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香港行政長官選挙を終えて|周庭

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。非民主的だと周庭さんが批判する行政長官選挙は、予想通りの結果を迎えることとなりました。しかし、選挙が終わると、予想外の事件が周庭さんを待ち受けていました。(翻訳:伯川星矢)

御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第7回 香港行政長官選挙を終えて

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前回、みなさんに香港の非民主的な行政長官制度を紹介しました。先日3月29日に行政長官選挙が終わり、新たな行政長官――林鄭月娥(りんてい・げつが/キャリー・ラム)氏が選出されました。

正直なところ、今回の選挙結果は完全に予想通りといえるものでした。行政長官選挙で勝つために最も重要なのは、一般市民からの支持ではなく、中央政府からの「祝福」だからです。選挙期間中、メディアはどの官僚が林鄭月娥氏を支持するよう呼びかけたかに報道の重点を置いていました。その報道の数日後には、どの官僚が遠まわしに曽俊華(ジョン・ツァン)を支持しないよう呼びかけたかが報道されました。実際、このようなことは香港人にとっては全く珍しいことではありません。毎回の行政長官選挙の度に、わたしたちはこのような情報を耳にしてきました。それは選挙委員会に属する大多数の親中派が利益と権力に屈し、中央政府の指示を待っているに過ぎないということを意味しています。

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▲行政長官選挙当日のデモ

香港人にとっての行政長官選挙とは、中央政府の候補者指定工作を見るだけのものではありません。それは、候補者が相手を蹴り落とすゲームでもあるのです。前回の2012年の行政長官選挙期間中、同じく親中派である唐英年(とう・えいねん)氏は、もともと多くの中央政府幹部の支持を得ていると予想され、「行政長官内定」が確実と見られていました。しかしその後、メディアが彼のスキャンダルを公開したのです。たとえば、隠し子がいる疑いとか、自宅の違法な地下室建設など。当時、メディアはクレーン車まで使って、彼の自宅を映して大きく報道しました。もちろん、このようなスキャンダルは突然発見されたわけではありません。これは綿密に計画された、彼を陥れるための策略だと思われます。誰がどういう目的でこれを行ったかは、わたしからはなんとも言えません。そこはみなさんの想像にお任せします。この一連のスキャンダルにより、世論も中央の「風向き」も変わりました。もともと唐英年氏を支持し、行政長官として最適だとコメントしていた親中派の選挙委員(全人代香港代表など)が、数日のうちに態度を180度変え、梁振英(りょう・しんえい)氏を支持することとなりました。その後に起きたことを香港人は忘れることはないでしょう。梁振英氏が689票で行政長官に当選したのです。

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▲撮影のオフショット

でも、今回の行政長官選挙では、意外にスキャンダルはそれほどありませんでした。それは候補者の三人(主に林鄭氏と曾俊華氏)があまり複雑な背景を持っていないことが原因かもしれません。今回の選挙戦で特筆すべきことは、SNSとPR活動です。林鄭月娥氏は選挙の勝利を予想されていましたが、そのPR活動の質は異様に低いものでした。Facebookが使えず、オクトパスカード(香港の交通系ICカード)で改札に入ることもできず、一般の支持率が低いのにもかかわらず公開ディベートで「もしわたしが香港人に行政長官として相応しくないと思われたら、辞任します」と宣言してしまいました。曾氏はSNSの運営や対外PR活動がうまく、林鄭氏とは対照的でした。当然のことながら、わたしが所属している香港衆志は政党として、行政長官選挙で一票(立法会議員が一人)を持ってます。しかしどの候補者を支持するにしても、評価規準はPRテクニックだけではなく、もっと大切なのは基本的な政治立場とわたしたちが死守する原則です。前回の連載でもお話した通り、わたしたちは一切親中派の候補者を支持しません。投票日当日わたしたちの代表ネイサン・ローは白票を投じました。

そして選挙の翌日、予想外の事件が発生しました。

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▲雨傘運動メンバー、9人の応援を呼びかける

その日の朝、雨傘運動の中で重要な立場にいた9人の参加者が警察から連絡を受け、3年前に起こった雨傘運動に関与したことで正式に起訴すると伝えられたのです。この9人の参加者のうち、民主派の現立法会議員が2人、元学民思潮のメンバーが2人でした。さらに、政府側は、数百件に上る調査が終了し、この9人以外の人間も近いうちに起訴すると予告しました。2015年の年始、わたしを含む学民思潮のメンバー4人が雨傘を理由に逮捕されましたが、今に至ってもまだ起訴されていません。ですから、わたしたちは年内起訴されることについて心の準備はできています。でも、なぜ選挙の翌日にこのような行動を起こすのでしょうか。噂では梁振英氏が林鄭氏に送った「お祝い」だと言われています。真実はわたしたちには確かめようがありませんが、確かに怪しく、これもまた綿密に計画された出来事だと思っています。

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▲ロンドンにて、現地に住んでいる香港人との食事会

最近、わたしは欅坂46の新曲『不協和音』を聞きました。その歌詞はとても共感できるものです。ぜひみなさんも、歌詞に注意をしながらこの曲を聞いてみてください。

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▲『不協和音』(TYPE-A) 欅坂46

(続く)


▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)

1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。

前回:第6回 香港行政長官選挙について
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宇野常寛が編集長をつとめる〈PLANETS〉の公式noteです。政治からサブカルチャーまで、ざまざまな分野のスペシャリストが集まっています。独自の角度と既存メディアにはできない深度で、読むと世界の見え方が変わる記事を月に20本以上の記事を配信しています。

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