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コザの夜に抱かれて 第12話

「みゆきさん。指名です」
 前室でポーカーを眺めていたみゆきに黒服が声をかけた。
「はい。だれですか?」
「ダグラスさんです」
 一瞬、控室が凍りついた。その世界で生きている人間に、ダグラス、という人物を知らない者はいなかったし、恐ろしい、できれば自分の人生にはかかわらないでくれと思われる人物だった。
「今行きます」
 みゆきは早足で階段をあがった。部屋を整えて、受けつけに現れた。メガネはかけていた。なんにんかのみゆきと面識のある男が彼女を見たが、みゆきは気づかなかった。
 そして、きた。
「久し、ぶり、だな」
「わー。死神博士だー」
 みゆきは抱きついてキスをした。死神博士、と呼ばれた男は貼りつけたような無表情だった。
「行きましょう。今日は401です」
「あそこは、いい。月が、よく、見える」
「ええ」
 男のうでにうでを絡ませ、みゆきはエレベーターに乗った。ふたりとも、なにも喋らない。しかし、みゆきのうではしっかりと男に巻かれていたし、男もそれを嫌がる様子はなかった。エレベーターが一番上までつくと、ふたりは外階段を通った。男は勝手知ったる様子で、先に歩いた。階段は狭いのでみゆきはうでをほどき、代わりに彼の手をとった。
「今日は、なにをしてたんですか?」
 部屋に入ると、みゆきはそう尋ねた。
「東、シナ海は、今日も、いい匂いだった」
「お仕事、だったんですね」
 男は服を自ら脱いで、シャワー室に入った。あわててみゆきも服を脱ぎ、シャワー室に入った。
「死神博士は、最近どうですか?」
「まあ、それ、なりに」
「そうですか」
 それだけ会話を交わし、ふたりは熱い夜をすごした。みゆきも、死神博士と呼ばれた男も、気に入るようなセックスだった。
「さすが死神博士! 気持ちよかったです」
「今日、は、ミッドナイト・エクスプレス(脱獄)さ」
「ありがとう」
 そう言ってみゆきは彼のほおにキスをした。ダグラスの表情は変わらなかった。
「死神博士は、いくつ名前があるんですか?」
「……この、世界で、生きるぶんさ」
「そうですか」
「これを、やる」
 そう言ってダグラスの黒いリュックから出てきたのは、95パーセントがカカオのチョコレートだった。みゆきはそれを見て、くすくす笑いながら受けとった。
「今日はまだホワイトデーじゃないですよ」
「その、日は、来られないからな」
「ありがとう」
 男はなにも言わず、着替えはじめた。みゆきはXLのシャツのボタンをしめてやった。
「じゃあ、な」
「下まで送りますよ」
「いや、いい」
 死神博士と呼ばれた男は、それだけ言い残すと、部屋の四隅によどんだ孤独を残したまま、みゆきの部屋を後にした。

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