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原動力は自分の「違和感」 子どもたちと社会人をもっとつなぎたい

学校生活を楽しみながらなんとなく進学し、社会に初めて向き合ったのは就職活動の時。そういう経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?でも、それが当たり前の世の中で本当にいいの?今回登場するのは、安井章員(しょういん)さん。NPO立ち上げなど、精力的に活動を続けてきたしょういんさんが目指す先とは?

わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン図鑑」。
認定NPO法人キーパーソン21がお届けします。

【図鑑No.24】
お名前 
安井章員(お名前はふみかずですが、愛称がしょういんさん)
お仕事
会社全体の事業計画を作ったり、複数の部署にまたがる課題を解決する方法や新しい事業を創り出すためのアイディアをみんなと一緒に考えたり、職員がそれぞれ力を発揮でき、会社全体が社会に価値を提供し続けられるようにしていくこと(JAFで経営企画を担当)
わくわくエンジン
・誰もが夢をもっていきいきと暮らせる世の中をつくること
・自分の違和感を大切にして新しいことを生み出すこと


まったく違う環境だった中学と高校

― しょういんさんは、キーパーソン21に参加する前にも、教育NPOを立ち上げられていますよね。教育分野に興味を持ったきっかけは何ですか?

きっかけは、中学時代です。

通っていた中学が荒れていて、先生は騒ぐ生徒を追いかけまわすのに必死で、授業も成り立たない状況でした。それで、親に頼んで塾に行かせてもらったんです。塾に通い始めてみると、学校とのギャップに驚きました。きちんと授業が行われていて、こんなに学べる環境が違うのかと。子どもが学ぶ権利というものを初めて意識しました。

塾で受験勉強をがんばり、高校はいわゆる進学校を選んだのですが、高校生活はとても充実していて楽しかった!学校の運営が生徒の自主性に任せられていて、例えば服装や文化祭のルールも、生徒側が先生と交渉して決めていました。自分たちで物事を決めていくってできるんだなと驚きましたね。そして、これは私たち生徒が学校から信頼してもらっているからこそ成り立っている、この文化を守っていきたいという思いになりました。荒れていた中学と、信頼と自由で成り立っていた高校、まったく異なる学生生活を経て、学ぶ環境についての関心が高まっていったのだと思います。

大学で広がった教育問題への関心


――大学では教育学を?

進学したのは法学部です。正直なところ、つぶしがききそうというのが理由です。でも、やはり教育への興味はあって、教育学部の授業を聴講したり、教育関連のイベントなどにも参加していました。愛知教育大学の学生たちと知り合って、各地の教育大学の学生が持ち回りで行っているイベントに一緒に行ったり、愛知で開催したときは実行委員の一人にもなったりしました。

学部の3〜4年生の時のゼミでも、わりと研究分野を自由に選ぶことができたので、教育をテーマに論文を書いたりもしたんです。このような活動が、社会課題としての教育問題(受験、格差、管理教育、体罰、子どもの権利など)を広く知る機会となり、中学・高校でモヤッと思っていた学ぶ環境への関心が、社会全体への関心へと視野が広がっていったように思います。

もうひとつ、この頃から感じていたのは「学校の閉鎖性」です。私自身、大学はなんとなく決めて、初めて社会と向き合ったのは就職活動の時。今と違って社会人が学校に行くことはほとんどなく、子どもの頃に触れ合う社会人といえば、親と先生だけでした。そうではなくて、もっと早い段階から社会と触れ合うことが大事ではないかと。

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これがひとつの理想的な学びの姿だ!

そんな中、大学卒業後に、大きな出会いがありました。それは、「愛知サマーセミナー」です。

市民参加型のセミナーで、「誰でも先生になれ、誰でも生徒になれる」というコンセプトで、地域の私立高校を会場に様々な講座が行われていたのですが、このコンセプトがとてもいいと思ったんです。教えたい人が講座を出し、学びたい人が学ぶ。講座は誰が出してもいい。先生が普段の授業ではできないことを教えたり、高校生が自分の趣味の講座をしたり。それに父母や地域の人たちも。

これがひとつの理想的な学びの姿だ!

