何もなくても人はいる! 進化する「自主防災組織」と村づくり【福井県美浜町を発掘!】
今回は「集落全体で防災訓練」をやっている場所があるという噂を聞いて、美浜町佐野地区にやってきました!
お届けするのはWAKASA発掘調査隊長の寺井です!
お話を聞いたのは佐野地区の区長、大塩友之さん。
「この集落には何もないかもしれんけど、人はおる。村づくりはな、人づくりなんや!」
大塩さん、熱いです!
約2時間ノンストップで佐野地区の取り組みについてお話を聞かせてもらいました。
すると出るわ、出るわ、いろんな取り組み!
防災訓練の事を聞きに行ったはずが、いろんなお話を聞かせてもらいました。
この佐野地区、なんと、ここ数年で24世帯89名だったのが、27世帯100名に人口が増えているそう!(12%増⁉すごすぎ!)
市街地というわけではなく、田んぼに囲まれた小さな集落だというのに!です。
今回はそんな佐野地区の秘密に迫っていきたいと思います。
伝統的に続く村の行事
佐野地区の1年は1月4日の「祝いましょう」から始まります。
これは、地区の子どもたちが竹で厄を払いながら、集落の全ての家をまわる行事。
子どもたちは各家で一人ずつたくさんのお年玉をもらうことができるのです!(和製ハロウィン⁉)
その代わり、松の内が過ぎると子どもたちが各戸のしめ飾りを集めてどんど焼きをします。
大塩さん「ラジオ体操はみんなでやるし、合同奉仕作業ももちろんみんなでやるんや!」
さらに、「佐野区旅行会」は昭和40年代から約50年続いているそうです。
(ここ2年は残念ながらコロナで実施できていないそうですが…。)
ちょっとしたお話を聞くだけでも、地区の結束の強さをバシバシ感じました!
集落の新たな取り組み「水土景新聞」
平成20年からは大塩さんが代表となり、佐野地区に「水土景の会」を結成。
農地、水、環境保全活動に取り組むために結成された会で、会員は佐野地区と隣の上野地区の全住民!
つまり約50戸が参加しており、家族構成や職業もさまざま。
活動内容も、泥上げや草刈りの共同作業から、土づくりや苗づくりなどの研修活動、中学生の農業体験など幅広いです。
こうした複数の地区が連携する取り組み自体が珍しいようなので、とても素晴らしい活動だと感じますね!!
さらに、その取り組みを大塩さんが自分の言葉でまとめ、年に1度、「水土景新聞」として発行しています。
全戸に配布して、地区のみんなが読んでいるそう!
こちらの新聞は手作り感満載でとても心温まるものです。
なにより良いのが、集落の皆さんの笑顔の写真がとても多いこと。
そして、全ての新聞に必ず「村づくりは人づくり」と書いてあるのです。
ここには大塩さんの並々ならぬ決意を感じます。
大塩さんは佐野地区のことについて「みんなが自分自身で考える」というスタンスを大切にしています。
そして、若い人にも村づくりに積極的に参加してもらいたいと考えているそう。
そんな想いが若い人にも伝わり、昨年には佐野地区の若者12名による「NGA佐野(佐野次世代の会)」が設立されました。
今後は佐野地区の未来につながる活動を実施していくそうです。
また、佐野地区では、イベントに参加しない人がいてもそれを責めたりはしませんし、陰口をいうのも良しとしません。
「人の悪口をいっても楽しないもんな」
素敵です、大塩会長!
そういう雰囲気だから、移住者も増えているんでしょうか?
そして、このような活動が認められ、平成24年には北陸農政局農地・水保全管理支払優良地区表彰に推薦され、県下670団体の中から見事、知事賞も受賞しています!
隣の空き家を買って賃貸に?!
