ニューヨークのイノベーションシーンについて(中編)|橘宏樹
橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
今回は、世界最高峰の研究機関で、日本の「理研」とも共同研究を行っているブルックヘブン国立研究所について紹介します。最先端の物理学研究が持つ実利的な側面と、それを国際競争に応用する日米それぞれの戦略とはどんなものなのでしょうか。
橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第9回 ニューヨークのイノベーションシーンについて(中編)
おはようございます。橘宏樹です。4月のNYはさすがに暖かくなってまいりました。うっかりダウンなんて羽織って通勤してしまえば、オフィスに着くまでには汗ばんでしまいます。
3月30日、トランプ前大統領が、遂に、刑事起訴されました。選挙資金を浮気の口止め料に使ったことが公職選挙法違反だ、口止め料の支払いの過程でトランプの会社の会計帳簿に虚偽記載があったぞ、というのが主な疑惑です。マンハッタンでは、起訴されそうだ、と言われ始めていた3月半ば頃から、トランプ自身による「抗議せよ」というSNSでの呼びかけに応じて、トランプ派が暴動を起こすのではないか、という観測が飛び交っていました。2021年1月6日の国会議事堂襲撃事件のようなことが起きないよう、警察もずっと厳戒態勢をとっていました。特に、裁判所や捜査を行っていたマンハッタン地区検察の検事長のオフィスは、暴徒に襲撃される可能性が高いと目されていて、警備も厳重でした。
3月下旬の2週間くらいの間、NY市民は、起訴は今日か明日か、でも毎日静かだな、しばらく先か、と、身構えながら過ごしていました。うちにも赤ちゃんがいるので、妻にもしばらく昼間の散歩は控えてもらっていました。
【解説】 トランプ氏起訴はみんな分かっていた、それでも大きな衝撃(BBC 2023年3月31日)
起訴が報じられた直後は、一時、道路で抗議を叫ぶ行列が見られ、かなり騒がしかったのですが、すぐに静かになりました。トランプ派内でも、暴れれば民主主義の敵扱いされて、むしろ民主党の思うつぼだ、民主党は我々を暴れさせようとしている、ここは我慢だ、という自制の呼びかけがあったり、そもそもトランプ支持者の熱狂がやや下火になってきていたり、といった事情があった模様です。いずれにせよ、ホッと胸をなでおろしております。
トランプ氏は他にも、2020年の大統領選挙時の投票結果を覆そうとした疑惑、別荘に機密文書を持ち帰ってしまった疑惑で、検察から捜索を受けており、これらにおいても、もうすぐ起訴されそうです。
さて、今号も、前号に引き続き、ニューヨークのイノベーションシーンについてご報告します。
実は、先日、非常に貴重なご縁をいただいて、ニューヨーク州のロングアイランドの東の方にある、ブルックヘブン国立研究所(BNL)を見学することができました。
僕は残念ながらド文系なので、以下知ったかぶりの域を出ない記述にはなってしまうのですが、自分で調べて理解できた範囲で、このBNLの凄さと、日本と実施している共同研究の価値についてお伝え出来ればと思います。
・ブルックヘブン国立研究所(BNL)とは
BNL(Brookhaven National Laboratory)は、米国エネルギー省直下の研究所で、主に物理学、量子力学、生体医学、環境、エネルギー等の研究を行っています。核物理、量子コンピュータ、最先端医療、軍事技術を含みます。要するに、米国の国家戦略に直結する分野における世界最高峰の研究機関です。訪問時のセキュリティも極めて厳重で、訪問の数週間前から多くの手続きを要しました。敷地は超広大で、総面積は21.4k㎡。港区(20.34k㎡)より少し広いです。約3000人の研究者が所属しており(港区の広さに3000人しか居ない!)、1947年の設立以来、7つのノーベル賞を受賞しています。
・NSLS-II
BNLにあるNational Synchrotron Light Source II (NSLS-II) は世界最高の放射光施設のひとつです。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。施設内に放射光のビームを発生させるポイント(ビームライン)をたくさんつくると、それだけ実験・解析ができる場所もつくれるので、自然と施設の建物は円形になります。
放射光は何の役に立つのでしょうか。例えば放射光を顕微鏡に用いると、原子レベルの小さい物質をナノレベルの解像度で見ることができます。新型コロナウイルスも感染爆発後すぐにここで分析され、ワクチン開発の基礎となる超重要情報が発見されました。また、リチウムイオン電池などがどのような化学変化によってエネルギーを蓄積しているかを「見る」こともできたりします。
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