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ぐるぐるバームクーヘン

食べるときの癖がある。

例えばミルクレープ。どうしても縦にフォークが刺せない。上の段から一枚ずつ剥ぐように食べてしまう。

例えばあんぱん。外側のこんがり子ギツネ色に焼けた表面の皮(耳?)の部分から食べて、"はげパン”にしてから食べてしまう。バターロールしかり。

例えばチーズおかき。99.7%の確率で、上のドーナツ型のおかき部分とチーズの乗ったおかき側に分けて食べてしまう。サンドクッキーしかり。

そう、簡単にいうとかなり幼稚な、遊ぶような食べ方をしてしまう。もういい大人だから、もちろん誰かと一緒の時にはしないのだが、一人で食べるときには今でもやってしまう。


その中の最たるものがバームクーヘン。

バームクーヘンは一枚ずつ剥がしながら食べるとかなりの時間をかけて食べられる。だいたいは半分くらいの厚さになるまで一枚ずつ食べて、残りは豪快に口へ放り込む。ちまちま食べるのが好きなくせに、しっかりその味も楽しみたい、我儘な私にぴったりのおやつだ。

一度手づくりをしたことがあるが、あのお菓子は悪魔の食べものだと思う。バターの量も砂糖の量も、とにかく桁違い。だからこそあの背徳の味が完成するわけか……、最近ではデパ地下にも侵食している。バターたっぷりの甘い香りが漂わせ、食事前の空腹をあざ笑うかのように刺激してくるあのお店。

店内で焼き上げているから、タイミングによってはまだほの温かい、焼き立てのホカホカのものが食べられたりする。店頭では試食のお皿を持ったスタッフの女性が「おひとついかがですか?」と、にこやかに楊枝に刺さったそれを手渡してくる。洋酒の香りがぷうんと立ち昇る、いかにも太りそうなそれを、「どうも」と受け取る。一枚ずつ剥がして食べたい衝動に駆られながらも、パクりとひと口で頬張る。

美しい層が重なるまん丸のアイツをひときれ持ち帰る。お気に入りの器に移して紅茶を淹れながら、ぼんやりこの癖について考えていた。

私には10歳年の離れた兄がいた。そういえば、彼が普通にものを食べていた記憶がまずない。

外出しがちな両親に代わり、おなかがすくと兄がキッチンでフライパンをあおる。何かしら作っては「これはお母さんに内緒だぞ」と、声を潜めて得意げに分けてくれた。だいたいは脂にまみれた豚バラ肉だったり、テカテカとした茶色いタレがどろりと掛かっていたりして、いかにもしつこそうな、でもものすごくごはんに合う何かだった。大人には秘密の体に悪そうな味だった。

そんな兄も、チョコレート掛けのバーアイスを口にするとき、例外なくチョコレートを剥がして食べてから、中のバニラアイスを溶かすようになめていた。大好物の六花亭のマルセイバターサンドも片側のクッキーにクリームをすくって食べるし、誕生日に祖母が買ってくれたショートケーキだって、イチゴだけ全部私に食べさせてから、自分は生クリームとスポンジだけ食べていた。

兄とともに過ごす時間が長かった私は、きっと無意識に真似をすることで忙しい両親との時間を埋めようとしていたのかもしれないな……と今なら思う。猫に育てられた犬が、猫のような仕草をするように、兄への忠誠の気持ちを食べ方で表していたのかもしれない。

そんな兄妹の証を胸に、今日もせっせとバームクーヘンを外側から一枚ずつフォークで剥がして食べるのだ。



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