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今こそ思い出したいイラク戦争の開戦経緯

米中対立が深まっている。

単なるゴシップかと思われた「中国、武漢研究所からのコロナウィルス流出」について、今やアメリカ合衆国の複数の政府要人が公式にコメントし、賠償を求める訴訟を州政府が準備している州まである。

・トランプ米大統領、ウイルス発生源、武漢の研究所か調査

・米国務長官 武漢の研究施設など公開求める 新型コロナウイルス

・米ミズーリ州、新型ウイルス対応めぐり中国を提訴 中国は反発

米中対立はどこまで深まるのか。もしや、軍事的衝突にまで発展するのか。

その未来を占う格好の事例が、2003年のイラク戦争だ。

今後の米中対立の行く末を占うには、アメリカという国の特性、アメリカという国がパニックに瀕したときどのように行動するかを知っておかなければならない。その恰好の事例こそ、911から生じた一連の中東に対する軍事行動であり、イラク戦争なのだ。

イラク戦争開戦までの経緯を、今こそおさらいしよう。


911

2001年9月11日、NYの世界貿易センタービルが2機の旅客機の自殺攻撃により崩壊した。死者およそ3000人、負傷者6000人の大惨事。アメリカ世論は、一瞬で沸騰した。

ブッシュ大統領は即座に非常事態宣言を発令。攻撃はアフガニスタン、タリバン政権により匿われているウサーマ・ビン・ラーディン氏らによるものであると断定し、「テロとの戦い」を宣言した。

支持率が50%を切っていたブッシュ政権の支持率は一瞬にして暴騰。ブッシュ政権史上最高の支持率90%を超えるようになり、これは彼の8年に渡る長期政権と、その後の一連の軍事行動への強力な後押しとなる。

9.11からわずか37日後の10月17日、アメリカ合衆国とイギリスは「不朽の自由作戦」を発動。ウサーマ・ビン・ラーディン氏を隠匿している疑いのあるアフガニスタン政府に対して、軍事行動に踏み切った。

直接的な破壊活動に一切関わっていないアフガニスタン政府に対する開戦が決行されたのは、「テロとの戦い」における集団的自衛権の行使が正当化のロジックとして用いられたからだ。

その後、2020年現在に至るまでアフガニスタン紛争は継続しているが、アメリカを中心とするNATO軍だけで10,000人以上が戦死。アフガニスタン政府および諸軍事勢力の損害はその数倍、民間人への被害はさらに甚大なものになっている。

2001年のアフガニスタン攻撃には、1万トン以上の爆弾が用いられ、これは1941年にロンドン大空襲で用いられた爆弾投下量のおよそ50%に相当するが、それらの大規模軍事行動を正当化した理由があくまで「疑惑」であったことは記憶に留めておくべきだろう。

9.11以降、アメリカの「テロとの戦い」はさらにその激しさを増していくが、その軍事行動のほとんどが「疑惑」に基づいて発動された。それは国と国との正規戦争であるイラク戦争ですら、変わらなかった。


イラクの大量破壊兵器疑惑

2001年以降、「テロとの戦い」を宣言したアメリカの軍事活動は日に日にその勢いを増していった。「不朽の自由作戦」はその活動範囲を徐々に広げ、フィリピン、グルジア、ジブチ、エチオピア、ソマリアなどでも「有志連合」による軍事行動が行われた。

そしてその最大のものが、2003年のイラク戦争だろう。

その経緯を2001年の9月11日から、順を追って説明しよう。

まず2001年の9月11日に同時多発テロが発生。

2001年の10月17日にアフガニスタン空爆開始。

2002年1月29日には有名な「悪の枢軸」演説が行われる。北朝鮮・イラン・イラクの3国を「テロ支援国家」として名指しで批判し、特にイラクに対しては大量破壊兵器を所持している疑いが強いとして国連による査察を受け入れるように強く求めた。

あまり知られていないが、イラクは国連による査察を受け入れている。2002年末、4年ぶりに国連の全面査察を受け入れたイランは、膨大な量の武器報告書を国連査察団に提出した。

しかし戦争回避を目指すイラク政府の努力が実を結ぶことはなかった。

2003年、パウエル国務長官は「アメリカ炭疽菌事件」の報復としてイラクに報復攻撃を加えることを提言。アメリカ炭疽菌事件とは9.11の直後、炭疽菌が封入された封筒が複数の政府機関に送りつけられたバイオテロ事件だが、当時これは一連の当時多発テロと同一のテロ攻撃であるとみなされていた。

アメリカ炭疽菌事件の真相は、アメリカのクリスチャン・シオニストで微生物学者であるブルース・イビンズという男による単独の犯行であることが後に露呈したが、当時はイスラム系テロリストによる犯行と真剣に捉えられており、炭疽菌事件の報復としてのイラク攻撃を国務長官が真剣に提言していた時代だった。

