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(2) 白鍵のみで即興、アンビエント・ピアノのススメ

こんにちは、作曲家・鍵盤奏者のワキマル・ジュンイチです。
今回は、前回の『一本指で即興、アンビエント・ピアノのススメ』の続きとなります。

前回は、黒鍵を使って一本の指で即興演奏をしました。
ファのシャープ(♯)を1番目の音(ソのフラット(♭)でもありますが)と考えたときに、ファ♯、ソ♯、ラ♯シ、ド♯、レ♯、ミ♯、ファ♯のシとミ♯を抜いたペンタトニック・スケール(五音音階)となります。

ファ♯、ソ♯、ラ♯、ド♯、レ♯、(ファ♯)のペンタトニック・スケール(五音音階)

そして、そのファ♯、ソ♯、ラ♯ド♯、レ♯、(ファ♯)の五音は白鍵で言いますとド、レ、ミ、ソ、ラ、(ド)に対応します。
ドをスタートの音とした(主音)、ド、レ、ミ、ソ、ラ、(ド)のペンタトニック・スケール(五音音階)となります。

ド、レ、ミ、ソ、ラ、(ド)のペンタトニック・スケール(五音音階)

これらのペンタトニック・スケールを使って、サステイン・ペダルを踏みながら、最初は人差し指で、その後片手で演奏したところで前回は終わりました。

今回はまず白鍵部分のみを使って両手で即興演奏してみたいと思います。
先ほども書きましたが、前回は黒鍵から導き出したペンタトニック・スケールを白鍵に変換しなおしてド、レ、ミ、ソ、ラ、(ド)で演奏しました。サステイン・ペダルを踏んだままでも、箏(こと)を演奏しているような感覚で、音が混じっても違和感なく演奏ができる、というところまで実際に演奏しました。
これを今回、ド、レ、ミ、ソ、ラにファとシを足した、お馴染みのドレミファソラシドを全て使って、サステイン・ペダルを踏んだままで演奏しました。

人によって感じ方は様々なご感想をお持ちになると思いますが、サステイン・ペダルを踏んだままで、こういった演奏もできる、という例がこの動画です。
前回、ドレミソラが一つの和音に聴こえる、コードネームでいえばC6(add9)になるので重なっても違和感がない、ということを書きましたが、このドレミファソラシドという音群も、実はそれほど低いところでなければ、重なっても、それほど気にならないどころか、面白い響きとして聴くことができます。音のパレットから音楽を紡ぎ出して時間に色を塗っていく、そんなイメージを持つことも可能です。
左手で低音を鳴らす場合は、前回にも書きましたが、例えば一つの低音を鳴らした場合、その音が減衰して聴こえなくなるのを確認して重ねると、音が濁りません。
もちろん、音の重ね方によっては、減衰する前の音に更に音を重ねてもおかしくない場合もあります。例えば、ドに対してソ、レに対してラ、あるいはドとソを重ねて和音として鳴らすという方法もあります。

前回、タモリさんの動画のところで、モード・ジャズという言葉を書きましたが、今回の即興演奏は「ドレミファソラシド」をこの「モード」という発想のもとで演奏しています。

モードとは「mode」、日本語では「旋法」となりますが、ここでいうモードとは「church mode」、あるいは「gregorian mode」で教会旋法と訳されるものです。例えば、グレゴリオ聖歌などで良く聴かれる、あの調べがそうです。

モードは、いわゆる長調と短調が確立される以前に、8、9世紀から16世紀あたりまでの中世ヨーロッパで主流だった音階です。
その後、機能和声(コード理論)の発達により、長調や短調をベースとしたものに変わっていきました。

ジャズや昨今のゲーム音楽でも良く使われていますが、このモードを二十世紀に復活させた音楽家の一人が「ジムノペディ」で有名なエリック・サティです。

そして、モーリス・ラヴェルもその影響化でモードを独自の方法で多用しています。

ジャズでは、マイルス・デイビスの「So What」などが有名ですが、今回はこちらをご紹介したいと思います。

ドレミファソラシド、と言うと、ハ長調(Cメジャー)の音階という解釈が主流だと思いますが、元々はモードの一つでした。
やがて、ドレミファソラシドが長音階、ラシドレミファソラが短音階につながっていきますが、それぞれは在り方としては別物です。

