見出し画像

第十二話 遭遇

「桔梗、狛の扱いは慎重に。主の意向を示すのは良いが、善悪の区別が神には理解が出来ぬのだ。日夜対話を怠らぬようにな」
集落怪奇現象こと狛暴走騒動が鎮火されたあと、私は父上のながーい説教を受けつつ獣神の扱いに関してと日々の鍛錬の助言を受ける。

結果的には初めての友達が出来たので良しとする。
ちゃんと反省はしている。

次は起こさないはず――たぶん。

「精進します……父上?そろそろ帰るのですか?」

「少し遅れてしまったが、日が陰るまでに戻らんといかんな。妖どもは夜に勢いづく。当初の予定通り楽をして帰るぞ」

やっと楽に移動する方法を教えてくれるみたい。
ささっと帰れるなら力を出し惜しみする必要はないよね。

「石段の乱れなし、鳥居の注連縄も切れてないね。術式は。。。少し掠れてるように見えるけど、これで大丈夫なのかな……?」
私たちは念のため集落から鳥居までの安全を確認する。

術式の文様が一部掠れているように見えたので、父上に確認をして貰ったが問題はないとの事。とは言え、早い段階で修正はした方が良いかもしれぬ。と付け足した。

一通りの確認を終えた父上は、右手で刀印を形どり横に薙ぎ払いつつ唱える。

「では、獣神に騎乗し帰るとするか。——獣神招来じゅうみしょうらい!」

一瞬、靄のような霞がかかったように見えた場所に一匹の狐が姿を現していた。
その狐と狛との決定的な違いは、体毛が鈍く光る銀で瞳は赤褐色、尾は四本である。

「このお狐様が父上の獣神ですか。狛とは尾の数が違うのですね」

「狐の尾は力の象徴なのだ。数が多ければ多いだけ力が強い事になる」
中には隠している狐様もいるらしい。化かすのも狐だからね。

「——ふぅ……獣神将来!」

私は一呼吸あけ、狛を現世に具現化させる。
具現化した瞬間、天力かな?体から生気のような物が抜けていくような感覚があったが、まだまだ余裕はある。

父上が教えてくれたけれど、獣神を具現化させるには天力を一定量消費する。
これは個人差もあるが、慣れてくると効率よくできるようになるらしいよ。

で……一度具現化させてしまえば、それ以上の天力は消費しないとの事。
この状態であれば、獣神は誰にでも認知することが出来、乗って移動することや妖を狩る時などに大きな戦力となる。

具現化と言っても霊的な存在である為、万が一狩られたりしても死ぬことはないとの事。神様の体は便利そうだね!

ただし、契約時使用した媒介を破壊されるのだけは、何があっても防がないといけないと。父上は厳しく苦言した。
また言葉足りないな・・・・・・っと思いつつ。
そんな事は、まず起こりえないと断言はされたから頭の隅に寄せておこうかな。

「具現化は出来たようだな。獣神に乗り一気に駆けるぞ」

「よい……しょっと。狛お願いしますね」
二匹の狐は互いの主が乗ったのを確認し一歩、また一歩と足早に風を切り駆け始める。

——数分後

「‥は、はばぃかお……いだぃ…おちっ…る・・・しぬぅううう!」
狛の走りはとても……早く。風が空気の層となり私の頬や唇を震わせる。
まだ走り始め数分でこれである……何を思って楽なの!?

「ははっ。桔梗苦戦しているようだな。私も始めの頃はよく振り落とされたものだ。あちらこちらに痣を作ったものだ。ははっ」
狛をがっしり掴み振り落とされぬよう耐えている私の横目に、涼しい顔で言い放つ父上。。

父上!コツとか教えてくれないの!?

手を貸してくれそうにない父を恨みつつ、この状況を打破をする為に思考する。
狛とは霊的繋がりはあるのだから、あの騒動の時のように心に念じればいいのでは・・・?

――何とかするしかない!というか何とかしないと振り落とされて天に召されるかもしれない!

「‥狛、も……もう少しだけ、か・・・駆けるのをゆっくりにしてください。このままでは、私落ちちゃいますので・・・」っと狛にしがみつきつつ懇願するように念じる。

「ふぬ。久方ぶりの具現化で心躍っていたようだな。すまぬ」
そう思念をやり取りし狛は駆ける速さを落としくれる。

……主の意向を示す。って大事だね。

落ち着きを取り戻し周囲を見つつ来た道を駆ける。
集落へ向かう時は、かなり時間を要したけど・・・
帰りは早そうだね。

そう思ったその時――

「——桔梗止まれ!!」
父上が声を荒げ静止するよう促す。
冷静にゆっくりと留まるよう念じ、その場で狛を立ち止まらせる。

「父上……?何事でしょうか」

「林道の端‥‥何かいるな。妖か?」

遠目だがよく目を凝らして見ると、道の端の茂みが音を立てて蠢いているのがわかる。
その蠢くものが徐々に近づいて私たちの進路を阻むように

——それは眼前に姿を現す。

「……?――父上、ただの兎ではありませんか。脅かせないでください……?」
この兎何か変だよ。
黒く濁った体毛、一部ただれた様に腐り堕ちた皮膚
口からは涎を垂らし、目は赤く血走っている、兎のような何かだった。
とても可愛いとは言えない風貌に『ゴクリッ』と喉を鳴らし息を飲む。

「——これが妖!?」

私がそう確信した時、それは鳴き声とも悲鳴とも取れるような酷く耳障りな音を発し。私達へと飛び掛かって来るのであった。

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,828件

宜しければサポートをお願いします。。!創作小説等の費用に使わせて頂き、モチベーションに繋がります。。!