・炭疽菌事件は自殺した科学者の単独犯行、米当局

「疑惑」だけが膨らみ、「疑惑」を根拠に報復攻撃が議論され、それが本当に実行された。

2001年-2003年のアメリカは、そのような狂気に陥っていた。

それを止める力は世界のどこ国も有していなかった。


開戦

2003年の3月19日、イラク侵攻開始。

開戦理由は

・大量破壊兵器保持の可能性
・アルカイーダと協力関係を結んでいる可能性
・国連査察の妨害

であり、一貫して「疑惑」のみを根拠に開戦の火蓋が切られたことになる。

「査察妨害」についても、4年ぶりの国連査察を受け入れた直後の宣戦布告であり、武力攻撃の理由としてはあまりにも正当性が薄いと言わざるを得ない。軍事機密の秘匿は国家の要諦であり、それを数か月という短期間であけっぴろげにする国など、世界中どこを探しても一国も存在しない。しかし、それが開戦理由として提示された。それが2003年のイラク戦争であり、アメリカという国の、国家という人間集団の持つ狂気だった。

その後の結末はみなさんも知っての通りだ。

フセイン政権は短期間で倒れたが、その後の占領統治は上手く行かなかった。

雲霞の如く反米武装勢力が誕生し、中東は混迷の渦に巻き込まれた。

根強い現地勢力の抵抗にアメリカ正規軍だけで対抗することは難しくなり、占領統治の一部を民間軍事会社にアウトソーシングするという暴挙まで行われた。2007年にはブラックウォーター社による民間人虐殺事件がが発生し、事実上の「傭兵」による民間人虐殺に世界はショックを受けたが、米政府とブラックウォーター社の契約はその後も延長された。

サダム・フセインは「人道に対する罪」により死刑判決を受け殺害された。

そして大量破壊兵器は見つからなかった。

2004年10月、イラクに大量破壊兵器は存在しなかったという最終報告書が提出されている。

過ちを犯すが、それを認める勇気を持つことは、アメリカ国民の一側面として記憶されるべきかもしれない。

「疑惑」のみによって始まった戦争は、結局、疑惑が誤りであったという結論で幕を閉じた。

そこで流された血は、決して「疑惑」などではない、本物の血だったのだが…。


合衆国の狂気

2020年に意識を戻そう。

本記事の冒頭でお話したように、現在、コロナウイルスの世界的パンデミックにおいて、そのウイルスが中国・武漢の研究所から流出したという「疑惑」が、アメリカ合衆国の複数の公人によってコメントされている。

中国・武漢の研究所に対する「査察の受け入れ」をアメリカは要求しており、今後もその圧力は続くだろう。

現在、アメリカではコロナウイルスによって既に5万人以上の死者が発生しており、超短期間に2600万人の失業者が発生している。これはアメリカの就業者数1億5千万人の内のおよそ16%であり、超短期間に失業率が16ポイント上昇したとみなすことが出来る。

9.11以来の大パニックが、それも、もしかしたら9.11を上回る超パニックが、現在アメリカを襲っている。しかもそれはアメリカ一国のパニックではなく、欧州や日本やロシアをも巻き込んだ全世界的パニックなのだ。

本当に中国・武漢の研究所からウイルスが漏洩したのか。

はっきり言って、それは本筋ではない。

今、我々が認識すべき事実は、狂気に陥った合衆国は、「疑惑」のみで他国に対する武力攻撃を行い得る、ということだ。それがイラク戦争に至る合衆国現代史から学びうる教訓であり、今世界が晒されている本当のリスクでもある。

パンデミックによる世界恐慌に対処する方法は、現実的にはケインズ的な大規模財政出動の一手しかなく、国内のインフラ整備をやり切ってしまった先進国にとって、もはや大規模な財政出動は戦費によってしか賄い得ないという背景もある。それについては以下の記事で詳しく論じた。

・コロナ恐慌は世界戦争を引き起こすかもしれない

米中衝突はどのような事態に発展するのか。

イラクとは違い、中国は「本当に」大規模破壊兵器を所有しているという背景はある。しかし、核兵器を所有し合う米国とソ連が、かつてベトナムの地において代理戦争を行ったのは歴史の事実であり、ホット・ウォーに発展しないという確証はどこにもない。

それどころか、本当に核戦争が生じないという確証もどこにもない。核兵器はかつて実際に使われたのだ。広島と長崎という、日本の、大都市において。

今後、世界はどうなるのか。

自分は、大規模な軍事支出による財政出動が各国軍部の影響力拡大を招き、10年・20年後のスパンではあるが、20世紀前半のような大規模な世界戦争が行われる可能性は高い、と考えている。

もちろん、このnote連載のタイトルは「狂人日記」であり、あくまで狂人の妄言と笑い飛ばして頂くのが筆者としてはもっともありがたい反応だ。

しかし狂気の時代においては、狂人の妄言こそが現実と化してしまうかもしれない。本記事にて書かれたイラク戦争開戦までの経緯を、正気の所業と感じるひとは決して多くないだろう。しかし合衆国はそれを行ったのだ。たった、17年前の出来事だ。

これから何が起こるのか。

自分はウイルスなどより、人間が人間に振るう暴力の方がよほど恐ろしいと考えている。


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