前の高校生に向けて、ちょっとだけ先輩である大学生が今までの人生や生き方について語るというプロジェクトが毎年ありました。

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僕は、スピーチする大学生が自身を振り返り、わくわくエンジンをクリアにすることのサポートをしていましたが、僕自身自分の大学生の時の職業意識に後悔があることもあり、思い入れを持ってこの活動に参加していましたね。

――大学生領域の活動の中で、特に印象に残っていることがあれば教えてください。

2017年に、ある大学生をサポートしていたときのことが印象に残っています。
その大学生は、わくわくエンジンの引き出しを、それまでも何度もキーパーソン21の大人にしてもらっていたそうですが、なかなかしっくりきていなかったそうなんです。

僕は関わる中で、その学生が言う言葉を別の言葉へ変換したり、それまでその学生が持っていなさそうな視点と発想で、より良い表現を自分の持っている引き出しの中から探すことを意識しました。

結果、その学生は、僕と関わる中で自身の内発的動機を表すより良い表現が見つかったと言ってくれたんです。
その学生は、僕のことを表現する時に「文庫本ではなくカラフルな絵本を読んでいるような。のり弁ではなく特上の幕の内弁当を食べているような。本当に堀さんは言葉をたくさん持っています!」と。これもほんとにうれしかったですね。

その後、彼女は自分らしさが明確になり、インフラや営業、拠点を決めずに動く仕事に対して方向性を見つけ就職が決まったんです。今ではお子さんもいらっしゃるんですよ。

――これからしてみたいと思うこと、こうしてみようと思うことはありますか?

やりたいことは、たくさんありますが、自分の人生に残された時間やリソースの中で、これからどういった方向に行こうかを今まさに考えています。
最近、いろんな人からいろんな相談を受けるんです。
会社の仕事外のところなんですが、独立や、管理職試験の取り組み方、働き方やモチベーションについてセミナーで対談してほしいとか。インド人の友達から日本語を教えて欲しいといったことまで(笑)

理由を聞いてみると、私と話していると、言っていることがわかりやすく整理されて、本質が見えてくる。そして気持ちが前向きになって、前に進む活力が出てくるっておっしゃっていただいているんです。

これって、私のわくわくエンジンそのものじゃないですか。きっとこの周辺に、私の進む道があると思っています。
組織でも個人でも自分の文脈があって、世の中に対して適切な場所に自分を置いてこそ、能動的になり能力を発揮し、社会に価値を提供できる。個人、組織に関係なく、そんなお手伝いをできるコンテキストデザイナーみたいなことができればいいですね。

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付録1)堀さん式、想いを明確にするためのコツ
■ できるだけ“ライブで”一次情報に触れ、五感を働かせてどこに自分の心が動くか感じ取る。それをタグ付けして記録しておき(ノートとデジタル)定期的に見直す。
■ 日々自分がどういうことをインプットしているか、したいと思うか。その理由を考える。
■ 自分の本棚に置いてある本を見る。そうすれば、自分が今興味を持っていることがわかる。
■ 積ん読も含め、自分の本棚に置いてある本を見て、自分の興味関心のポイントを確認する。
■ 全力少年となって、人とおしゃべり、対話する。
付録2)堀さんのわくわくエンジンいろいろ
日常のいろんな状態によって違うエンジンが動き出すようなイメージ

【メインのエンジン】
 物事の本質をわかりやすく伝え、人の心を動かす羅針盤となること

【それ以外のハイブリッドエンジン】
★ 日々インプットを重ねた自分のたくさんの引き出しを使い、本質を掘り下げること
★ 言葉を工夫して、素敵なメッセージを織り上げること
★ 十分な下調べ、丁寧なファシリテーションによって成果物を作っていくこと
★ 自分と接する人の魅力を見いだし、表現し、可能性を広げること
★ 人間が創り出すものへのリスペクトから、生きていく活力を見いだすこと
★ 多くの価値観のぶつかりあい、文化との摩擦の中から新しいものを見いだすこと
★ 自分に期待を寄せてくれる人のために、全力でその期待に応えること
★ 整理をすることによって、ものごとをシンプルに、美しくすること
★ 人生を有意義にし、自分らしい判断軸をもつため、美意識を磨くこと
★ バイアスがかかっていないものごとを自分の目で体験し、感じたことを、自分の言葉で表現すること

<編集後記>
いつも穏やかな笑顔が印象的な堀さん。
その裏側には、画一的な価値観の中で精いっぱい生きてきた過去と、自身の当たり前が崩れた経験を踏まえて過去の自分のような学生を救いたいという想いがありました。

時代は推移しても、周囲の「当たり前」から解放されることで人はわくわくするということはずっと変わらないことかもしれません。キーパーソン21の活動を通して、一人でも多くの子どもを、当たり前から自由にしていきたいなと改めて今回感じました。

(ライター・山田)

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