と、運営サポートをしながら、こういう活動が普段の授業の中で、ちょっとでも実現したらいいなと思いました。当時は「キャリア教育」という言葉も一般的ではなく知らなかったので、「市民参加の教育づくり」という言葉で表現していました。

この時の経験をきっかけに、友人とNPO法人アスクネットを立ち上げることになりました。当時は事業型NPOもそんなに一般的ではなく、市民活動団体がちらほらとNPO法人化し始めているという頃。大学の指導教官が名古屋でNPOの中間支援団体を立ち上げていたということもあり、事業型NPOを立ち上げること自体への興味も、もともとありました。

アスクネットでは、地域で活躍する市民と学校現場をつなぐことを目指し、「市民講師」による学校での授業実施などを行っていました。キーパーソン21 のプログラム「おもしろい仕事人がやってくる!」に近いイメージです。私自身は裏方として関わっていたのですが、様々なスキルを持つ人の話を子どもたちにきいてもらいたいという思いで活動を続けていました。

自分自身が学校現場へ。見つけた新しいやりがい


―― キーパーソン21 にはどのようなきっかけで参加されたのですか?

アスクネットは2005年頃に経済産業省の委託事業を行っていて、同じく委託事業を行っていたキーパーソン21のことはこの頃から知っていたのですが、初めて参加したのは2012年です。

毎月21日に行われていた「キーパーソン21の日」という、会員どうしが意見交換や交流をする場に参加させてもらい、会員のみなさんの多様さ、面白さにひかれました。社会人だけでなく学生会員もいて、主体的に関わっているのもいいなあと。当時、東京への転勤などをきっかけに、アスクネットに遠隔で携わるのが難しくなってきたこともあり、理事を辞任し、キーパーソン21でわくナビ(わくわくナビゲーター、わくわくエンジンの引き出し役)として活動を始めました。

―― アスクネットでは裏方を担当されていたけれど、キーパーソン21 では、ご自身が学校で生徒の前に立つことになりましたね

自分がプログラムを提供する側に回るとは思っていませんでしたね。でもキーパーソン21では、学校へ行く前の養成プログラムがしっかりしているから、誰でもわくナビとしてのスキルを身につけることができる。それで、私もやってみようと思ったわけです。

実際にやってみると、やりがいがありました。わくわくエンジンを言語化できると自分が大事にしているものがわかるので、見えてくる世界が変わり、ものの見方が変わってくる。学校や講座で色々な人がわくわくエンジンを発見していく様子は見ていて本当に嬉しかったです。多い時では毎週!参加し、わくわくエンジン発見の場にたくさん立ち会うことができました。

名コンビ誕生

「これって違うよね」とまず気づくのが何よりも大事


―― しょういんさん自身は、どんなわくわくエンジンを見つけましたか?


2012年の養成講座で最初に見つけたわくわくエンジンは

誰もが夢をもっていきいきと暮らせる世の中をつくること

これは大学の頃から芽生えていた自分のミッションのようなものだと思っています。2020年4月に新しく見つけたのは、

自分の違和感を大切にして新しいことを生み出すこと

この根底にも、やはり中学時代からの体験があるのだと思います。「これって違うよね」とまず気づくのが何よりも大事なことで、そこから、それをよくしていこう、変えていこうという行動につながっていく。
わくわくエンジンも見つけたことで、今、自分が活動している内容について、軸になっているものを再確認できたように思います。NPOの立ち上げや、今のキーパーソン21での活動も、こういうわくわくエンジンがあるからなんだなと改めて見つめ直せたような感じです。

