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エンタメで失恋したら脳内補完をしよう

夢女子ではないので失恋という言葉はおかしいのかもしれない。
今回の記事は、「おっさんずラブ-リターンズ-」で、私の期待していたマイナーCP、黒澤武蔵と菊様について私が脳内補完で乗り越えたという内容だ。
ちなみに私はBL好きではなくOL好きだということは、はじめに言っておきたい。
とはいえ、まずは、
おっさんずラブ、帰ってきてくれて、ありがとう。
この一言に尽きます。


リターンズで動いたこころ

春田と牧の幸せを願い、視聴を始めた1月。
5年前の連ドラ(以降、S1)に次いで劇場版でも遠距離恋愛エンドだったふたりは、心の距離はどんなに近くても、夢を追う限り近くにはいられないんだなと感じた。
劇場版のシナリオブックを見るとプロデューサーや脚本家が、このふたりの関係の儚さについて書いていて、儚いからこそ私は春田と牧の恋愛に魅せられたのだろうと思った。
しかし5年の月日を経てふたりのこころは動く。
ビターな恋愛から、スイート・ホームに住む家族になったのだ。

うれしかった。それからもサービス満載で、どの話にも春田と牧の強い関係性を感じられた。若干、お腹いっぱいだと感じてしまったのも、幸せなことだった。

そして、客観性をもったことで、私のこころは他のところへ向かった。
春田をいまだに想い続ける、黒澤武蔵へと。

春田を想い離婚、退職をした武蔵

第1話で明かされた事実は重かった。
春田の幸せを願い黒澤武蔵(元部長)は退職をして、新しい家政夫という職を得て、春田と牧のスイート・ホームへと週3回来るようになったのだ。
武蔵は6年前は春田への恋心から30年連れ添った妻と離婚をしている。
武蔵の人生の後半は、思い切り、無意識のうちに本作のマドンナになっている春田にかき乱されている。

第何話からだっただろう。
私はハンカチを手に取った。
S2の春田はなぜか武蔵を父親扱いしているが、武蔵の心は春田にある。

「ただいま……」

妻と離婚した今、帰った武蔵を待ってくれる人はいない。
もちろん、離婚は武蔵から切り出したことであり、元妻の蝶子は何も悪くない。ただ、その切り出した理由は「はるたんといっしょに生きたい」だったはずだ。

世の中には、ひとりでいるのが好きなタイプと、そうではないタイプがいる。武蔵は後者である。

ひとりの部屋の寒々しさ。暗さ。
春田と牧のスイート・ホームと対照的だった。

武蔵を「お兄さん」と呼ぶ存在

まだ前半だったと思う。
S2の新キャラのひとりである、公安警察の菊之助、略して菊様と武蔵がいっしょにいるシーンが増え始めた。
60歳の武蔵は、38歳という若さにもかかわらず大変な思いをして生きてきた菊様をやさしく抱きしめ、菊様が自分の元教官で公安でバディを組んだこともある和泉に長期間片想いをしていることを知った時も労わるように抱きしめた。
菊様もそれに応え、武蔵にすがりついて泣く。

なんて健気なのだろう。

切ない菊様の様子を見て、私は一瞬にして菊様ファンになった。

菊様は親しみをこめて武蔵を「お兄さん」と呼ぶ。
自分の辛さを察してくれたのが嬉しかったのかもしれない。
バディだったころからいっしょに住んでいた和泉と菊様だったが、菊様はその想いを断ち切るため同居していた家を出た。
その時も、偶然会ったとはいえ、次の家が決まるまで身を寄せたのが武蔵の家である。

「ただいま……」
暗く寒い部屋に返る武蔵に、
「おかえりなさい!」
とあたたかい笑顔で出迎えた菊様のことを、私は昨日のことのように振り返れる。

実際、そんなに時間は経っていないのだが。

ふたりを結び付ける「糠床」。
さて、ミスリードがあったのはその直後である。
糠床を持っていた武蔵。二人は楽しく糠漬けを混ぜ合う。

そっとふたりの手が触れ合う。
「あっ」
思わず切ない表情になるふたり。

糠床ズラブが始ま……ったのか?
いや、糠床ズラブってなんやねん。

私の動揺をそのままにして、糠床シーンのあと、CMになる。
その後一週間、私がこの糠床ズラブのシーンを何度も見返したのは言うまでもない。

そう。
私はすっかり黒澤武蔵×菊様のCP萌えをするようになっていたのだ。
とてつもないマイナーCPであり、一部に「地雷」とまで呼ばれたこのCPに、私は希望を託した。
なぜなら、菊様とくっつけば武蔵はようやく春田のことを忘れられて、幸せになれると思ったのだ。

武蔵と菊様の良好な関係は続く

しかし、新しい住居の決まった菊様は出て行った。
その後もふたりはお裾分けをする良好な関係であり続け、危険な公安警察という仕事をする菊様に、自分が余命1カ月だと思い込んだ武蔵は、大切にしていた糠床をプレゼントする。

