note用人類を前に進めたい

アートの力で、歴史に人間をつなげたい! | 猪子寿之

今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第15回です。今回は、猪子さんが地元・徳島市で、自然や街をそのままアートにしたという「デジタイズド・ネイチャー」シリーズの新作と、シンガポール国立博物館で展示される「デジタルな自然」を作り上げた新作について語っていただきました。都市の自然や歴史と人前の関係に、アートはどのようにアプローチできるのか? 「ブラタモリ」や『Pokemon GO』と比較しながら考えました。最後に、大阪で開催する新しいミュージックフェスについての情報も!
◎構成:稲葉ほたて
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地元・徳島での『徳島ライトシティアートナイト - チームラボ 光る川と光る森』

猪子 前回の連載で、「とりつかれたようにデジタイズド・ネイチャーの作品をつくっている」という話をしたけれど、今回はその延長で、街をまるごとデジタル化するアート作品を、地元・徳島でつくったんだよね。

3年に1回のペースで「徳島LEDアートフェスティバル」というアートの祭典をやっているんだけど、その3回目にあたる今回はチームラボがメインで関わることになったんだよね。

宇野 徳島における猪子さんの権力を感じるね(笑)。

猪子 いやいや(笑)。徳島には青色LEDでノーベル物理学賞をとった中村修二さんが在籍していた日亜化学っていう世界的にLEDを製造している会社もある関係で、地元を盛り上げる意味も込めて、LEDを使って街を光のアートに包み込む作品をつくったんだよ。

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▲『徳島ライトシティアートナイト チームラボ☆光る川と光る森』
2016年12月16日から12月25日にかけて、徳島市中心部にて開催。

宇野 徳島かあ。学生の頃旅行で行ったっきりだなあ。あんまり印象なかったけど……。

猪子 いやいや! 実は徳島って、市内に138つも川がある、めちゃくちゃ川が多い「水都」なんだよ。昔はしょっちゅう洪水が起きていたらしくて、僕のおばあちゃんとかは、家中が水浸しになった話とか、隣の文具屋の紙がダメになったみたいな話を、超嬉しそうに話したりするんだよね(笑)。

そんな洪水にもめげず、地元市民は川をものすごく愛しているの。昔、那賀川というところにダムを作ろうという計画があったんだけど、30年以上地元市民が反対し続けて、全国的にも有名な、建設事業を中止した例になったりしたんだよね。

今回作品をつくったのは、徳島駅のある中心市街地なんだけど、ここにはそんな川がまさに交差しまくっていて、「ひょうたん島」と呼ばれる巨大な中州になってるんだよ。

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▲「ひょうたん島」の景色(出典

宇野 完全に川に囲まれているんだ。

猪子 その真ん中には徳島中央公園があって、さらにその真ん中には、室町時代から明治がはじまるまで城があった城山があって、その城跡の山が全国でも超珍しい、市街地にある原生林なんだよね。原生林自体がすごく珍しいのに市街地にある原生林ってのはほぼないと思うんだ。野鳥が80種類いたり、樹齢600年の、「竜王さんのクス」というRPGに出てきそうな名前のクスノキとかがある。ちなみに、ここのふもとには僕の通っていた小学校があって、月に1回は、この山の上の城跡で朝会をしていたんだよ(笑)。

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▲「竜王さんのクス」と呼ばれる古木。推定樹齢600年。(出典

猪子 今回、これらの川と森につくった作品は、フェス全体の「シンボルアート作品」という位置づけになってる。川に浮かんだ球体や森の木が、近くを通った人の存在や動きに反応してインタラクティブに光って、まわりに連続的に呼応して広がっていくようになってるんだよね。

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『呼応する球体のゆらめく川』(新町川水際公園にて)

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『城跡の山の呼応する森』(徳島中央公園にて)

「ブラタモリ」より画期的!? アートで徳島市の歴史と地理に接続する試み

宇野 この作品を見たときにまっさきに思い出したのが「ブラタモリ」かな。あれって特にリニューアルする前は、江戸期と現代の東京の地形の比較をひたすらやってたんだよね。

