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#6 サプライズ禁止事件

2022年4月の出来事。
彼の誕生日に合わせて飛行機に乗った。
でも…正直そこまで気乗りはしていなかった。
辛い思いをすることがわかっていたからだ。

通常のカップルの誕生日の祝い方について、
皆様はどのようにお考えだろうか。
大切な人と一緒に過ごすのであれば、
2人きりで過ごしたいと考える人が多数じゃないかと思う。

でも、彼は違った。
自分の誕生日だから「10時間配信をする」と前もって宣言していた。
もちろん、私に相談なんてない。
「誕生日、10時間配信することにしたから、そばにいてくれない?」
と言われた。
正直、心の内では「え…?」と思った。

10時間配信をするということは、たとえその間そばにいたとしても、音も立てちゃいけない、喋ってもいけない。
そんな中で異性とコラボしているのも聞かなければならない。
私以外の沢山の人から祝われて、嬉しそうにしている彼を見ていなくちゃいけない。
私にとってはとても酷な現場だというのが安易に想像できた。

そもそも彼のファンなのだとしたらそれも受け入れられたかもしれない。
だが私は違う。配信者としての彼を好きになったわけではない。
リアルの彼を好きになったのであって、ファンでも何でもなかった。
むしろ配信者としての彼は嫌いだった。
だからこそ、かなりのストレスを感じていたのかもしれない。

しかし、その時間をずっと楽しめないでいたら、きっとまた彼の機嫌を損ねてしまうに違いない。息苦しい空間にはしたくない。
それなら、彼が喜んでくれそうで、且つ私もリスナーの立場になって楽しめるプレゼントをしようと思った。
そこで思い付いたのが、彼と仲の良い人たちからのボイスメッセージを集めて、サプライズでプレゼントするというものだった。

毎日の通話の中で配信のことを話さない日がないぐらい、配信にどっぷり浸かっている彼。
彼の交友関係を聞き出すのは、容易いことだった。
ボイスメッセージを録音してくれそうな人たちに連絡を取り、総勢40人以上の声を集めることができた。
それを何日もかけて繋ぎ合わせて一つの作品にし、誕生日当日、プレゼントすることに、全精力を注いだ。

その中で少し困ったことが起きた。
それは、彼が仲良くしていると言っていたうちの一人から、ボイスメッセージを貰えなかったことだ。
「参加します」と参加表明はしてもらったものの、いっこうにデータを送ってこないまま、締め切り日を過ぎてしまった。
私から締め切りのメッセージを送ったりもしたが、返事はないまま。
でもその人のSNS自体は動いていた為、スルーされているのは明らかだった。追いメッセージをするのも気が引けたので、ここは諦めることに。
これが後に大きな引き金になってしまうとは思いもしなかった。

10時間配信、私は必死に耐えた。
お昼から24時までの配信だったと思う。
日付が変わって「おめでとう」を一番に言うことはできても、やはり誕生日当日、一緒にいるようで心は一緒にいないのがとても寂しかった。
私よりも配信が大切なのだと、ひしひしと感じていた。
狭い部屋の1Kで、ひたすら配信を続ける彼。
隙を見ては外に出て時間をつぶし、家の中にいる時はドアを隔てて、玄関にずっと居させられたりして。
飛行機でしか会えない距離で、会える時間も限られているのに、こんな時間の過ごし方はとても悲しかった。
彼が楽しそうにしている声を聴くと泣きたくなるから、イヤホンの音量を上げて、ひたすら音楽を聴きながら、彼の誕生日が過ぎるのを待った。

そして配信が終わり、とうとう、サプライズを届けることに成功。
彼はとても喜んでくれた。
「ありがとう」って言ってくれて、その一言で私の気持ちは十分に満たされた。

さて、問題はここから。
誕生日を過ぎた5日後。
「あれ?俺が仲良くしてるアイツは?声かけなかったの?」
と急に聞かれた。
「いや、声かけたんだけど、断られちゃってね。」
この一言がすべての始まりだった。
「…なんでそんな大事なことを俺に黙ってたんだ。」
「…え?」
大事な事…?
いや、そもそもサプライズなんだし、それは私とその人との問題であって、あなた自身の問題じゃなくない…?だから伝えなかったんだけどな、と私は思った。
断られたのは私であって、彼自身ではない。
それをなぜ誕生日の日に伝える必要があったのだろうか。

「…アイツ、最近配信にも顔出さないと思ってたけど、裏でそんなことがあったのか。そりゃ顔出しにくいよな。」
これを聞いたとき、私は思わず言ってしまった。
「ちょっと待って。それも私のせいなの…?」
私の説明をちゃんと聞いて欲しかったのだが、スイッチが入ってしまった彼には何を言っても通じない。次第に何も言えなくなってしまう。
「お前は俺がどれだけリスナーを大切にしているのかわからないのか?」
「たった一人のリスナーだとしても、俺にとってはかけがえのない存在だってこと、俺の配信聴いていればわかるだろう?」
「お前は俺の配信を何だと思ってるんだ。」
「俺の名前を出してボイスメッセージを集めたわけだから、俺に報告する必要があるに決まっているだろう。」
「勝手に人の交友関係に土足で踏み込んで、いい加減にしろよ。」
「お前ホント自分のことしか考えてないんだな。」
「もう5日も経ってる、とりあえず謝ってくるわ。」
「お前のせいでよくわからない事で謝ることになるんだからな。」
「もう二度とサプライズなんてするな。」

私はただ、泣くしかなかった。
そして、もう二度とサプライズをしないと心に決めた。
10時間耐えたあの時間も、結局無駄に思えた。

こんなことがあっても尚、彼から離れられなかったのは、
「この恋を最後の恋にする」と、そう心に決めていたから。
私は意地になっていたのかもしれない。

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