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近代以降失われた色の階調を蘇らせたい | 猪子寿之

2018年最後の配信は、チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は大盛況というヘルシンキの美術館・Amos Rexの展示の話題から、人間の認知や感覚の限界へと挑戦する、計算機テクノロジーを活かしたアート作品。そして、近代以降失われた自然の色調をデジタルで蘇らせる「かさねのいろめ」の着想について語ります。
【お知らせ】
この連載が元となった猪子寿之×宇野常寛『人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界』が好評発売中です。

地下と地上をつなぐブラックホールに吸い込まれる滝

子 フィンランドのヘルシンキにある美術館AmosがAmos Rexという新館を2018年8月30日にオープンして、そのオープニングエキシビジョン「teamLab: Massless」を担当したという話は前にしたと思うんだけど……。

宇野 そうだね、工事中の美術館で記者会見していたよね。

参考:第29回 新しいパブリックを実現した都市をつくりたい!

猪子 連日、全員が入れないほど長蛇の大行列になってるらしいんだ。ヘルシンキは80万人都市なんだけど、そのうち半分くらい来てるんじゃないかっていうくらいの大混雑。もちろん海外からの人も合わせてだけど数十万人は来場しているみたい。前にも説明したと思うけど、ヘルシンキの都市の中心にある広場の地下にできた美術館で、天窓だけが地上にボコッと突き出している非常に素晴らしい建築なんだ。天窓の地上部分によって広場はアスレチックのように立体的な広場になっている。だから、『Vortex of Light Particles』はこの天窓のかたちを使って、空間自体を活かした、地下から地上へと関係性があるような作品にしようと思ったんだよね。

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▲『Vortex of Light Particles

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▲建設中のAmos Rex

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▲Amos Rexの外観・内観

宇野 これはどういう仕掛けがあるんだっけ?

猪子 天窓に向かって逆さまにに水が流れる巨大な滝と渦の作品なんだよね。天井の天窓から地上方向に大きな力が空間全体にかかっていて、ドーム状の天井のかたちに沿って水が渦巻きながら天窓へ吸い込まれていく。この美術館の建物自体、かなり気合が入った設計で、ドーム状の地下空間になってる。これは柱を使わずに構造を支えるためだと思うんだけど、その特徴を活かして、内壁の形状によって水の流れのかたちが決定される作品なんだよね。地上方向に向かう力によって、地上と地下をつなぐ天窓に、滝の水流が吸い込まれていく。

天窓は地上へのトンネルになってるんだけど、内部を真っ暗にしてるから、黒の平面に吸い込まれていく感じ。そこが穴なのか平面なのかの区別すらつかない。実際に見ると、ブラックホールみたいに見える。

宇野 こういう展示は、その空間が箱の中であると思わせない効果があるよね。チームラボのアートって、特に最近のものは、密室に閉じ込めることで、無限性や悠久の時間、彼岸の存在を体感させ、そこが有限の空間であることを一時的に忘れさせてしまう。これはただの穴なのか、あるいは吸い込まれているのか、本当に分からなくなるような感覚をもたらすことによってそれを実現しているわけだよね。

偶然性の情報量を計算機が超越する

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