猪子 そうなんだ。

宇野 東京に住んでいると、道路網と鉄道網でしか位置関係を把握しなくなって、地形に基づいた地理感覚がなくなってしまうじゃない? 都市というのは本来、水の流れをベースに作られているはずなんだけど、東京は川が埋め立てられているし、流れも変えまくっているからその成り立ちを感じにくい。そこに対して「ブラタモリ」は、タモリが古地図を片手にウンチクを語ることで、高低差や水の流れから江戸期の街のもっていた文脈を浮かび上がらせる。こうして過去と現在、ふたつの街を重ねあわせていくわけ。

で、要するに今回の徳島ライトシティアートナイトの作品って、タモリというキャラクターを歴史ウンチクの代わりにアートを代入して、キャラクターと言葉でではなく、光や音や触覚体験を通して街の歴史と地理に人間を接続しているんだと思う。

たとえば、『呼応する球体のゆらめく川』の球体に触れると、まわりの球体も同じように色を変えたり音色を響かせたりと反応していくから、川の流れそのものがわかりやすく可視化されるじゃない? 水の流れに合わせて街が形づくられていることが昔に比べてわかりにくくなっている中で、それを身体的に体感できるようになっていると思うんだよ。アートによって街の成り立ちを浮かび上がらせることに成功しているよね。

猪子 そういう意味では徳島は東京に比べて昔の名残がちょっと残ってるかもね。あと、単純に川との距離が近い。川に浮かんでいる球体と岸辺の触れる球体が連続的なんだ。

宇野 それは、今夏に開催された下鴨神社の『呼応する球体 - 下鴨神社 糺の森』との比較で考えるとわかりやすいと思う。下鴨神社は閉じた空間での体験の提供だったわけだけど、『呼応する球体のゆらめく川』は開放された空間というか街そのものを舞台に川の流れと街になりたちを体感させる仕掛けだからね。『呼応する球体 - 下鴨神社 糺の森』が点的な作品なら、『呼応する球体のゆらめく川』は川の流れに沿うような非常に線的な作品だと思う。

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▲新町川の川べりの様子。水際と岸がとても近い。(出典

猪子 徳島市の街を形づくる地形が面白いと思ったんだよね。よく見るとヘンな地形なんだけど、ほとんどの市民は超レアな原生林があるということを知らないと思う(笑)。

宇野 でも、その特徴的な地理が徳島の歴史をつくっているわけじゃない? 俺は『Ingress』が好きなんだけど、あれも都市の歴史と地理への接続を、ゲームを通じてやっていたと思う。でも、かなり歴史寄りだね。ポータルは基本的に名所旧跡とインフラだから。僕は個人的にもっと地理的なアプローチをしたほうが面白いと思うんだよね。単に坂がある、とか川が流れているという地理の面白さも活用して欲しかった。その点、「ブラタモリ」は彼のキャラクターと博物学的な知識でそれをやっていた。でも、猪子さんはアートで人間と地理の距離を近くすることで、街の歴史への接続をより強く試みていると思う。

シンガポールの博物館に作り上げる『デジタルな森』

猪子 自然といえばもうひとつ、12月10日からはじまる作品があって、シンガポール国立博物館のガラスの円筒形建築の部分をチームラボの新作としてリニューアルすることになったんだよね。高さ約15メートルのドームの空中に橋がかかっていて、さらにその橋から壁沿いに、螺旋回廊が伸びている場所に、『Story of the Forest』という大規模なインスタレーション空間を発表するよ。作品入口から出口まで鑑賞者が移動する距離が全長170メートルを超える作品です。

宇野 今度はデジタルの森なんだね。

猪子 回廊の壁が作品になっているんだけど、そこにシンガポールの自然を、凝縮して再現しているんだよね。絵巻みたいな感じで、歩き進めると朝から夜へと時間が経過して、それぞれの時間で実際にシンガポールに生育している動植物が出てくる。しかも、乾季・雨季にまで対応しているんだよね。

で、動植物が出てくると、みんなが持っているスマホが反応して、図鑑になっていくようになってるの。そして「この動物はこういう生態系で、ここらへんに住んでいます」みたいな博物学的な情報を教えてくれるんだよね。

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『Story of the Forest』


宇野 これ、思いっきり某『Pokemon GO』じゃない?(笑)

猪子 いやいや! 計画自体は『Pokemon GO』よりもずっと前からある計画だったんだよ(笑)。

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