冷え症の末裔

彼は冷え症だ。寒いとあらゆる動きが鈍るので、毎年彼にあったかグッズを渡している。釣りにも使えるくらい暖かい手袋をお揃いで買ったら2日で無くしてきた。怒るとか呆れると言うよりその紛失の速さに驚いて笑ってしまった。1日あたり1500円の温もり。お疲れ様でした。

さらにその2日後には従来から使っていた手袋を片方無くしてきた。もう俺には手袋を使う資格は無い、手袋はもう要らない、と嘆いていた。

だが、毎朝10キロ近くの距離を自転車で出勤している彼なので、さすがに手袋なしはキツいだろうと思っていたら、案の定「手の感覚死んだ?」と思うくらいの冷たい手で帰ってきた。やばいね、買わなきゃね、と伝えていたら無くした従来の手袋の片方が見つかった。良かった。

私は冷え症とはわりと無縁でやってきており、比較的すぐ手足も温まる方だと思う。なので、先日彼と出掛けたとき、彼が手袋を2枚重ねて使っている内の1枚(めちゃくちゃ薄い)を借りて、私が使っている釣り用の暖かい手袋を彼に渡した。

帰って、手袋を外して、そっと手を握ると、彼の手が氷のように冷たかった。「…は?」と思わず声が出た。激薄手袋の私の手が温かくて、激温手袋の彼の手が氷のよう、って…マジなの…と思っていたら、彼が「本当はもっと冷たくなるところを、この手袋があったことでちょっと冷たい、くらいで済んだんだよ」と言った。冷たいの中にもランクがあるのか。でもこれちょっと冷たいとか言う次元なのか?と思ったがまぁ不毛なやり取りなので良しとした。

腕の良い弁護士は、10負ける裁判で、7の負けに抑えられる、と言うツイートを見かけたことを思い出した。釣り用手袋が、10冷たくなる手を、7に食い止めたと言うことだろうか。よく分からない。

別の日、足先から膝下まで覆えるルームソックスを彼が履いていた。寝る時間になったので、彼がそれを脱いだとき、何の気なしに彼の足を触ったら「…は?」という冷たさだった。

私が渡したあったかグッズたちは、10を7にするための道具であって、温もる、という役割は果たさないのだと悟った。冷え症恐るべし。

不憫な旦那さんに全額寄付します。