カオス化し過ぎな日本学術会議問題への雑感

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで

 最近は下火傾向になりつつありますが、それでも血気盛んな話題として日本学術会議の任命拒否問題があります。あれを見ていて率直の思うのは、一番最初に浮上した問題点・論点からそれ過ぎるとここまでカオスになるんだなという事です。今回は、これについて思う部分を書いてみたいと思います。

1.そもそも日本学術会議って何?

 日本学術会議の公式ホームページによると、日本学術会議について次のような記載があります。

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。

科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。日本学術会議の役割は、主に以下の4つです。

政府に対する政策提言 国際的な活動 科学者間ネットワークの構築 科学の役割についての世論啓発

 一部報道では研究者の国会とも言われる程の機関で、私個人の捉え方としてはシンクタンクのような機能なのかな?と捉えています。

2.今回の議論のスタート

 今の日本学術会議(以下、学術会議)の議論を見ていると、学術会議の体質だとか公費が入っている団体にしては提言数少ないやんとか、あるいは日本の軍事研究には否定の立場だけど中国の軍事研究には参画傾向の立場や日本学術会議が将来的に日本学士院の一員となれるためのステップとなっている等々、組織の体質やガバナンスといった元々の議論のスタートから反れまくっている印象が強く、逸らせば逸らすほど分けわからなくなります。そこで、今回の議論のスタートをここで書いてみます。

 前述しました通り、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われていて、210人の会員については日本学術会議法(以下、学術会議法)7条3項で任期が6年で3年毎に半数を改選するとなっています。そして、今年はその改選の年となっています。会員の任命にあたっては学術会議法7条2項で学術会議法17条の規定による推薦に基づいて内閣総理大臣が任命するという仕組みとなっています。ところが、今回の任命にあたって事前にリスト化された105人の内6人の研究者の任命を拒否したのです。下記画像は任命拒否された6人の一覧となります。

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3.疑問?なぜこの6人を任命拒否したのか?

 2.の中で説明した総理大臣の任命プロセスの中で登場する学術会議法17条にはこういう規定が書かれています。

日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

 今回任命拒否された先生の中で私がお名前を知っているのは政治学の宇野重規先生と歴史学者の加藤陽子先生です。お二人とも著作は豊富で実績十分な研究者という印象を持っていたため、どうして任命を拒否したのか?という部分が気になります。

4.憲法の視点その1~憲法第15条~

 今回の任命拒否を巡って、政府側が任命拒否の根拠として持ち出している法的根拠の代表例が憲法15条の規定です。日本国憲法第15条には次のように規定されています。

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。 4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

 東京新聞の記事によると、政府側が憲法15条を根拠として持ち出した解釈方法として、憲法15条は公務員の任免は国民の権利と定める。間接民主制の下で行政府のトップに立つ首相は公務員を任命したり、任命しなかったりできると説明するために、内部文書はこの条文を持ち出したと指摘しています。記事内ではこの前置きの上で、10月6日に国会内で記者会見を行った憲法学が専門の早稲田大学の長谷部恭男教授と同じく憲法学が専門の東京大学の石川健治教授のコメントを記載した。長谷部教授は、15条を「一般的、抽象的な理念を言葉にしている」として、実質的な権利を定めていないと説明し、「それぞれの公務員に即した個別の制度を見ないと、任命権の行使のあり方についてきちんとした結論が出てくるはずがない」と述べ、機械的に当てはめることは許されないと訴えました。また、石川教授は日本学術会議法という個別の法律に会員の任命に関する規定があるにもかかわらず、内部文書が憲法の条文を持ち出して説明していることを批判し、特別法が一般法に優位する原則を挙げて、今回の任命拒否は「法秩序の統一性、連続性を破壊する行為。極めて危険なことをやっている」と指摘しました。

5.憲法の視点その2~憲法65条.72条~

 先述した内部文書については、憲法65条及び同法72条にも触れていると紹介しました東京新聞の記事では触れています。東京新聞の記事によると、内部文書では、内閣の行政権を規定した65条、首相の指揮監督権を規定した72条に触れていて、学術会議の会員は国家公務員で首相の指揮監督権が及ぶ、という理屈立てのために使った条文だと記事では指摘しています。この点については、日本体育大の清水雅彦教授(憲法学)が「一般的行政機関と学術機関は性格が異なる。他の行政機関と同じような解釈はできない。一般の公務員に対する論理を、さまざまな公務員に当てはめていくと、同様の解釈が拡大しかねない」と指摘し、会計検査院や人事院など独立性の高い行政機関の人事にも悪影響を及ぼしかねないと東京新聞の取材に対してこのようにコメントしています。

6.憲法の視点3.~憲法73条4項~

 また、東京都立大学の木村草太教授がラジオ番組で憲法73条4号の視点を述べていました。憲法73条は内閣が行う事務領域を規定していて、4号にはこう記載されています。

法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。

 ここでいう法律とは、例えば国家公務員に関する事務に国家公務員法が用いられるように、今回の問題では学術会議法の定める基準という事となり、学術会議法17条では優れた研究又は業績があるという部分が登場するため、それ相応に任命を拒否した研究者の業績はけしからんと思って任命を拒否したという理由を説明しなければ正しい意味合いとしての辻褄が合わない気がしました。

7.終わりに

 他にも論点はありますが、当初のスタートとなる疑問点であるどうして105人の中から6人を任命拒否したの?という部分に対しての論点としては十分なのかもしれません。この疑問の解決無くして、今論点として挙がっている学術会議そのものの体質やガバナンスに係る議論へ走らせることは到底難しいです。

 また、あれだけ日本学術会議を疎ましいと政府が思っていながら、実は学術会議が提言した内容を実際に実行しているのです(話の本筋からそれるのでここでは詳しく述べませんが、それが如実に表れているニュースがこちらです   「卒業後3年以内は新卒扱いに」政府が財界に要請  )。

 こういった状況を鑑みても、まずはスタートとなった疑問点への違法性が無い明確な回答無くしてその先の話にはいかない代物で、違法性が無い明確な回答が無いからどんどんカオスになっているのが、学術会議をめぐる議論なんだと私は思います。

 皆さんはどうおもいますか?

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