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第十話 お祝いと家族との団欒

獣神との契約を終え、肩に乗りそうな大きさのちんまりした狛と祭壇の間を出る。
父上は出入口付近で待っていてくれたのだが、落ち着きのない子犬のように出入り口で回っていたようで可愛らしい。
私は、父上の意外な一面が見れた事で緊張の糸が切れ頬を緩める。

「無事、契約は終わったようだな。桔梗も今日から獣士となる。これまで以上に精進するように。——よかったな」
最後の一言だけはいつもの威厳あるものではなく、一人の父親としての労いの言葉であった。

「父上のような、立派な獣士になります!—―っと。。お腹が空いたので昼餉にしませんか……?」
お腹の虫が『ぎゅるぎゅる』と音を鳴らし自己主張をする・・・色々と残念な締めくくりになったようだけど。空腹には勝てないんだよ!

父上と共にその場を後にし、昼餉の準備がされているであろう居間に他愛のない談話をしつつ移動する。

「父上。不思議に思ったことがるのですが……他の獣神を見かけないのはどうしてでしょう?」

「——ああ。それはだな」
そう言って父上は上を見上げてごらん。っと指をさして頭の辺りを見るように言った。

目を細め・・・じっと……凝らして見てみると?

「むむ。なんか銀色の狐さまがいるような……いないような……?」
見えるようで見えない、霞んだ様にぼんやりと狐の形が見えた気がした。

「桔梗は、まだ視る技術が乏しいようだな。とは言え獣神との契約が出来たからな。徐々に他の者の獣神も見えるようになるであろう」

どうやら視る能力は個人差があるようで、憑依する前の妖はもちろんのこと、獣神や獣徒などは霊的な存在である為、本来は見えない物なんだって。
獣神様との契約で霊的な繋がりを通すことで見やすくなるらしい。

「あとで、狛に聞いておくといい」そう父上は言ったので、まずは昼餉を済まそうね。

居間に入るとお味噌の香りが部屋中いっぱいに匂っており、私のお腹へさらに追い打ちをかけてくる。

今日のおみそ汁の具は茄子だな……っと予想を立てておく。
ふふっん。。何故かって?つい三日ほど前、集落からの献上品の中に入っていたからなのである。

「ふふっ。今日は特別な日だから。いつもより少し豪華にしようかしらね」
母様はご機嫌の様で、体を左右に軽くゆらり・・ゆらりと揺らしつつ、鼻歌交じりに昼餉の準備をしていた。

そうこうしている間に、正座待機している私の前に次々と食べものが運ばれてくる。
味見をしようと手を伸ばすが……

鋭い視線を感じ山菜に伸びかかっていた手を引っ込める。
あぶないあぶない。母様は後ろにでも目が付いているのではないか?
と疑うほどに四方を見ていることが多いんだよね。

『ぬーんっ』と眉間にしわを寄せて唸っていると。
ようやく揃ったようで父上の号令で昼餉が始まる。

「今日は、桔梗の獣神降臨の儀の成功を祝い。菖蒲が昼餉はいつもより数品足してくれたようだ。しっかり食べて身体つくりをしておくんだぞ」
『ぽんっぽんっ』と私の頭を撫でながら父上が祝いの言葉とは程遠い言動で、
この場を真冬の頬を撫でる風が荒れる夜のような空気にさせてしまう。

「父上、空気が悪くなっていますよ。僕からの祝いの品は先日渡した勾玉だ。大事に・・・丁寧に使ってくれ。失くしたら僕は泣くぞ!」
あれを作るのに全神経を使い精神が擦り切れるまで舐めるように細工したや
寝不足で学び最中に爺やに怒られたなどなど。
この兄は祝いの言葉ではなく、不幸自慢が混じっていることに気付いていないらしい。

「ハァ……ニイサマアリガトウゴザイマス」

私は深いため息をつきつつ、感情をが籠らない感謝の言葉を述べる。
気持ちが思っていないではないか!っと言われたがもう無視だね。

「こほんっ。桔梗様、儂は以前渡した刀とは別にこちらを数枚お渡します。本来は自身で材料を揃え作成するものですが、今回は特別ですじゃ。それと、本日はおめでとうございますじゃ」
爺やは口の端を緩りと馴染ませ、無地の札を十枚譲ってくれたのである。

これで独自の札を作るもよし、基礎使いするもよしと。そう言って爺やは改めてお祝いの言葉を言ってくれた。

「桔梗さん、私からはこの日記帳をお祝いとして渡すわ。毎日でなくてもいいから、その日の出来事を残しておくといいかもしれないわね」

母様は手作りの日記帳を私に渡しつつ『ぎゅっ』抱きしめてくれる。
その手は少し震えていた・・・私は母様の背に手を回し抱き着き。

「——母様、この日記帳は大事に……大事に綴っていきますよ」
私は『まかせてください!』と言わんばかりな自信たっぷりな笑顔で母様に感謝の気持ちを込めた。

さて、三人からのお祝いの言葉が終わった、これより私は、いつもより豪華なお昼を満喫するのである。

やはり味噌汁は茄子で、丁寧に皮を取っており食べる人の事を考えている。
ご飯はいつもの集落からのつやつやの白米であり、口の中で噛むほど栗のように甘くなっていく。

次、主菜は鶏の肉を麹でじっ……くり漬け寝かせたもので私の好物である。
母様の塩加減が絶妙で白米との相性抜群なのですよ!茶碗3杯はいけるね!

「モグモグ…今日も母様のご飯は美味しいですね!」
ふと、何かを忘れている事があることに気付き、箸と茶碗を卓に置き。

「そうでした。感謝の気持ちを述べていませんでした。父上、母様、爺や、ニイサマ……これからも桔梗のご指導のほど宜しくお願いします!」
そう言って和やかな食卓を締めくくる。

っと。明日は父上と集落に出向く予定だった。

「自分の目で守るべきものを見るのも大事だ。あと、人を探すのであろう?」っと言ってたけど難しいね。

私には、まだ守るものや信念がないので、小難しい内容だったな。
そう考えつつ、このまま皆で過ごせる事が一番の願い。そう思うのであった。

……狛って普通のご飯は食べないんだろうか?という疑問が浮かんだのは内緒である。


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