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ゆめ

私はメモを書いていた。
たくさん書いて、疲れたので寝ると、夢のなかに遊園地があらわれた。

遊園地のコーヒーカップに乗り、ぐるぐると回る。
幼い日の私は、それが楽しくて仕方なかった。
いつしか遊園地の記憶は闇の中に消える。私はコーヒーカップから森に放り出された。夜の森のなかをさまよい歩き、泣いた。
いつのまにか大人になっていた。

「私は負けない」は気持ちを上げる時に使う言葉だが、私はよく負けている。
「強くなれ」は励ましのメッセージだが、私は弱い。

そんな言葉を自分に投げかけられない私は、夜の森から出たいと思った。
闇の中でも、周辺の花々がしおれているとわかった。光は見えない。

息を吸いたかった。
息を吐きたかった。
あの遊園地に、もっといたかった。

私は泣いた。子どものように声をあげて泣いた。闇の中には私しかいなかった。

大人の私は、泣き疲れて眠った。
そしてまた、夢を見た。
私はコーヒーカップの中で回っていて、投げ出されて……。

永久に繰り返される夢。
私は途中であきらめた。

「私は負けない。強くなる」

口にした瞬間、喉の奥が痛くなってうずくまる。自分の言葉が襲ってきたのだと思った。

私は再び起きた。子どもの姿だった。
コーヒーカップをくるくる回す。目の前には年の近い従妹がいる。
酔うだけだとわかっている年齢なのに、私たちはコーヒーカップをまわすのが楽しくて仕方なかった。

私は酔いながら、自分から暗い森に行った。
どうして。なぜ。私は。
空を見ると夕焼けが見えた。夜にならないうちに、戻らなければ。
わかっているのに足が動かない。

「私は負けるし弱いし、自信もない。大人になれば変わると思っていたのに」

つぶやいたら、また私は大人になっていて……。

「一度だけ選べた。従妹とコーヒーカップに乗って、回った時。だけどその時だけだったね」

誰かがつぶやいた。姿は見えない。
私は自分で決めたい。森に入るかどうか。
たとえ闇でも、あの人がいれば大丈夫だと思えた。

私はうなずき、一度森を出ると、あの人がいた。
私は手をひっぱり、いっしょに森に入った。森に朝がきた。

今度こそ本当に起きた私は、カーテンと雨戸を開ける。今日は快晴。
ふと隣を見て、「あの人」がいないと気づいた。

「選ばせて。私の未来、私がいちばん大切にしているもの、私は……」

「あの人」といたい。
二番目に大切なものを捨てても。
メモを再び書き始める。

朝日の激しいまぶしさに目を閉じると闇が満ちた。
私は目を開けて、太陽を見た。


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