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スゴイのではなく当たり前の話

先日、労働基準監督署から電話があり『本年度の定期監査の対象企業として選定されたので〇月〇日〇時から監査を行います。』と告知のご連絡をいただきました。先代である父に確認したところ、父の代にも祖父の代にも、どうも監査は行われていないとの事。調べてみると労基法の制定が昭和22年(1947)4月であり、その中に労働状況監査についての記載があった事から、推測するに創業以来初めて労働基準局からの監査を受けることになったのです。

周囲の経営者仲間や先輩経営者からも労働基準監督署が来ると大変と良く聞いていましたし、父にも過去にあったか聞きに行った際に、「税務署よりも大変だしいろいろと指摘されるから覚悟して臨んだ方が良い。」と言われ、正直・・・そんなに大ごとなの?って少し驚きました。

僕自身も初めての経験なので、経営者をしていると、まだまだ未知のことがあり、もっと経験も知識も欲しいと思ってしまいます。でも、労働基準監督署さんって想像していたより全然優しんんだなと感じました。だって事前に確認させていただきたい事項が羅列された書類が届き、「この部分を確認させていただきますよ~。」って告知してくれるんです。

そして、どんな内容なんだろうと送られてきた書面を確認しましたが…実に30近くの項目について1つずつ確認されることが分かりました。これだけあると結構時間が取られるな・・・と感じたのですが、労働基準監督署で働く皆さんは公務員。なので時間を取られたとしても16時30分頃には終わるなと。実際3時間少しおられました。それについては後々、書きますが・・・

でも、送られてきた書面を見て、チェック項目を見て、僕がどう思ったかというと…『えっ?何が大変なん?余裕やん!』っていう感想をもったのが本音です。正直なところ、総務部長とタッグを組んで、日頃から書類の整備や法規関係を全て確認しながらやってきてるので、僕が受けた印象としては『いったい何が問題になるのだろう?』という疑問が生まれたのが本音です。日頃、一緒に労務関係の整備に尽力してくれている総務部長も心配して「大丈夫ですかね?この書類ありましたっけ?」と不安そうに言ってくるし、会長も『大丈夫か?』と言ってくるし…僕からすれば「全然いけるし何も問題なんてあるはずない」という確信しかありませんでした。

僕の認識では、従業員さんとの雇用契約というものは、相互契約であり、互いに守るべき義務があるという認識でずっと経営してきています。なので、従業員さんは労働を提供し誠実に社業発展に尽力するのが義務であり、経営者側は、従業員さんたちが安心して働ける環境を構築するために、労働基準法など関連する法規を遵守して経営にあたる事が義務であると捉えています。なので、労働基準監督署さんが「これらに関する書面を提出して確認させて下さい。」と言われても、そんなものは経営者としてやってて当たり前という認識しかありません。

だからこそ、経営者になって労働基準法の法規を読み、自分なりにノートにまとめ、大切な部分が抜けないように就業規則や各種規則を自分の手で作り替えましたし、父が経営していた時代に足りなかった必要書類は、総務部長とも協力して全て整備していきました。企業として法律で定められている事を社内に取り入れて、法律からは逸れずにやるべきことをやるのが経営者の責務だという認識しかないので、僕からすれば『労基さんが来ることの何が問題なの?』という印象しかありませんでした。

で、実際に労働基準監督署さんが来られました。まずは書類を確認させていただきます、と言われ契約書や労働条件通知書を出してください、と言われ出しました。書面に目も向けずに「まずは令和6年4月1日から変更になった事項があることはご存知ですか?それらを記載していただかないといけないです!」と強い口調でおっしゃいましたが『もちろん存じ上げております。そして実用済できちんと記載しています。』と答えると、『えっ?』と言われました。色々な中小企業を見る中で、社長がこういう業務をされている会社で、きちんと対応されていたケースは初めてらしいです。

大企業は労務専門の部門があるので、対応しているのが当然というケースが多いのですが、労務を社長自らがしている中小企業で、きちんと整備されており対応しているケースは初めて見たとのことです。次はタイムカード、リスクアセスメント、有給履歴簿、社内研修内容、賃金台帳、長時間労働勤務状況、残業管理、残業告知、長時間労働是正勧告など、色々と言われましたが、全てにおいてクリア。労働基準監督署さんから大変お褒めの言葉をいただきました。