白鍵であらゆるモードを演奏することができます。
どの音でスタートするかで、そのモードの意味合いは変わります。ちなみに古代ギリシアの旋法と同じ名称を使っていますが、別のものです。

Dorian mode(ドリアン・モード、またはドリア旋法)

Phrygian mode(フリジアン・モード、またはフリギア(フリジア)旋法)

Lydian mode(リディアン・モード、またはリディア旋法)


Mixolydian mode(ミクソリディアン・モード、またはミクソリディア旋法)

Aeolian mode(エオリアン・モード、またはエオリア旋法)

イ短調の短音階と同じ並びです。

Locrian mode(ロクリアン・モード、またはロクリア旋法)

Ionian mode(イオニアン・モード、またはイオニア旋法)

ハ長調の長音階と同じ並びです。

今回の即興演奏では、これらのモードをそれほど意識することなく演奏しましたが、次回、それぞれのモードを使って即興演奏してみたいと思います。

こちらオマケ動画です。前回黒鍵のみで即興演奏をしましたが、今回はその即興演奏にエフェクトを使っています。ご覧いただければ幸いです。


最後に少し音楽用語の話をしますと……、
先ほど、即興演奏での説明で、低いところでドとソの和音を重ねるという方法もあると書きましたが、ドとソの音程の関係を完全五度と言います(英語で言うとPerfect 5th。音程とは二つの音の高低の差のことです)。五度の「五」はドを一番目の音としたときにドレミファソと数えていくと五番目の音に相当するからです。
ちなみに、なぜ「完全」と言い表すのか。簡単に書きますと完全な音程のことを「完全音程」と言いますが、それは音がうねらない音程を指します。完全四度(例えば、ソとド)、とか完全八度(ドとオクターブ上のド)なども完全音程です。
ただ、厳密に言いますと音律で言うところの純正律では完全にうねらない響きを出せますが(例えばバイオリンなどの弦楽器など)、平均律では若干うねります。完全な五度の響きではないということです。
現代のピアノは基本的に平均律を採用しているので、純粋に完全な音程、響きは出せません。ただ、完全な音程は出ない変わりに、調性を変えたり、転調しても違和感がないのを可能にしたのが平均律、とも言えます(ちなみに電子キーボードでは純正律などに変えられるものもあります)。
他にも、音程の転回の説明で、なぜ完全と呼ばれるかの説明もできますが、この完全音程、調性(長調=メジャー、短調=マイナー)の変化の影響を受けません。
ドミソ、という和音、コードで言うとC(Cメジャー、長三和音)ですが、真ん中のミの音がミ♭(ミのフラット)になりますと、Cm(Cマイナー、短三和音)になります。真ん中の音次第でメジャーかマイナーか、和音のあり方が変わるわけですが、ドとソのみの和音ではメジャーかマイナーか、という判断はできません。よって調性の影響は受けないということです。あるいは、どんな調性かは、前後のフレーズによって決定されるということになります。
この五度のことを空虚五度、あるいはパワーコードと言ったりします(わかりやすいところで言いますとロックでよく用いられます)。コードネームではC5と表記します。

この五度の和音は、ドとソという二つの音からできた和音という考え方と、和音とはみなさずに、重ねてできた音は一つの音、という考え方もあるようです。音と音が溶け合うからというのと、もう一つ音が入った三和音で、音の性格が決まるから、ということなのかもしれません。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

今月、6月26日に神楽坂グリーさんのグランドピアノを演奏するオンラインライブを行います。即興演奏多めの内容となると思いますので、よろしかったらご覧ください。

XやInstagramもやっています。たまに動画も載せますのでよろしかったらご覧ください。
X
https://x.com/marujun_w
Instagram
https://www.instagram.com/marujun_w/

また、warp jamというジャンルレスのピアノトリオもやっています。
ご興味持っていただければ幸いです。

お箏の曲も今年書くことができました。
この曲で使っている音階についても、またこのnoteで書かせていただければと思います。
よろしかったらご覧ください。


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