僕と猫と居候
酷く苦しい。圧迫された肺で無理やり呼吸をしている感じだ。
これが心霊体験と言うものなのか。
どうしたらいい、どうしたら・・・。
と、そこで僕は目が覚めた。
目に入ったのは猫のマロ。僕の胸の上にちょこんと座り、いつもの調子で、「なー。」と鳴く。
マロは僕の部屋で寝ていたはずはないのだけれど。
「正人、起きたの?」
キッチンの方から詩織の声がした。マロを抱きかかえると、ベッドを降りた。
「マロ、僕の部屋に入れたの詩織?」
「だって全然起きないんだもの。私が部屋に入るわけにはいかないでしょ?だからマロに頼んだのよ。」
僕はため息をついて、とりあえず冷蔵庫の水をコップに注ぎ、一杯一気に飲み干した。
「何作ってるの?」
「外を見ればわかると思うけど?」
イタズラ顔でそう言う。ああ、そうゆうことか。
窓から外を見ると、雨が降っている。詩織の好きな降り方。ポツポツでもなく、ひどい降り方でもない。霧のような雨が、しとしとと降っている。
「今日の降り方はとても素敵。そう思わない?」
詩織は雨が好きだ。幼い頃からそうらしい。雷でテンションが上がる友人がいるが、そんな感じだろうか。
「さぁ、もう少しで準備できるわ。後は?」
「分かってるよ。僕がコーヒーを淹れたらいいんでしょ。」
「ふふ、分かってるじゃない。よろしくね。」
これでよし、と小声で言うと、マロのところへ彼女は行って抱き上げた。
「もう少し待とうね。お父さんがコーヒー準備するまでね。」
「誰がお父さんだ。この居候め。」
マロはなーと鳴くと、彼女の胸の中でゴロゴロとくつろいでいる。
「お父さんは意地悪だねぇ、こんなに可愛い奥さん候補がいるのに。」
相槌をうつかのように、マロが鳴く。
マロは、猫なのになぜか、にゃーと鳴いたことがない。子猫の時からだそうだ。
こんな日常を今過ごしていることを、半年前の自分に教えてやりたい。
そう、忘れられない、半年前のあの日のことを。
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