大室note

長谷川リョー『考えるを考える』 第3回 産業医・大室正志に聞く、"自分探し系"生き方への処方箋

編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は21世紀の空海・石山洸さんが構想するメディア・レボリューションについてお伺いしました。第3回目となる今回はテレビをはじめ各種メディアで大活躍している産業医の大室正志先生です。教養と知識に裏打ちされた軽妙な語り口で知られる大室先生に、「働き方」や「メンタルヘルス」の現在から、大室先生自身の思考方法についても迫りました。「体系知から初期衝動へ関心が移ってきた」ーー。大室先生の知の源泉には、山下達郎から始まる音楽遍歴がありました。

長谷川 情報が氾濫しているなかで、特定の情報に精通した専門家の方は数多くいらっしゃいます。事実、産業医である大室先生も「働き方」や「メンタルヘルス」にスペシャリティを持たれています。一方で、テレビや雑誌など幅広いメディアで畑の違う方々と対談をされているのを拝見すると、専門から飛び出して思考しているのではないか、と考え今回取材を打診させていただきました。

大室 僕の思考の原型に影響を与えた一人は、現代アートの祖と呼ばれるマルセル・デュシャンです。磁器の便器を横に置いて署名しただけの彼の作品『泉』は物議をかもしました。彼は「選択と配置」という言葉で、この作品を説明します。つまり、選んで、配置し、『泉』と名付けたわけですね。「選択と配置によって、無から有を生み出す」ーーこういった思考に自分の原点があります。

音楽の世界でも同様で、スティーヴィー・ワンダーは新しいコード進行やメロディーを生み出す天才。無から有を生み出すために、音楽的知識を組み合わせるのに長けているわけですね。

長谷川 とはいえ、選択と配置をするために、そのベースとなる考え方のフレームも必要になりますよね?

大室 カントが提示した「真善美」のフレームが分かりやすいかもしれません。物事は「真か偽か」、「善か悪か」、「美か醜か」で判断できるわけですが、話のピントが合わない人は、おそらくこの判断基軸の前提を相手に合わせることが苦手です。たとえば、「この前観た『アウトレイジ』良かったね〜」といった話をしているとき、明らかに誰も『アウトレイジ』の極悪非道な内容自体は肯定していませんよね。

長谷川 「全員悪人」ですからね(笑)。

大室 そう。ただ、「あの映画は美しかった」と話しているにすぎない。「あれは法律違反だ」と言い出せば、いつまでもピントが合いません。ただし、それが行き過ぎても「映画は美か醜で観るもの」だと固定化されてしまう。なので、常にフレームワークを変えてみる発想を心がけています。

僕自身、完全に物事のフレームワークが異なる医学とビジネス、二つの世界に身を置いているわけです。労働者の健康のためのフレームワークと、収益性というビジネスのフレームワーク。どの立場から物事をみるかで、単位が変わっていきます。

医学と権力、病は社会によって規定される

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宇野常寛の〈PLANETS〉です。近くのことから遠くのことまで言葉にします。