僕はその言葉を聞いて『何で褒められるんですか?これって法律で決められてる事で、経営者として当たり前のことだと認識しています。僕らがしていることは法律に決められた普通のことだと思うんですけど?』と質問すると・・・帰ってきた言葉が衝撃でした。『もちろんその通りです。でも守っていない会社が95%以上なんです…経営者の多くは労働基準法を勉強しない、社労士に任せきりになることが多く、社労士も会社の実際の中身までは把握できていないので、社長に聞いても出来ていないことや分からないことがほとんどなんです・・・』と嘆いておられました。

僕は、他社の労務整備の現状については正直知りませんでしたので、本当に衝撃を受けました。これまで経営者として当たり前のことと思っていたことが、逆に世の中では珍しいのかと・・・それを聞いて『うーん…』となりました。とりあえず、何も問題のなかった労働基準監督署の監査。終わった後に従業員のみんなから「どうでした?」と聞かれたので『何も大きな問題もなく褒められたよ?』と答えると、『当然ですよね!』と数人に言われました。そんな風に見てくれているんだなと少し嬉しくなりました。

そんな中ある1人の社員さんが『こうした労務監査が入り注意される会社ってスゴク多いんですよね?業績にこだわる経営者は多いのに、労務管理にこだわる経営者が少ないと言うことですよね?」という質問を受けました。

僕の答えは『そうかもしれないね。知っての通り、僕は経営者の塾にも所属していたけど、業績についての話はたくさんあったね。従業員さんの物心両面の幸福の追求についても語る人もたくさんいたよね。でも、そもそも、そうした労務管理について学ぶ人も少なかったし、そういう点を重視する人も少なかったよね。今回のように労働基準監督署が入っても、何もないということは、会社として正しい姿を貫いているということ。業績がどうとか話す経営者もいるが、僕が稲盛さんから教えてもらったことは、正しく経営をするということ。それは、こういう行政の監査が入ったときに分かる。こういう部分も含めて、稲盛さんは正しく経営しなさい!とおっしゃっているという認識を持っていたから普段から整備していただけだよ。稲盛さんから学んだ物心両面の幸福を実現するためには、全員で取り組むんことが必要だといつも言うよね。じゃ、経営者はそこに含まれないの?というと、経営者はリーダーだから一番、率先して実現に向けて努力しないといけないメンバーの一人なんだ。だからこそ、まずは経営者自身が、自分の責任を果たさないといけないよね?その一つが労働基準法などの関連する法律の遵守だと僕は捉えている。例えば、今回のように労働基準監督署の監査が入り、たくさんの指摘事項があったりすると、従業員のみんなはどう感じる?社長は普段、従業員にはしっかりしろ!ルールを守れ!きちんと仕事に取り組め!と偉そうに言うけど、自分自身が全く責任を果たしてないポンコツ社長やん!ってなるでしょ?そんな社長に信頼感なんか生まれるはずないよね?こういう時に経営者の真価が分かると思う。きちんと整備されており、行政の監査が入ったときに何もなかった!となると、さすが社長!ってなるでしょ?だからこそ、皆もしっかりやらないと!ってなると思うんだよね。普段から労務の部分をしっかりと整備し、行政から突然の監査を受けても問題ない!いつでも監査していただいて結構!っていう経営が、稲盛さんがいう正しい経営だと思うんだよ。そういう経営をしないと物心両面の幸福なんか訪れるわけがないんだよ。労基が入ります!って連絡来て、バタバタするのは、普段から従業員のために法律を守って正しく経営しようという意識が無いと言うこと。そんな経営者が、皆と一緒に幸せな会社を創ります!って宣言しても、皆は呆れるだけだよ。昔の僕がそうだったからね。僕は皆から、また社長言ってるわ・・・と何度も思われたダメ社長。だからこそ、もう二度そうならないように本気でやるんだよ!』って、こんな感じで答えました。

そしたら、その子が「社長が外部からの評価を得るためにいろんな取り組みを社内だけでなく社外に対してもしておられるのを見てて、本当に「そこまでこだわるの?凄いな!」と良く思います。でも、それによって、今回のように外部の方たちに評価されると、私たちも評価されたようで凄く嬉しくなります!』と話してくれました。

僕はいつも稲盛さんに聞きたいと思ってます。こんな経営で間違ってないのでしょうか?と。答えを聞くことは出来ませんが、少しでも稲盛さんのおっしゃる正しい経営が出来るように、正しいことが当たり前と常に胸を張って言える経営者になりたいと思い、これからも歩んでいこうと思います。


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