【No.1 陸上短距離走のエリート選手は下肢のどの筋が特に大きい?】
<背景・目的>
これまでの研究で陸上短距離走選手にとって重要な下肢の筋は報告されているが、国際的に活躍するエリート選手とサブエリート選手との差は明らかでない。この研究では、下肢の筋体積について、短距離走のエリート選手、サブエリート選手、非鍛錬者で比較し、筋体積と短距離走パフォーマンスとの関連について検討を行った。
<方法>
・対象者
男性陸上競技短距離走選手
エリート5名(100 mシーズンベスト記録の平均値:10.10 ± 0.07秒相当)
サブエリート26名(100 mシーズンベスト記録の平均値:10.80 ± 0.30秒相当)
男性非鍛錬者11名(身体トレーニングや競技スポーツに1年以上参加していない)
・測定および分析
3TのMRI装置を用いて、第12胸椎から踵骨までの横断像を撮影。計23の筋またはコンパートメント(筋のグループ)の体積を測定。下肢関節の5つの機能(股関節伸展、股関節屈曲、膝関節伸展、膝関節屈曲、足関節底屈)を持つ機能グループに分類し、それぞれに属する筋の合計の体積を計算。
<結果>
5つの機能グループのうち、股関節伸展筋群の体積(体重当たり)にのみ、エリート群とサブエリート群の間の有意な差(15%)が認められた。また、大臀筋・縫工筋・大腿筋膜張筋の体積(体重当たり)に、エリート群とサブエリート群の間の有意な差(大臀筋:25%、縫工筋:28%、大腿筋膜張筋:37%)が認められたものの、その他の筋・コンパートメントの体積(体重当たり)には両群間の有意な差は認められなかった。
股関節伸展筋群・膝関節屈曲筋群・大臀筋の体積(体重当たり)と100 mシーズンベスト記録との間に有意な負の相関関係(体積が大きいほど100 m記録の値が小さい⇒速い)が認められた(股関節伸展筋群:r = −0.560、膝関節屈曲筋群:r = −0.522、大臀筋:r = −0.580)。
<考察>
大臀筋は、短距離走中のスイング後期からスタンス中期に活動し、大きな推進力の獲得に貢献することが先行研究で報告されている。本研究の結果から、体重に対して大きな大臀筋を持つことが、エリートレベルの速い走スピードを達成するために重要である、と著者は指摘。短距離走のコーチや選手に対して、パフォーマンスを高めるために股関節伸展筋群、特に大臀筋の体積を増加させることを著者は推奨している。
<結論>
陸上短距離走のエリート選手は、股関節伸展筋群、中でも大臀筋が特に大きい。
<文献情報>
Miller et al. The Muscle Morphology of Elite Sprint Running. Med Sci Sports Exerc. 2021
https://journals.lww.com/acsm-msse/Fulltext/2021/04000/The_Muscle_Morphology_of_Elite_Sprint_Running.16.aspx