自分の人生経験は丸ごと、わくナビの活動につながっている

―― コロナ禍の今、学校にはプログラムを届けに行けない状況ですが、「すきなものビンゴ」のオンライン実施の取り組みも始まっています

オンラインでの実施は、最初は不安もありました。画面越しにしかコミュニケーションができないので、現場に行くよりも得られる情報が限定されます。でも実施してみて、とても手応えがありました。
まず、相手が話す内容をしっかりメモすることができたこと。対面の場合は、メモをとり続けるわけにもいきませんが、その点、オンラインは気兼ねなくメモが可能です。

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話した本人は言ったことをすべて記憶しているわけではありませんが、メモをもとに本人が気づかなかった視点を見つけたり、話し手の言葉の真意をつかみ、新しい得意にたどり着いたというケースもありました。1人1人に手あつく対応ができるんです。

また、他のわくナビさんからのフィードバックを一緒に聞くことができるので、自分にはなかった新しい視点を取り入れたり、フィードバックの仕方を参考にさせてもらうこともできました。

オンライン版「すきなものビンゴ」やこれまでの経験を通して、わくナビとしての自分にちょっと自信がついてきたと感じています。これまでは、例えば定時制高校の生徒に「個別アクション」プログラムをやったりするのに、ちょっとニガテ意識もあったんです。どれだけ本気の言葉を引き出せているかなとか、お互い言葉にしきれない感じが残ってしまう気もして。自分の中で、表現の蓄積が十分ではなかったところもあるのかもしれません。

でも、ある程度の人生経験を重ねてきたことで、相手の言葉の中から私が気づいたものをフィードバックして、その人自身の言葉でわくわくエンジンを見出してもらうプロセスが自分の中で腑に落ちた感じがしています。相手があまり話してくれない時も、以前なら「全然話してくれなかったな」と感じていましたが、最近は「それでも、これは話してくれたな」と捉えられたり、小さな変化に気づいたり。相手が言っていることの共通点を見つけたり、声かけの幅も広がってきたように思います。

今、キーパーソン21のプログラムの中でも、わくわくエンジンの大事さが再認識されているように感じます。これからも、自分の中の経験を総動員して、楽しくフィードバックしながら一人ひとりに向き合い、よりたくさんのわくわくエンジン発見の場に立ち会っていきたいです。


「わくわくエンジンが当たり前の社会」への共感者を増やしたい


――今年は、キーパーソン21の理事にも就任されましたね

理事として、ファンド・財務領域を担当しています。アスクネットの経営をしているときに資金繰りで悩んだ経験から、NPOの経営について学びたいと思い、2015年に日本ファンドレイジング協会の認定資格を取得していたのがきっかけです。今は主に、寄付や会費をどうやって集めていくか、という点を考えています。
特に、「会員にはならないけれど、キーパーソン21はいい活動をしているから応援したい」という方からの寄付をどうやって増やしていくか、が今の課題です。
一般的に、寄付は「課題解決型」の事業に集まりやすい傾向があります。例えば、貧困家庭の子どもへの学習支援、災害支援など、今、起きている問題に対する支援です。
一方で、キーパーソン21の事業は「価値創造型」といえます。支援してもらうには、「わくわくエンジンが当たり前の社会を作りたい」というビジョンに共感してもらう必要がありますが、課題解決型に比べると共感へのハードルが高いのが現状です。「キーパーソン21が目指す未来は、自分にとってもよい未来である」と多くの方に共感していただくためにはどうすればいいのか?難しい課題ですが、取り組んでいきたいと思います。

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(編集後記)
しょういんさんの話を伺って、キーパーソンの会員がわくナビとして誰でも学校現場に行けるのは、きちんと養成プログラムがあるからで、これは当たり前のことではないんだ、ということに今さらながら気づきました。そして、重ねてきた人生経験が子どもたちと向き合う時に活きているという感じ方がとても素敵だなと思いました。色々とつい忙殺されがちな毎日ですが、何気ない日々を大切にし、過ごした時間をしっかり自分の中に積み重ねていきたい!
(ライター・ズーミン)

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