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暗闇で漫才「耳で楽しむ漫才ライブ」

3月16日(土)新潟市の巻文化会館で日本初の試みが行われた。
前半は照明がついた状態で普通に漫才を行い、後半は真っ暗闇で漫才を行う。出演者も観客も何も見えない。舞台に出る時はマイクの裏に貼られた蓄光テープを目印に歩いていたらしい。

このライブは、
「障害者の方に向け、障害者の方の世界で、お笑いライブをやろう」
「障害者の方以外にも、障害のことを考えるきっかけにしてもらおう」
という、主催者の思いから始まった。

会場には白杖を持つ方や盲導犬を連れている小さい子供から年配の方まで多数来ていた。

視覚障害者の方とその介助同伴者は完全招待で駅からの無料送迎も用意。招待枠の人数制限は設けず、費用は各社の協賛やクラウドファンディングで賄った。
点字のパンフレットも用意し、会場には誘導スタッフを配置。会場側からは盲導犬用のトイレも用意された。

全盲でお笑いライブに初めて来た観客の1人はインタビューでこう答えている。

「出演者が言葉で笑いを伝えようとしているのを感じた。涙が出るくらい面白かった」と笑顔だった。

共同通信より

この日の模様を見て聞いて感じたことを書き残しておきたいと思う。


開演

会場はほぼ満席に近く、全体的に年齢層は高い印象だったが小さなお子さんもちらほら。
前列は招待客席。音や気配をより近くで感じてもらいたいという配慮だと思う。
テレビ局のカメラも数台来ていて開演前のロビーでインタビューを受けている人も見かけた。

開演のアナウンスの後に主催者である株式会社ホイミの代表が登場して挨拶。
観客やクラウドファンディング支援者への礼を述べた後、このライブへの思いを語った。

その中で特に印象的だったのがこの言葉。

“「ホイミ」というのはドラクエで最初に覚える魔法で体力を少しだけ回復することができる。
見える人も見えない人も今日は一緒に笑って、少しだけ元気になって帰ってもらいたい。”

挨拶が終わると幕が開き、ステージの上にはドラクエの背景のような煉瓦造りの塔のパネルが左右に立っていた。
出囃子もドラクエの曲のようだった。

前半(明かりのついた漫才)

通常通りの漫才ライブが始まるが、目の見えない方への配慮も見受けられた。

トップバッターきしたかのは拍手の練習をしたり、まずは会場をあたためた。
通常のお笑いライブで漫才師は「顔と名前だけでも覚えていってくださいねー」と言うが、今日は「声と名前だけでも」に。自分たちの容姿を言葉で説明したり、2人の頭を叩いた時の音の違いでたかのさんのハゲ具合を伝えようとする姿は見えていてもおもしろい。

キュウはいつも通りの漫才だったように思うが、あのゆっくりとした口調と間の取り方がこのライブにとても合っていたように思う。聞きやすく、聞き入ってしまう。主催者は「動きやビジュアルよりも言葉のやり取りで笑いを取るタイプのコンビ」を選んだと言うが正にその通り。

三四郎は相田さんが小宮さんの声真似をして舞台の上に小宮さんが2人いる「小宮過剰」状態が発生。初めて三四郎の声を聞いた視覚障害者の方にはどんな風に聞こえていたのか気になる。

三拍子のつかみはいつもより若干ゆっくりめに喋って聴かせることに配慮していたような気がする。1本目のネタは久保さん大河出演、高倉さん喜怒哀楽、動物うんちく、早押しクイズ。
大河出演で「おぉ〜」と声が上がったり、動物うんちくでは「へぇ〜」と感心したりする観客の反応がとても新鮮。隣のご婦人は早押しクイズで久保さんが答えを言うたびに「えっ?」と驚き、その後高倉さんが問題にすり寄せると笑っていた。

