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第12回 「ちょうどいい自分らしさ」

【日時】2019年5月28日(火)
【講師】遠藤純一郎さん、瀧澤綾音さん
【内容】言葉を声にしたときに生まれる様々な印象に気付くためのワークショップ

今回の講師の遠藤さんと初めて会ったのは、たしか、2018年の5月だったと思います。なんと前々から芸術幼稚園のことを知ってくれていて、こころよく講師を務めてくれました。

ここから当日のレポートです。

参加者は10人くらいでした。文化祭の直前で、準備が忙しく、教室が空いていなかったので、広い講義室での開催になりました。机と椅子をはけて空間をつくり全員で輪になりました。

まずはじめに自己紹介遊びをしました。これは、自分の名前や所属以外の自分にまつわること(最近ハマっているものや好きなものなど)を白紙に書いて、全員の白紙をシャッフルします。そして、その白紙をランダムにとって全員に配ります。そこに書いてあることを、まるで自分の話であるかのように話しながら自己紹介をするというものです。自己紹介になっていたのか分かりませんが、とても楽しく遊べました。

自己紹介をするときに、何を言えばいいのか迷ってしまうことがある人は多いと思います。この自己紹介遊びは、書いてあることを自分の話であるかのように話すという課題があったおかげで、迷いなく話すことができました。私の配られた紙には、車のフロントガラスが割れたこととスマホがウイルスに侵されたことが書いてあって、まじかよと思いましたが、あとで発覚したそれを書いた人に尋ねたところ本当でした。この自己紹介遊びで、雰囲気がほぐれました。

次に、谷川俊太郎の二十億光年の孤独という詩を、色々な読み方で読むというワークをしました。これは、色々な指示の書かれたカードを、1人1枚ランダムにひいて、その指示に従い、2人で詩の前後半で分けて読む、というシンプルなものでした。その指示というのは「とにかく間をあけて読む」「静かに読む」「床に寝っ転がって読む」などでした。

書いてある指示が非常にシンプルなものだったので、人によって解釈の違いもあり、どんな風に読むか自分で考えられるゆとりもあり、楽しかったです。私は「とにかく間をあけて読む」という指示のカードをひいたので、とにかく間をあけて読みました。発語と発語の間に、部屋の空気がピンと張るような緊張感がうまれて、ただ読むときとは全く違うように感じられました。

発表を終えたら、全員で発表に対する感想を話す時間をとりました。静かに読んだり、間を持たせたりすると、お得感があるという意見がありました。確かに、無の部分があると集中して聞こうとするよなと、当たり前のことかもしれないけれど不思議に思いました。

その他「声を出さない言葉をつくる」「隣の人に読ませる」など、面白い指示が出ました。詩の「僕は知らない」の部分をジェスチャーで表現してみたり、本当に読ませてみたり、同じ詩であることが信じられないくらい、それぞれ受け取る印象が異なりました。深刻な感じがしたり、異界にいる感じがしたりしました。また、詩の最後のくしゃみをするという表現が、どんな読み方をしても、良い緩みをもたらすという発見もありました。その部分を読むと幕が下りて発表が終わるという指示の役割になっているという意見が出ました。言わずもがな、その部分を読まないように読んだ発表もありましたが。

私が最も印象に残っているのは「好きな場所に移動して読む」の指示で読んだときのことです。そのカードをひいた人は2人いて、別の時に、それぞれ1人ずつ発表したのですが、1人目は部屋の中を移動しながら読むということをして、2人目は詩の好きな部分を拾うように進んだり戻ったりして読んでいました。指示を文字通りの意味でとると、部屋の中の好きな場所に移動して、そこで読む、ということなのかと思いましたが、2人とも確かに指示には従っていて、でも全く違う動きになっていたので面白かったです。解釈は人それぞれであることを、明らかに目に見える形で再発見した感じでした。

1人ずつ読むということも終えて、最後に、遠藤さんが何で芸術をやっているのか、やり続けているのかという話を少ししてくれました。自分は言われたら従うような学生時代を過ごしていたけれど、美術をはじめて色んな考え方があることを知れた、決めつけられている価値観じゃなくて、こんな生き方もアリだなということを、自分で考えて選べる、ということを言っていました。私は、その通りだなと思うことでした。参加者の中に中学1年生の子がいて、教室では自分の意見を言えないけれど素直に意見が言えたと言ってくれたのが嬉しかったです。自分らしくあることは難しいですが、自分は大丈夫だという安心感がある場所は、少なくとも必要だと思います。芸術幼稚園がそんな場所になってくれたらいいと思いました。

今回は、自己紹介と詩を読むという非常にシンプルなことをしました。でも、少しだけ自分らしさを表現できるような工夫がありました。それは、恥じらいもなく、もどかしさが残ることもない、ちょうどいい自分らしさで、だからこそ楽しかったと思えたのだと思います。また、同じことをするときにこそ、自分らしさが現れるし、必要なのだなと思いました。みんなの安心をつくってくれてありがとうございました。

最後に、読んだ詩です。

二十億光年の孤独 谷川俊太郎

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした






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