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【No. 11 陸上短距離走選手において下肢の筋体積比は記録と関係する?】

<背景・目的> 
これまでの研究で下肢の筋量と短距離走パフォーマンスとの関係が検討されているが、研究間で結果は異なり、明確な結論は得られてない。この研究では、下肢各筋の体積に加えて筋同士の体積比にも着目し、短距離走パフォーマンスとの関連について検討を行った。

<方法> 
・対象者 
男性の陸上競技短距離走選手31名(100 mシーズンベスト記録の平均値:10.94 ± 0.39秒、10.23秒~11.71秒) 

・測定および分析 
1.5 TのMRI装置を用いて腹部から下腿部までの横断像を撮影(100 mシーズンベストを記録してから2ヶ月以内)。計12の筋または筋群(大腰筋腸骨筋中臀筋と小臀筋大臀筋縫工筋大腿筋膜張筋ハムストリングス、大腿四頭筋内転筋群[短内転筋、長内転筋、大内転筋]、薄筋腓腹筋ヒラメ筋)の体積を測定。

筋体積の絶対値、体重に対する筋体積の相対値、2つの筋(筋群)の体積比を計算し、100 mシーズンベスト記録との関連を単相関分析および重回帰分析により検討。

<結果> 
✓大腰筋、中臀筋と小臀筋、大臀筋、ハムストリングスの筋体積(絶対値)と100 mシーズンベスト記録との間に有意な負の相関関係(体積が大きいほど速い)が認められた。
✓大臀筋、ハムストリングスの筋体積(体重に対する相対値)と100 mシーズンベスト記録との間に有意な負の相関関係(体重当たりの体積が大きいほど速い)が認められた。
✓以下の筋体積比と100 mシーズンベスト記録との間に有意な負の相関関係(体積比が大きいほど速い)が認められた。
中臀筋と小臀筋の体積/大腿四頭筋の体積
大臀筋の体積/大腿筋膜張筋の体積
大臀筋の体積/大腿四頭筋の体積
大臀筋の体積/腓腹筋の体積
ハムストリングスの体積/大腿四頭筋の体積
ハムストリングスの体積/腓腹筋の体積

✓重回帰分析の結果、(大臀筋の体積/大腿四頭筋の体積)が、100 mシーズンベスト記録を推定する式に選択された。

<考察> 
短距離走において、大臀筋は滞空後期から接地中期にわたって活動し、推進力を得ることに貢献することが先行研究で示されている。一方、大腿四頭筋は下肢筋の中で体積が最も大きく、大腿四頭筋が大きいと下肢の慣性モーメントが大きくなってしまうため、股関節伸展時の角加速度が低くなってしまう。そのため、大臀筋の体積を分子とし、大腿四頭筋の体積を分母とする筋体積比が、100 mシーズンベスト記録を推定する式に選択されたのではないか、と著者は考察。大腿四頭筋を肥大させずに大臀筋の体積を増加させるトレーニング種目として、スティフレッグデッドリフトやグッドモーニングを著者は推奨している。

<結論>
陸上短距離走選手において、大腿四頭筋に対する大臀筋の体積比(大臀筋の体積/大腿四頭筋の体積)が大きいほど100 m走の記録が良い

<文献情報> 
Sugisaki et al. Associations between individual lower-limb muscle volumes and 100-m sprint time in male sprinters.
Int J Sports Physiol Perform 2018
https://journals.humankinetics.com/view/journals/ijspp/13/2/article-p214.xml