ウエストランドは登場するなり万雷の拍手。井口さんがステージを下手から上手まで練り歩き客席に手を振り、観客も両手を振って大喜び。その後も毒舌漫才で観客を笑わせた。

ナイツは塙さんが「巻文化会館で漫才をするのが夢だったんです!今日その夢が叶いました!」と言った直後に「巻ナントカ会館で」とボケ、土田さんが「もう忘れてるんじゃねえか」とつっこみ観客の心を一気に掴む。1本目は鳥山明先生逝去のニュースを受けてのドラゴンボール漫才。最後に暗闇では誰にも見えないのを良いことに好き勝手にやるようなことを示唆。

後半(暗闇で漫才)

公演中における諸注意のアナウンスの後、一切の明かりが消された状態で幕が上る。何も見えない。
いつ2人が舞台に出てきたのかマイクの前にたどり着いたのかも分からないので「どうもー」で拍手が鳴り始める。
何組かは「全然見えない…」と不安そうに歩いていた。

きしたかののネタが始まってしばらくはトイレ休憩から戻ってきた数名がスタッフに案内されて途中入場。場を繋ぎながら「ゆっくりでいいですよー。気をつけてくださいねー。」と声を掛けて待つ2人が優しかった。
漫才でたかのさんがタバコに火をつけて吸う仕草を全て声で表現し、ハッとさせられた。
見えないとこういうさりげない表現も伝わらないことに初めて気がついた。考えたこともなかった。

キュウの漫才はまた違ったおもしろみがあった。何も見えない中で2人の声だけがハッキリと聞こえる。より聞き入ってしまう。
2人の表情や動きが見えないので、いつ何を言うかが全く予測できない。真っ暗闇で次の発言を待っている間の少しの不安と、予測を裏切られた言葉が発せられた瞬間のおもしろさ。

ラストのオチでなぜか観客が拍手をしてしまい、暗闇の中でぴろさんの「拍手をするなーー!!!」という大声が響いたのもおもしろい。  

キュウの漫才を聞いて、知らず知らずのうちに演者の表情や口の動き、仕草で次になにを言うか予測しながら見ていることに気付かされた。

三四郎はまたもや相田さんが小宮さんの声真似をする一幕が。見えない状態だと本当に小宮さんが2人いるような錯覚を覚えておもしろかった。
ネタの中で相田さんが騒いでいる様子を大きめの足音が左右に移動していく様子で表した。
見えなくても表現方法はいくらでもあるのだと思わされた。

三拍子はど忘れ漫才を新潟県民にすり寄せて(ウエストランド井口さん談)アレンジ。
マリンピア日本海、笹団子、花角知事、忠犬タマ公、山古志の牛の角突きなど地元民にはお馴染みの単語が幾つも飛び出す。漫才そのものもおもしろいが馴染み深い単語が出てくるたびに「そんなものまで!」と思って笑ってしまう。
なぜかはわからないが三拍子の漫才が一番暗闇を感じさせず、明るい場所で見ている時と変わらない感覚で見ることができた。


ウエストランドは暗闇で観客の姿が見えないのを良いことに井口さんが「全ハゲ」を何度も連呼。河本さんが「ハゲてる人は暗闇でもハゲてる」と一言。目の前にハゲてる人がいると言いにくいが、見えないから言いやすかったらしい。

ナイツは序盤から塙さんが「お父さん辞めてくださいよ。ポ○○ン出さないでください。」と暗闇を楽しみ始める。最後もチャックを開け閉めし「○○○○を仕舞おう」と言うが土田さんに「チャックの音をマイクが拾ってない…」と指摘されていた。一番のベテランが一番暗闇を楽しんでいたように思う。

エンディング

全出演者が登壇し舞台がパッと照らされる。暗闇に慣れていたせいかとても明るく感じた。
出演者も同じだったようで「眩しい」と口を揃える。

エンディングでは暗闇での漫才の感想を語る。
ナイツ塙さんは「ラジオで毎週時事漫才をやっているから、途中からその感覚になった。」とのこと。中腰で膝に片手をついて話していたらしい。