毎日、しっかりと混ぜなければならない糠床。
「あなたには帰る場所ができましたね」
ああ、菊様の帰る場所は武蔵ではないのだな。
そう感じた。

ところで菊様にあげた糠床は、その後登場せず、名前すらあがらなかった。
どこいってん、糠床。
ふたりの切ない思い出は糠床が覚えている。
今ようやく、私はそう思えるようになった。

実際、武蔵から菊様への糠床プレゼントからそんなに時間は経っていないのだが。

その後、武蔵が吐血したと聞いた菊様の動揺するシーンがあった。
しかし、このシーンを最後に、菊様と武蔵の関係性を示唆するシーンはなくなった。

和泉に告白した菊様。
和泉のこころは、前の恋人の秋斗→秋斗にそっくりの春田→ずっと一緒にいてくれた菊様に動いていく。
和泉は不動産会社では元公安らしくもなくぽやーっとしていたので、「いずぽや」と呼ばれていたが、私は「惚れぽや」だと思う。

一縷の望み

「好きでした」
菊様はそう言って、和泉に告白した。
過去形であることに、武蔵×菊様にドはまりした私は着目した。

それにこのまま和泉と菊様が結ばれたら、予想通りの結末になってしまう。
和泉に「おれも好きだ」と言われた菊様が、
「実はおれにはもう好きな人がいて……」
ジャジャーン!武蔵登場!!!

こんな展開もありうる。
しかし……私の最後の願いは潰えた。

春田には牧がいる。
それでは武蔵は、いつ報われるのか。
新キャラふたりが結ばれて終わりだったので、最終的におっさんずラブはS1から変わったことはなかった。

武蔵の幸せ

悲しくて、最終回を見た夜は寝つけず、夜中に起きて泣いた。
あんなにも武蔵にやさしくしてもらった菊様と、武蔵の会話するシーン。
それすら最終回にはなかった。
菊様にとって、武蔵はただの「お兄さん」だったのだろう。

大好きな春田に愛されない。
それでは武蔵の幸せは、どこにあるのか。

もうひとり、ひとりでは幸せを作れない男がいた。
春田の上司で武蔵の元部下、政宗である。

劇場版で武蔵×政宗の恋愛フラグはあったのだが、S2では見事になかったことにされており、武蔵は春田&牧の隣の家に住むことで、政宗は彼氏(おむつパートナーと本人は呼んでいた)ではなくペットと共に暮らすことで、ひとりではなくなった。

最後、ペットを引き連れて歩く政宗にわびしさを感じてしまった。
春田&牧のお隣さんになったとはいえ、武蔵はまたひとりで「ただいま~……」と悲しく帰っていくのか。

いや、そんなことはさせない。
私は脳内補完を始める。

脳内補完は、救いになる

公式でドラマの続編を作ってくださった皆様には、心から感謝をしている。
「春田と牧は、ずっと幸せでいるんだな」
その確信を持てたことは大きかったし、私も幸せだった。

ここからは完全に私が自分を癒す想像である。
武蔵と政宗のその後だ。
劇場版のフラグをなくしたからには、ふたりは幸せになるべきなのだ。

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リターンズ完結の1年後、「おっさんずラブ-リオーンズ-」という、若林プロデューサー、理央脚本と聞いたこともないふたりの制作者による短編ドラマが始まった。

まず和泉と菊様のシーンから物語は始まる。

和泉はほれぽやなので、何度か心は揺れる。
そんなほれぽやを見て、気が気ではない菊様。
ある日、家政夫の仕事から帰る武蔵に偶然会う。
「お兄さん!」
武蔵はあのころと変わらない笑顔で振り向いた。

「糠床はどうですか」
そんな話をしながら、今は春田&牧の隣にある家に着く武蔵。
「ひとりではね……ちょっと広すぎるんですよ」
そう言いながら、武蔵は春田&牧の家を見つめる。
「はるたんのことも、そろそろ忘れないとね」

その後、菊様はせつなげな武蔵のことがなかなか忘れられない。
和泉はそんな菊様を見て察する。
「お前を何年見てると思ってるんだ。行け」
いつか武蔵が春田に言ったその言葉を、和泉は菊様に投げる。

武蔵も菊様のことを考えていた。はるたん以降、こんなにほかの人を想ったことはなかった。
ピンポーン。
ドアを開けた武蔵の目の前に、「おかえりなさい」と言った時と同じ菊様の笑顔があった。

「え……」

「ただいま、お兄さん」

一方、春の訪れと共に新入社員が入社する。
営業所に配属になったある青年と、青年を指導しようとする政宗の目が合う。
それは運命の出会いと呼べるものだった。

運命の出会い。
それは、きっとある。
だれかといっしょにいたいなら、あきらめてはならない。

おっさんずラブ-リオーンズ-

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こうして脳内補完をして、私の心は落ち着いた。
書くことは良い。心の整理がつく。
ドラマの結末は自分通りになるとは限らない。
そんな時は脳内補完をしてほしい。きっと乗り越えられる。

私の「おっさんずラブ」卒業式でもあった。
制作の皆様、大変失礼をしました。




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