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【No.4 野球打者のスイングスピードと関係があるのは下肢・体幹のどの筋?】

<背景・目的>
これまでの研究では,野球の打撃動作において,股関節周りや体幹部の筋群がスイングスピードを高める上で重要な役割を担うことが明らかとなっているが,いずれも筋毎及び部位毎の評価はなされていない.この研究では,野球打者の体幹部,臀部,大腿部の筋横断面積を筋毎および部位毎に評価し,スイングスピードとの関連について検討を行った.

<方法>
・対象者
男性野球選手(年齢20.5±1.5歳,身長1.77±0.05 m,体重78.9±8.3 kg)
大学20名
プロ6名(プロ歴:2年以下)

・測定および分析
MRI装置を用いて,肩甲骨下角から両脛骨中央部までの横断像を撮影.体幹部では腹直筋外腹斜筋内側腹壁筋群(内腹斜筋および腹横筋),大腰筋腰方形筋脊柱起立筋,臀部では大臀筋,大腿部では大腿四頭筋(大腿直筋,外側広筋,内側広筋,中間広筋),ハムストリングス(大腿二頭筋,半腱様筋,半膜様筋),内転筋群(大内転筋,長内転筋)の横断面積を測定.体格の影響を考慮して比較を行うために,各筋の横断面積を体重の2/3乗で除した相対値を算出.さらに,左右の対称性を評価するために,それぞれの筋について投手側の横断面積に対する捕手側の横断面積の割合(%)を算出.
トス打撃中のバットとボールの運動を赤外線カメラで撮影し,インパクト直前におけるスイングスピードを測定.
※本文では上のように記載されていますが,Fig. 1の撮影画像から,脊柱起立筋には多裂筋を含んでいる可能性があります.

<結果>
✓この研究で対象とした体幹・臀部・大腿のほとんどすべて(捕手側の外腹斜筋・左右の腰方形筋以外)における横断面積の絶対値とスイングスピードとの間に有意な正の相関関係が認められた(r = 0.44-0.63,p < 0.05).
左右の内腹斜筋,捕手側の脊柱起立筋,捕手側の大腿四頭筋近位部と中間部および左右のハムストリングス遠位部における横断面積の相対値とスイングスピードとの間に有意な正の相関関係が認められた(r = 0.40-0.52,p < 0.05).
✓ハムストリングス遠位部における左右の対称性とスイングスピードとの間に有意な正の相関関係が認められた⇒捕手側のハムストリングス遠位部が投手側より大きい打者ほどスイングスピードが速い.
✓スイングスピードを従属変数とした重回帰分析では,捕手側の内腹斜筋および捕手側のハムストリングス遠位部の横断面積が独立変数として選択された(R² = 0.40).

<考察>
スイングスピードを高めるためには,体幹の角運動量や大腿部・下胴部への力学的エネルギーの流入量が重要であり,スイングスピードの速い打者はバットの回転を維持させるために大きな向心力が必要であることが先行研究で報告されている.内腹斜筋は角運動量の発生に,大腿四頭筋およびハムストリングスは力学的エネルギーの流入に,脊柱起立筋は向心力の作用にそれぞれ関与するため,各筋の横断面積とスイングスピードに関連がみられたのではないか,と著者は述べている.スイングスピードを高めるために,内腹斜筋およびハムストリングスを鍛える筋力トレーニングを著者は推奨している.

<結論>
野球打者の内腹斜筋,脊柱起立筋,大腿四頭筋,ハムストリングスの大きさがスイングスピードと関連している.

<文献情報>
谷中と森下:野球打者の下肢および体幹部の筋横断面積とスイングスピードとの関係,トレーニング科学,2020

https://drive.google.com/drive/folders/1qzKFEWVQ_fMAwgAzVdn3oG9nh9cIA86P