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「個人的なノートブック」を再開します。

突然ですが、個人のノートブック(定期購読マガジン)を再開します。3年ほど前に、実は少しだけやっていたことがあるのだけれど、そのときは手が回らなくて(ウェブマガジン「遅いインターネット」)の立ち上げの時期でした)数ヶ月で閉じちゃいました。でも今回はしっかり続けたいと思っています。

なぜ、このタイミングで再開するのか……というと、書きたくなったからとしか言いようがありません。この4年ほど、僕はどちらかといえば編集者としての仕事ーー「遅いインターネット」「モノノメ」などーーに注力してきました。うまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともあるのだけれど、個人的にはなかなか手応えを感じています。この秋には「モノノメ」という新しい紙の雑誌を立ち上げました。僕の仕事は、17年前に紙の雑誌をつくることからはじまっていったので、ぐるっと回って、原点回帰したようなところがあります。しかし、この時代「だからこそ」紙の雑誌に回帰したというのは、とても必然性のあることで、僕のなかではとてもしっくり来ています。読んでくれた人からも、予想以上に評判がよくて、ほっとしています。もう少し売れてくれるといろいろ楽なのだけれど、試行錯誤しながらやっていくので、付き合ってもらえると嬉しいです。いま、次の号をつくっています。

さて、個人のノートブックを再開することに話を戻したいと思います。
僕は、この数年はなるべく自分のメディア以外では、時事的なことに意見を述べないようにしてきました。それは、自分のメディアを大事にしようと決めていたからなのだけれど、もう一つ理由があります。それは、いまのインターネットの言論空間にはあまりかかわりたくないと考えたからです。もちろん、いい仕事をしている同時代の尊敬すべき知性はたくさんあります。しかし、その一方でやはり僕は今の言論空間に積極的に関わりたいとは思えなないところがあります。

今のインターネットの言論空間は、閉じた相互評価のゲームのようなものです。多くの人が自分でも気づかないうちに、ある問題に対して問題を解決するにはどうしたいいかでも、問題そのものが妥当かを問い直すことでもなく、この問いにどう答えると他のプレイヤーから評価されるかが発言の基準になってしまっている。人間は自分の投稿が評価されることが気持ちがいいし、現代はこうした他のプレイヤーからの評価を換金や集票に結びつける仕組みも整っています。

こうした情報環境下では、まず既に誰もが話題にしていること以外を話題にするインセンティブが低く、そしてその話題に対しても、問題を解決するアプローチや問いを立て直すアプローチよりも、既に支配的な2つか、3つの意見の中で、自分に親和性の高い答えを選ぶのがもっとも効果的な選択です。たとえば、僕の読者層を考えるのなら左派ポピュリズムに舵を切るか、弱い側を、負けた側をーーたとえばこの今日の政治状況を考えるとリベラルな勢力をーー小馬鹿にしながら非難して自分を賢く見せる(そして同じように自分を賢く見せたいコンプレックス層を動員する)のが、おそらく効率は良い。しかし、僕は割り切ってそういうアプローチを取ることなしたくなかった。タイムラインの潮目を読み、独自の問題設定を放棄してただ大喜利に答え続けることに、まったく価値があると思えなかったわけです。その結果として「遅いインターネット」という運動をはじめ、「モノノメ」で紙の雑誌に回帰することになりました。

その中で次第に、FacebookとTwitterはただの告知のためのBotと化したのですが、それでいいと思っています。その上で、僕がメディアの運営者ではなく一人の批評家として、ただし、既存の論壇のようなものとは距離を置いて発言するチャンネルがあるといいと考えるようになった……のが去年の秋です。そのあたりから、構想していたのだけれど、日々の仕事に追われているあいだに年が明けてしましました。

なので、このノートブックでは、この数年意図的に書かないようにしていたことも書いていこうと考えています。時事的な問題に対する見解、読んだ本、見た映画についての批評、これから書く本の構想といったことから、個人的な生活の中で考えたことをエッセイにまとめたものなどを書いていくつもりです。メディアの運営者という立場を忘れて、編集部のスタッフもかかわらないかたちで、ただ個人的に書いていこうと思います。思わず、真面目に書いてしまいましたけれど、僕の個人的な視点を読者と共有できる、楽しいものにしたいと考えています。

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マガジンの更新は週に1回(月4回)を目安にしたいと思っています。いまはまだ何もないので、とりあえず購読特典のようなものとしてこのnoteの過去の有料記事を一通りマガジンに収録しました。長く続けていくつもりなので、よろしくお願いします!

以下、マガジンに収録した過去の原稿です。

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僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。