三拍子久保さんは暗闇を楽しんでいたらしく、舞台上を歩き回って高倉さんの側を離れ不安にさせていたとか。2人ともピンマイクをつけていたので全くわからなかった。

ウエストランド井口さんはここで初めて自分の身長が低いことを明かし「自分で言いたくないよ!」と愚痴る。
容姿ネタも見えない世界では成立しない。
声だけだとどんな印象を持つのだろうか。
多分だが、河本さんは声が低くて美声だったのでものすごくダンディなイケオジだと思われていそう。

最後は客席をバックに記念撮影。

お笑いはテレビで見るものだと言うイメージが根付いている地方の人々にとって、お笑いライブに行くこと自体ハードルが高い。(そもそも公演数も少ない。)

視覚障害を抱えている方々にとっては尚更ライブに行って楽しむことが難しく思えてしまうのではないだろうか。

終演後、出入り口では次回開催に向けての募金箱が置かれていた。一口500円からと言うことだったが、お札が何枚も詰め込まれていて千円札1枚入れるのにも少し手間取るほどだった。
それだけ、来た人は楽しみ、第二回目に期待を込めているのだと思う。

募金箱の近くでは盲導犬を連れている女性が笑顔でスタッフさんにお礼を伝えているようだった。

見えても、見えなくても、同じ場所で同じ漫才を見て一緒に笑って楽しむことができる「耳で楽しむ漫才ライブ」

主催者の強い思いとそれに共感し協力した関係者や支援者の方々、そしてどんな場所でも観客を笑わせることができる漫才師が集まったからこそ成功したのだと思う。

ニュース映像や記事(追記)


お笑いライブのバリアフリー

“見えても、見えなくても。
同じ場所で笑おう。一緒に笑おう。”

これは「耳で楽しむ漫才ライブ」のフライヤーに書かれている言葉だ。

お笑いライブに通い始めた頃、階段を使う会場が多いことが気になった。雑居ビルの地下でエレベーターも使えず、会場は狭くて段差があったりする。

足の悪い人はどうしているのだろうと思った。たまたまかもしれないが、よほど大きな会場以外では車椅子の方や杖をついた方を見かけたことは無かった。
各種劇場やライブ主催者のサイトを見てもバリアフリーについて書かれているところは少ない。
吉本のような大きな劇場か、自治体が運営している劇場くらいだった。

もし障害が理由でライブに行きにくかったり、行くことを諦めていたりしたら、とてももったいないことだと思う。

また、私は今のところ目も見えるし耳も聞こえる。歩くこともできるが、この先何がどうなるかは誰にも分からない。

現状どうなってるか詳しく把握しているわけでは無かったが、お笑いライブ会場のバリアフリー化はもう少し進めても良いような気がした。

とは言え、一個人に何が出来るかもわからないし、そもそもバリアフリーが何なのかもよくわからないのが正直なところだった。

そんな時、今回の「耳で楽しむ漫才ライブ」出演者の三拍子が単独ライブを開催するためにクラウドファンディングを行っていた。2年前のことだ。

リターンの一つが「支援者が希望するテーマで漫才を作る」というもの。
私は以前から三拍子の教養系漫才(時事漫才の一部や知る漫才シリーズ)が好きで、高倉さんが「どんなものでも漫才にします。」と意気込んでいたので、思い切って依頼。

その結果、作っていただけたのがこの「バリアフリーってなに?」という漫才。

「バリアフリー」の辞書的な意味の説明から始まり、何が本当のバリアフリーなのか、私たちに何が出来るのかを笑いながら考えさせてくれる。

何もできなくても考えて意識することで変わることもあるかもしれないので、一度見てほしい。

どんな人でも気軽にお笑いライブに行けるようになれば良いと思う。


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