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【ショートショート】ポーズ指定される会議

 私の会社で行われる会議には少し変わったルールがある。会議室に入る前にくじを引き、そこで指定されたポーズで会議に参加しなければいけないのだ。
 だから例えば先週の会議での部長は両手を胸の前で握ってお祈りのポーズをしていた。「うちの部署は今が正念場だ。気合いをいれて業務をしていこう」と社員に渇を入れようとしたはいいものの、目をつぶってお祈りポーズで言われたものだから説得力ってものが微塵もなかった。
 

 このポーズ指定会議が導入された経緯というのは、会議中の緊張感をなくそうといった魂胆らしい。私としては会議中手持ち無沙汰になって、意味もなく資料をぺらぺらしたり、ホワイトボードを訳もなく眺める必要がなくなったから、その点恩恵を受けている気がする。


 最近気づいたことなのだが、このシステムにはちょっと変わったルールがあるらしい。そのルールというのも、くじの箱にあるポーズは社員が勝手に追加していいのだ。つまり、嫌な上司にとんでもなく情けないポーズをさせることが出来るし、美人でかわいい後輩にキュンとするポーズをさせることも出来ちゃうのである。
 ということで、先日私は思いつく限りの、ありとあらゆるポーズをくじ箱にいれてきた。

 会議がはじまる時間がやってきた。社員達がぞろぞろと会議室に移動する。当然むかつく上司もかわいい後輩も会議室に入りくじを引いていく。
 くじを引いた後輩の顔が赤らむ。これは、大当たりを引いてくれたのだろう。
 くじを引いた上司の眉間にしわが寄る。これは、情けないのを引いてくれたのだろう。
 もう、その二人の顔を見れただけで満足な気もするが、私も会議に参加する身である。しっかりくじを引かせてもらおうではないか。


 結論からいうと、私の計画は大失敗に終わった。むかつく上司は眉間にしわを寄せゴムを口にくわえてポニーテールをつくろうとしているし、かわいい後輩は顔を赤らめながらコマネチを必死にやっている。おまけに尊敬している先輩はプランクをやって終始プルプルしている始末だ。

 これは、完全に見立てが甘かったのだろう。普通に考えればそうだ。ポーズはくじで決まるのだから狙った人に狙ったポーズをさせるのなんて至難の業ではないか。
 そうやって反省している私はというと、土下座のポーズをしていた。

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