佐野地区には地元からだけでなく県外からも移住者がやってきており、ここ数年で人口が増えています。
空き家になった家を隣の人が買うという取り組みが行われており、新たな住民が佐野地区に住みやすくなっているのも理由のひとつ。
中には永住を決意して家を購入した世帯も4軒あり、しかも若いご夫婦ばかりだそう。
また、大塩さんは「空き家を解消したらそれでよい、ではなく、新しい人が入ってこられたら、お互いが仲良く住みやすくなるようにしていくことの方が大切」と言います。
「新しく入ってきた人から学ぶことも多く、地区の活性化につながっています」とも。
こうしたウェルカムな雰囲気があると、新しく入ってきた方も地域にすんなりなじめそうですね!
みんなで参加!原子力防災訓練
「そうやった!原子力防災訓練のことを聞きにきたんやったな!その時にDVDも作ったんや!見てみ!」
ここまでさまざまな取り組みを話してくださった大塩さん。
ここでいよいよ気になっていた防災訓練の話題に!
それにしても…DVD?!
うぃーん、ぽちっ。
(効果音)デデデン、デデデン、デデデデ、デデデン…
?!
冒頭は有名な某怪獣映画のBGMから始まりました。
DVDの中身は、原子力発電所が発災し、住民が避難するまでのドキュメンタリー風。
住民の皆さんが一次集合施設に集まり、バスに乗って避難先(原子力災害の場合は発電所から30㎞圏外まで避難しなくてはいけません)まで行く流れをしっかりと訓練していました。
実はこの原子力防災訓練、今回は福井県が主導で行ったもので、
佐野地区からは代表で5人程度が町外に避難する予定となっていました。
しかし、実際には、佐野地区から100人中72人が自主的に地区の集会所に集まるという驚異の参加率!
仕事だったり、用事があったりでやむを得ず参加ができなかった方も、その家族が実際と同じように安否確認をしっかり実施したそうです。
しかも、参加者のやる気もかなりのもの!
皆さん、実際に避難する時に持っていくものを自分なりに考え、リュックに入れて集合。
貴重品や非常食、生活必需品や救急道具のほかにも、ウノやトランプなどを持って避難している人もいて、真剣さとリアルさを感じました。
原子力災害というと、もちろんシリアスなものです。
しかし、大塩さんが「リアルと笑い」をテーマに実施した結果、多くの人が参加し、アットホームな防災訓練となっていました。
進行役の人が小芝居風に演技をしたり、ケガ人役の人は包帯でグルグル巻きにされた上に、タバスコで血を表現していたり。
近所の知り合いがやっているから、みんなもクスクス笑っているのですが、
こんな防災訓練なら、忙しくても毎回しっかり参加したいって思っちゃいますね!
DVDがあるので、参加できなかった人も、これから移住してくる人も、何度でも繰り返し見られて便利ですし!
最後にはエンドロールまで!すごいなぁ、作りこんでるなぁ。
ん?
『脚本・監修 区長 大塩友之』!!
「これがやりたかったんや!」
恐れ入りました(笑)
ちなみに、こういった集落の住民が中心となって防災訓練などを行う団体のことを、自主防災組織と呼び、災害対策基本法でも規定されているそうです。
「消防団」もそれにあたりますが、半強制参加の古い文化や運営体制などが近年課題になっています。
そういう意味では、この佐野地区の取り組みは、自主防災組織の進化した形態と言えるかもしれません。
村づくりは人づくり!
今回は嶺南・若狭地域の一つの地区に焦点を絞って、ガッツリとお話を伺いました。
そこから感じたのは、昔ながらの行事や、そういったものを通して紡がれる人との繋がりの大切さ。
当たり前のことかもしれませんが、実際の取り組みを聞いて、それを深く感じました。
僕も大学生の時にそうでしたが、都会に住んでいると、隣の人のことを知らないというのが当たり前の世界です。
しかし、佐野地区は住民一人一人が隣の人を、いや、集落全体の人のことを知っています。
大塩さんは説明をしてくれる時に「これは〇〇ちゃんがやってくれたんや!これは〇〇くんのおかげやな!」と全て名前を出しながら説明をしてくれました。
これは本当に凄いことだと思います。
村づくりは人づくり。
嶺南・若狭地域の面白さは、こんなところにもあるのかもしれませんね。
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